第24話 チカラノタメニ

「「マーレイ先生!」」


ルティアとマリア、二人の声が響き渡る。満ち足りた様子の二人は、先生の方へと歩み寄った。


「お久しぶりです」


彼女たちがマーレイ先生と呼び慕っているこの女性は、マーレイ・クーリエ。クーリエ子爵婦人で、さらさらとした茶色っぽく短い髪が印象的な人だ。


彼女はルティアやマリアに魔法を伝授した先生であり、この二人に限らず多くの生徒から尊敬されている。


評判の通り、すごい魔法の才能の持ち主で、魔力量がそんなに多くないのにもかかわらず高位魔法を使用することが出来る。


そしてそれが、魔力量であればルティアやマリアの方が上なのにも関わらずなかなか勝つことのできない理由だった。


「お久しぶりです、マーレイ先生。お元気でしたか?」

「えぇ、それはもちろん。ルティア様は、少し強くなられました?」

「え? 本当ですか!?」

「えぇ。ルティア様の魔力量、かなり増えていますので。もちろん、マリアもですよ」


素敵な笑顔を振りまくマーレイ。もちろん予想していなかったマーレイからの褒め言葉にルティアもマリアも顔を赤らめた。


「そうだったら、うれしいです。マーレイ先生みたいに素敵な魔法を使えるように、頑張りますね」

「私もうれしいです! マーレイ先生は、私たちの目標です!」


先生と生徒の笑顔が溢れるこの空間はほっこりとしたとても素敵な空間となったようだ。


アメリアも三歩ほど離れたところで静かに見守っている。再会の話に花が咲き始めたところで、マーレイは手をパンと叩いた。


「じゃあ、お任せいただいている訓練、はじめさせていただいてもよろしいですか?」

「「はい! よろしくお願いいたします!」」


マーレイの問いに、ルティアとマリアの威勢の良い声が響く。こうして、ルティアとマリアの訓練は開始のベルを鳴らしたのだった。



***



 一方、こちらはイーサンとオスカー、そしてアーサーの三人組。この三人は剣術を学ぶために騎士団の訓練に参加していた。


しかし、予想以上のスパルタ訓練だったため、アーサーは開始十五分ほどで音を上げており、エイダンに習ったことのあるイーサンやオスカーですらも久しぶりで少し疲労が溜まってしまっていた。


「やっと休憩ですね……」

「あぁ。久しぶりのスパルタ訓練、さすがに疲れる」

「は、初めてやったけど、これはヒドい。……イーサン様も、オスカー様も、ついて行けているだけすごい」


三人とも、辛そうな顔をしながら地面に座り込む。ルティアの護衛騎士であるオスカーですらも疲労感でいっぱいになってしまうようなエイダンのスパルタ指導に体中が痛い。


そんな訓練を受けたアーサーが死にそうな顔をしているのも頷ける。


「それにしてもアーサー様、前までは魔法の訓練をされてましたけど、なんでいきなり剣での戦いを鍛えようと思われたのですか?」


腰をさすりながらオスカーはアーサーに目を向ける。視線を向けられたアーサーは、口から溢れるほどの大量の水を口に流し込むと、自分の手に目線を移し、ぎゅっと強く握った。


「魔法では……戦いで役に立てないと思ったから」

「それは、どういうことですか?」

「あの戦いの時……俺は何も出来なかった。イーサン様に全部任せて。……グレン様も、同じ気持ちになったんだと思う。でも、俺はここを出て行く気は無いから……もっと、強くなりたい」


そう語るアーサーの目には、強い決意が見える。そんな強い意志を悟ったイーサンとオスカーは、頑張ろうと努力するアーサーの姿に安心感と感心をいだいた。


「そうか。なら、こんな訓練でスパルタだとか言ってられないな」

「そうですね。アーサー様も疲れは取れたようですし、僕たちも休憩している場合ではないですね」

「……え?」


イーサンとオスカーの二人はすっくと立ち上がる。先程まで疲れたと言っていたのが嘘のように、やる気に満ちた表情だ。


二人が立っても未だに座っているのはいつもの様子からはあまり想像できない、目を丸くしたアーサー。きょとんとした表情で二人の顔を交互に見ている。


「アーサー様も、強くなりたいのであれば訓練を再開しますよ」

「あぁ、強くなるためには訓練が重要だ」


そう言うと、イーサンとオスカーは剣を握って訓練場の真ん中へと素振りをしに走って行く。取り残されたアーサーはあきれ顔。


「あのお二人も、スパルタだよな……」


乗り気がしないながらも剣を握り、イーサンたちのところへ合流するアーサー。疲れなど吹き飛んでしまうほどのやる気で訓練を始めたのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

ア:アメリアです!

マ:マーレイです。

ア:マーレイ様、今回は訓練を引き受けてくださってありがとうございます。

マ:あ、そんな。大丈夫です。私も密かにルティア様たちにお会いするのを楽しみにしていたので。

ア:そうなんですね!

マ:はい。あれだけ魔法の才能のある子たちは珍しいので。

ア:それでは、次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

マ:今回の訓練の続きのお話と、今までのお話を少ししたいと思います。

ア:第25話『イッポズツ、マエヘ』

マ:次回も見てください!

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