第27話 ベッソウチ

「はい! ルティア様たち王族の皆様が所有している、別荘地へ行くんです!」


アメリアの興奮気味な口調の言葉に、ルティアたちは一瞬フリーズしてしまう。


なにせ、試練を与えた張本人のグランツが休暇を取れなどと言ってくるとは思ってもいなかったのだから。ルティアは、疑心暗鬼な状態でアメリアに問い返す。


「アメリア……? 本当に、お父様が休暇を取れと言ったの?」

「はい。はっきりとそうおっしゃっていました。それに、別荘地には連絡済みだそうです」


大きく頷くアメリア。ルティアはアメリアの「別荘地には連絡済み」という言葉を聞いて一瞬嫌そうな顔をすると、頭を抱え始めた。


「お父様……隙が無いわ。周りから囲っていく作戦ね。これでは私たちに行きたくないとは言えないじゃないの」


その一連の流れを後ろで見守っているイーサンたち。しかし、全員が見守っているだけというわけにはいかない。


一つ気になったことがあるマリアは椅子から立ち上がるとルティアの隣にアメリアと向かい合う位置に立った。


「あの、一つ質問したいことがあるです。良いですか?」

「はい、何でも」


笑顔で頷くアメリア。そのアメリアの笑顔に返事をするかのようにマリアは控えめに微笑むと、質問を始める。


「その休暇を取っている間、試練の解決作業をすることが出来ないです。そこについては、どうおっしゃっているですか?」

「その件に関しては問題ありません。グランツ様は、この休暇に行く一週間分は試練の期限を延ばしてくれると言っていました」

「そうですか。それなら、大丈夫です!」


マリアは頷きながら、ルティアの方に視線を向ける。


少し期待するような視線を向けられてしまっては何も聞かないまま嫌だとは言えないルティアは、一度ため息をつくと、アメリアに問う。


「それで……? どこに行くの?」

「私たちが行くのは……グリーンヒベルデ地域です!」


アメリアの笑顔と一層弾んだ声が王宮の中庭に響き渡ったのであった。



***



 そうして、ルティアたちは休暇を取ることになり、それから一週間が経った。


この日は捌月下旬。ルティアたちはグランツの手配通りグリーンヒベルデ地域へとやってきていた。


「わぁ……! 風が気持ちいいです!」

「本当ですね。久しぶりのグリーンヒベルデ地域、懐かしい雰囲気がします」


マリアとオスカーの二人は目の前に広がる広大な草原にはしゃいでいる。ここ、グリーンヒベルデ地域は農業が盛んな地域。帝都からも近く帝都の食材のほとんどがここでつくられたものだ。


また、農業の他にもアクセサリー作りが盛んで、かわいいアクセサリーがいっぱいだと人気の町でもある。


「でも、本当に久しぶりですね。前に行ったのはルティア様が七歳のときですよね?」

「えぇ。私、あっちの草原で駆け回っていたのを覚えているわ」


ルティアも最初こそは乗り気でなかったが、いざ来てみると久しぶりの別荘地、うれしくなってきていて、内心でははしゃぎたいという気持ちも出てきている。


「ルティア様が前に来たときは、どんなことをやったです?」

「えーっとね、ここの地域の定食屋さんでお昼ご飯を食べたり、町に出てアクセサリーを買いに行ったりしたわ。あのときのもの、まだ残っていると思うわよ」


マリアの問いにうれしそうに答えるルティア。前に来たときのことがより鮮明になってきていて、人に伝えたい気持ちが出てきているのだろう。


「あ、ルティア様! 見えてきましたよ!」


前にいたオスカーはこれから泊まる予定の王族用別荘が見えたため、ルティアの方に振り向く。


マリアもルティアたちのことを急かすようにジャンプをしている。


「そうね! 先に行っていても良いわよ! 門の前で待っていてちょうだい!」

「ありがとうございます! なら、先に行っていますね!」


オスカーとマリアは駆け足で別荘へと向かっていく。


マリアの足の遅さは変わっていないので、オスカーがマリアに合わせて走っている状態なのだが、はしゃいでいるからなのか足の遅さはあまり気にならない。


そんな走って行く二人の様子を後ろで見ているルティアたち。気になったことがあったイーサンは、このタイミングでルティアに話しかける。


「それにしても、良かったんですか? 王族用の別荘なのに、俺たちも呼んでしまって……」

「い、良いのよ。お父様が良いと言っているのだし、いつも助けてもらっているからそのお礼よ」

「……なら、良いんですけど」


最後の言葉だけぼそっとつぶやいたイーサン。そんなイーサンにルティアは少し顔を赤くしながら微笑みかけた。


「ルティア様、早く行きましょう!」


先に行った楽しそうな二人を見ていて早く行きたくなってしまったアメリアは、ルティアに声をかけて早く行けるように促す。


ルティアはそんなアメリアを微笑ましく思いながらもしっかりと頷いた。


「そうね。早く行きましょう! ほら、イーサンとアーサーも!」


二人の手を引っ張ってアメリアの元へと引き連れていくルティア。四人も早く行こうとマリアとオスカーの後を追う。


 ——しばらくして、ルティアたちは無事に合流し、無事に別荘へと辿り着いたのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

オ:オスカーです。

マ&オ:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?

マ:別荘へと着いた私たち。

オ:早速町で遊びに行くことにします!

マ&オ:第28話『マチヘ』。

マ:皆様、見てくださいね!

オ:マリア様、かなりはしゃいでましたね。

マ:……オスカー様こそ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る