第25話 イッポズツ、マエヘ

 魔法学園での訓練が始まって一時間ほどが経った。現在、ルティアとマリアは火魔法の応用を習っている。


「ルティア様、そこは指先に集中してください。魔法具に集中していても威力は増しませんよ。マリアは的に集中です! 少し中心から外れていますよ!」

「「はい!」」


集中力を更に上げるルティアとマリア。今やっているのは手のひらの周りに小さな火のボールを出現させ、一気に飛ばす魔法。


実はこの魔法、学園に通っていた頃もやっていた魔法なのだが、その当時一回に出していたボールの数は三個。


しかし現在は七個以上出せるように訓練をしている。ボールの個数が増えれば増えるほど難易度が上がる、かなり難しい魔法なのである。


「お二人とも、良くなりましたよ。それでは、そろそろ休憩にしましょうか」

「「は、はい」」


一時間ほどの密着訓練で魔力をかなり消費したルティアたちは、息切れをしながら頷く。


休憩に入るタイミングを狙っていたアメリアは、ルティアたちの元に駆け寄った。


「ルティア様、マリア様、お疲れ様です。お水を用意しました」

「ありがとう、アメリア」

「マーレイ様もいかがですか?」

「じゃあ、ありがたくいただきます」


アメリアが用意した三つの水の入ったカップをそれぞれが取っていく。


三人はほぼ同じタイミングでカップの中身を全て口に流し込むと、アメリアが差し出したおぼんの上にからになったカップを乗せた。


「それにしても、お二人とも上達されていてびっくりしました。学園を卒業しても努力を続けられていたんですね」


マーレイは、生徒の成長を喜ぶ暖かい微笑みをルティアとマリアに向ける。褒められてうれしい二人は、少しだけ顔を赤らめて微笑んだ。


「でも、マーレイ先生には足下にも及びませんよ」

「そうです! マーレイ先生のこと、一生超えられないと思っているくらい尊敬してるです!」

「そんなことはないですよ、二人とも、かなりよくできています。それにあともう一つ」

「「?」」


マーレイの「もう一つ」という言葉に首をかしげる二人。しかしマーレイの目は、ではなくルティアの事を捉えた。


「ルティア様、その魔法具で威力の大きな魔法を使う際、使いづらいと感じているのでは?」

「え、なんでそれが……?」


驚きで目を見開いているルティアに対し、やっぱりというようにため息をつくマーレイ。一歩分だけルティアに近寄る。


「魔法を使う際、以前よりも体に負担がかかっているように感じまして。

初級や中級の魔法は使えているので壊れている訳ではないと思うのですが、ルティア様のご趣味である魔法研究を続けるのであれば、もう一つ新しい魔法具を用意するのがよろしいかと」


ルティアの目をしっかり見つめながら話すマーレイ。しかし、ルティアはマーレイの目から自分の魔法具に目を向け、左手で触れた。


「それでも……この魔法具を使っていたいんです。これはお母様の形見ですし、これ以外の魔法具を使ってしまうとお父様もお母様も悲しみそうだな、って」


それは、親からのプレゼントを大切にしようとする娘の姿。そんな健気な態度と寂しさを含む瞳を見てしまってはもう新しい魔法具を用意してはと言う気が失せてきてしまった。


「少し、その魔法具を見せていただいてもよろしいですか?」

「え? あ、はい」


もっと強くなれるのに、というちょっとしたルティアへの期待を違う面で生かせないか探るために、マーレイはルティアの魔法具を見せてもらうことにした。


もちろんマーレイのことを信頼しているルティアは、さっと魔法具を手渡す。


「ありがとうございます」


そういうと、ジッと魔法具を見つめるマーレイ。二分ほどだろうか、しばらく見つめていたマーレイは、何かを発見したような表情をルティアに向けた。


「ルティア様、この魔法具、第二形態があるみたいです」

「……え?」


あまりに突然の言葉に、とぼけた返事をしてしまったルティアであった。



***



 そしてこちらはルティアたちが後を追っている反社会的組織・ユニオンの拠点。


リーダーのアンドレアは自分の部屋の中にある机で、部下たちの報告書を読んでいた。と、そこに部屋のドアを叩く音がする。


「アンドレア様、お忙しいところすみません。アンドレア様に面会をしたいという者が来ているのですが」


アンドレアが信頼する部下のクラークの声だ。


普段はもう一人の信頼されている部下であるシリルがこういうことを担当しているのだが、今日は運悪く出かけているため、クラークが対応しているのだろう。


アンドレアは書類から目を離すと、クラークに問いかける。


「面会をしたいというのは誰だ?」

「それが、皇女様側にいた、シリルが調査に行ったときの少年でして……」


アンドレアは、皇女様側、つまりは王宮側の人間と聞き、考える間もなく答える。


「よし、その者を連れてこい」

「はい、分かりました」


クラークの返事の後、少しバタバタとした足音が去って行く。しばらくして再び足音が今度は2人分になって出てくると、部屋のドアが勢いよく開いたのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

オ:オスカーです!

イ:イーサンだ。

オ&イ:次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

オ:姫様たちも俺たちも訓練を終えてから数日後のこと。

イ:執務室にいると、提案がされる……。

オ:第26話『ナツ、テイアン』

イ:……見てくれ。

オ:イーサン様、剣を使ってるときの方が話していません?

イ:……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る