第22話 ケツイ
ドタドタという荒い足音に、途中途中に聞こえてくる叫び声やうめき声。ルティアたちが家族団らんをしていた頃、それらの音が王宮内で響き渡っていた。
庭に向けてどんどん音は近づいてきているのだが、遠いようでルティアやグランツ、ノエルとその護衛たちは気づかない。そのまま楽しい会話を続けている。
「おかあさま! あっちのほうににかわいいおはながありました! いっしょにみにいきましょう!」
ルティアは精一杯の力でノエルの手を引っ張る。ノエルも最初はちょっとした意地悪で抵抗してみていたのだが、結局ルティアの必死な姿には抗うことができず、ルティアの望み通り一緒に行くことになった。
「ほら、おかあさま! このおはな、きれいでしょう!」
ノエルを引っ張って行きつつ目的の場所に辿り着くと、ルティアは一輪の花を指さす。
愛らしいピンク色の花だ。かわいい花を咲かせつつも力強く地面に生えており、とても心強い。
「本当、かわいいわね。このお花、確かアルメリアっていう花よ」
「……あるめりあ?」
「そう、アルメリア。花言葉は……えっと、『思いやり』だったわね」
「おもいやり……!」
ノエルの言葉にうれしそうに反応するルティア。二人は向き合うと、二人とも顔をしわくちゃにして微笑み合う。家族の幸せをグランツは微笑ましそうに見つめていた。
——しかし、そんな優しい雰囲気を壊すかのように、事は起こったのだ。
「皇族め!! 覚悟しろー!!」
黒服の男と同じく黒服に包まれた女性が入ってくる。手には二人とも剣を握っており、入って一番に目についたルティアへと襲いかかってきた。
「きゃ……」
怖さで動くこともできないルティア。目を見開いたまま、足を震わせてその場から動こうとしない。ノエルは危機感に襲われる。
(ルティアが危ないわ! 守らなくては)
焦ってしまっているノエルは良い考えを導き出せず、ルティアの前に飛び出るとルティアを庇うように抱きしめる。
その途端、グサッという不吉な音と、辛そうなほんの一瞬の声が響き渡る。そのときルティアの視界には、飛び散る赤い液体とグランツの慌てる顔、そして早々と退散していく黒服たちが映った。
次の瞬間、ノエルはルティアの前でバタンと倒れる。青白い顔をしており、息もほとんどしていない。
「おかあさま!? おかあさま!?」
「ノエル!! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
庭にはルティアとグランツのノエルに向けて声をかける姿と、周りで驚き慌てるメイドや護衛たちの姿があった。
しかしながら、そんな皆の頑張りも届かず、翌日ノエルは息を引き取ったのであった。
***
(やっぱり、あのときあそこで私が動ければ良かったのよ。なんで動けなかったのかしら)
どんどん涙があふれ出てくるルティア。ずっと辛そうに膝を抱えたままだ。
「もう、私はどうすればいいの……?」
ルティアが何をすれば良いのかさっぱり分からなくなってしまった。そのとき、いきなり風がびゅうっと入ってくる。
「姫様!!」
ルティアが顔を上げると、窓を開け、枠のところで器用に立っているイーサンがいた。
「い、イーサン!?」
「姫様、何を弱気になっているんですか? 姫様は、姫様のやりたいことをやればいいんです」
「だ、だって……」
もうすでに涙で顔がぐちゃぐちゃになっているというのに、更に涙があふれ出てくる。
辛そうに涙を流すルティアを見て、窓のところに居続けるのではなく近くに行こうと決めたイーサン。窓枠から降りると、ルティアの目の前に寄ってくると、ルティアの肩に手を添える。
「姫様、皇后陛下は姫様を守れて良かったと思われていると思いますよ。皇后陛下に申し訳ないと思うのなら、姫様が笑顔で過ごしていることこそが皇后陛下を一番安心させることができます」
「で、でも……だって……」
「姫様! そんなに皇后陛下を守れなかったことを悔やむのであれば、あなたが人を守れる皇帝になってください!」
「え……?」
イーサンの言葉に顔を少しだけ上げるルティア。イーサンはよりルティアに目を合わせようと更に顔を近づけた。
「姫様が国民全員幸せな生活を送れる国をつくるんです。そうしたら、皇后陛下のように悲しい亡くなり方をする人はいなくなる。だから、姫様が人を守るんです」
「人を守れる、皇帝……?」
「はい」
力強く頷くイーサン。イーサンの真剣な目を見たルティアは、少しだけ考え込んでから涙を拭く素振りを見せると、大きく頷いた。
その瞬間、黒い雲だらけだったはずなのに一瞬にして雲は去り、綺麗な空へと早替わり。
「……そうね。私、人を守れるようになりたい。お飾りの皇帝じゃない。ちゃんと国のことも民のことも考えられる皇帝になりたいわ」
「はい、そのいきです。姫様」
優しく微笑みかけるイーサン。その微笑みに、ルティアはドキッとする。
(何かしら、この気持ち……? 今、イーサンにドキドキしているわ。もしかして、これが……恋?)
