第26話 ナツ、テイアン
「失礼します!」
バン! という勢いのある大きな音とともに入ってきたのは、あの日どこかへ行ってしまって行方不明になっているはずのグレン。
中で待っていたアンドレアは足を組みながら椅子に座っているだけなのだが、どこからか威厳が感じられる。
「アンドレア様、こちらが面会を希望していた少年です」
「グレン・ブラッドリーと申します。今日は、アンドレア様にお願いがあってこちらへ馳せ参じました」
アンドレアの前に立ったグレンはクラークに紹介をしてもらうと、深々と頭を下げる。
アンドレアは何かを見極めようとしている様子で、いつも以上に強い目力でグレンを見ていた。
「それで? どんな願いだ?」
「はい……。実は、私をユニオンの仲間に入れて欲しいのです」
「……は?」
いきなりの要求に、ついつい聞き返してしまうアンドレア。口をあんぐりと開けていて、先程までの強気な態度はすっかり消え去ってしまっている。
「ですから、私をユニオンのメンバーにしてください。私は、役に立つことの出来る場所にいたいと考えています。
ユニオンのメンバーにしていただければ、ルティア殿下たちの事もお伝えすることが出来ます。どうですか? 皆様にとって、悪い話ではないと思うのですが」
自信ありげな瞳をアンドレアに向けているグレン。アンドレアは、入ってきたときの態度と打って変わったその態度に、少しだけ押され気味になってしまった。
「ま、まぁ……そうだが。お前が皇女様のスパイではないという確証はあるのか?」
仲間にするかしないかの判断材料を得るため、とりあえずスパイなのかどうかを聞くことにする。
スパイであればその場には居づらそうな顔をするはずのグレンの表情は、逆に自信満々な顔になった。
「えぇ、ルティア様のところでは私は必要ないと、この間の戦いの際に実感したのです。だから、ルティア様たちから少し距離を置いていました。そこで、考えたんです。どうしたら人の役に立てる人間になれるかを」
「……それで?」
「だったら、こちらで自分のことを鍛えていきたいと思い、扉を叩くに至りました」
真剣な瞳をしているのに、自分たちの事を理解せずここに来ていることにいらつき始めてしまったのは、横で聞いていたクラークだ。
「お前! 俺たちの目的も何も知らないくせにそんなことを言うな!」
「クラーク。
殴りかかりそうになっていたクラークを制止するアンドレア。困惑していた目からその提案に乗っかるという意思の込められた目に変わっていた。
「お前の言いたいことは分かった。では、しばらくこのユニオンのメンバーの見習いとしてここに置こう。そこで仲間として受け入れるかを判断する。それでどうだ?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます!」
笑顔が明るいグレン。そんな笑顔とは裏腹に、アンドレアはどんな風に利用するかを考えていたのだった——。
***
訓練を終えた次の日。ルティアやイーサン、マリア、オスカー、アーサーの五人は中庭に集まって訓練内容の報告会を開いていた。
イーサンたち三人組は報告済みで、現在はルティアとマリアの二人が報告をしている。
「それでね、マーレイ先生から教えてもらって、私の魔法具には第二形態があるって事が分かったの」
「「「第二形態??」」」
「えぇ、そう。ちょっと待ってて。今出すから」
そう言って立ち上がるルティア。そして、魔法具に少しだけ魔力を込めると腕輪型だったはずの魔法具の形が変わり、ルティアの背と同じぐらいの高さの杖に変わった。
その杖の上部には、大きな三日月に星形の飾りのようなものが付いている。
「ルティア様、魔法具が変形しましたね!」
「そうなの。今までは第一形態でやっていたから、少しだけ大きな威力の魔法を使うときに体への負担が大きかったんだけど、この形態でやったらかなり軽減されてね。ホント、早く見つけられれば良かったわ」
オスカーの少し興奮気味な言葉に頷くルティア。イーサンやアーサーも杖に変わったことに驚き、もうすでに見たことのあるマリアはニコニコとその様子を見つめていた。と、そんなとき。
「ルティア様〜!」
遠くからルティアの名を呼びつつこちらに駆けてくるアメリアの姿が見える。やがてこちらに辿り着くと、ルティアの目を見て話し始める。
「ルティア様、グランツ様から伝言を預かってきました」
「お父様から?」
「はい。毎日試練のために働いていて大変だから、一週間別荘で休暇を楽しんでこい、との事でした」
「休暇を……楽しむ!?」
「はい」
当然のようにアメリアは頷く。しかし、その場にいた人間でアメリアの他に驚かなかった者はいなかったのであった。
つづく♪
〈次回予告〉
ア:アンドレアだ。
グ:グレンです。
ア:次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?
グ:ルティア様たちが別荘地に着いた頃のお話です。
ア:第27話『ベッソウチ』。
ア&グ:ぜひ、見てください。
ア:よし、グレン君。ユニオンの初仕事はこれで終わりだ。
グ:はい! ありがとうございました!
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