ちょっとドギマギし、顔を赤らめながらもイーサンに微笑み返すルティア。これからの生活に影響しそうなことの自覚をしてしまったのだった。
***
「ルティア様!」
部屋から出てきたルティアに抱きつくアメリア。他のメンバーもルティアの元に寄ってくる。
「皇女殿下、よかったです。部屋からでてこれたですね!」
「えぇ、イーサンのおかげなの。みんなも心配してくれてたのよね。ありがとう」
「いえ。ルティア様」
マリアやオスカーが笑顔を浮かべる。アーサーも性格からあまり話していないが照れくさそうに笑っていた。
「みんな、聞いて欲しい事があるのだけど、良いかしら?」
「「「「はい」」」」
「ありがとう。
私ね、今まで皇帝になりたいと言ってもどんな皇帝になるかは決めていなかったのよ。だけど、今回の事で決めたわ。人を助けられる皇帝になるって。
だから改めて、みんなに力を貸して欲しいの。お願いできるかしら?」
ルティアが深く頭を下げる。すると、優しげにルティアを見守るような表情をしたマリアが一歩前に出てルティアに手を差し出す。
「頭を上げてくださいです。みんな、殿下について行く気満々なんですから」
「マリア様……」
「そうですよ! ルティア様。僕だって、ルティア様の味方です」
「俺も……力になる」
「オスカー、アーサー様……!」
うれしさでまた涙が出てきそうになるルティア。そんなルティアに同感の意を示すため、イーサンはルティアの肩に優しく触れ、微笑みかけた。
うれしそうなルティアの顔を見て、マリアは更に会話を続ける。
「ですから、皇女殿下。私やグレンのことも呼び捨てで読んでくださいです。私も、ルティア様と呼ぶですから」
「も、もちろん、俺のことも……」
更にうれしさがこみ上げてくる。再び涙が出るかと思われたが、ルティアは満面の笑顔でなんとか涙を振り払った。
「えぇ。マリア、アーサー!」
「「はい! ルティア様!」」
三人が真ん中で、そしてそれを見守っている形でイーサン、アメリア、オスカーが立っている。六人は全員満面の笑みを浮かべた。
その後、全員の顔を順番に見ていたルティアはふと気がつく。
「そういえば、グレンがいないような気がするのだけど……」
「あぁ、そうでした! ルティア様、グレン様がこの場にはいられないと言って出て行かれてしまわれたのですが」
「……そう。ならば、グレンも探さなくてはね。道のりは、長くなるわ」
「はい、必ずグレン様を見つけ出して、その上であなた様を皇帝にしますので」
「えぇ。イーサン、よろしくね。それから……マリア、アーサー、オスカー、そしてアメリア」
「「「「「はい!!」」」」」
暗くなりかけていた城の廊下に希望と自信に溢れた返事が響き渡る。
この日が、ルティアたちの再出発の日なのであった——。
第一章、おわり♫
第二章へつづく♪
〈次回予告〉
ル:ルティアです!
ア:アメリアです!
ル:第一章が終わりました!
ア:次回からは、第二章に入りますよ! 強い決意を固めたルティア様と、より結束が高まった私たちの団結をぜひ見てください!
マ:それにしても、グレンはどこへ行ったでありましょうか?
ル:ま、マリア!?
オ:そうですね〜。グレン様のことですから、よく考えての行動だと思いますが……。
ア:やっぱり、気になる。
ア:オスカー様に、アーサー様!?
イ:まぁ、考えて行動しているのなら、俺は何も言うことはない。
ル:い、イーサン……。
ア:ルティア様、次回予告をお願いします!
ル:え、えぇ。次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は?
第23話『ツヨキチカラヲモトメテ』。
ル&ア:第二章も、見てくださいね!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます