第20話 タイリツ

 オスカーとマリアの二人組は、剣を握るクラークとの戦い。


主にオスカーがクラークと剣で戦い、マリアは得意な身体補助魔法でそのアシストに回っている。


ちなみに、身体補助魔法とは魔法をかける者の能力を引き上げる魔法だ。現在かけているのはスピードを引き上げるもの。そのおかげもあってか、こちらは対等に戦えているようだ。


「あんたたち、寄せ集めの連中のくせに割とチームワークは良いんだな」

「寄せ集めってなんですか? 確かに言うとおりですが、より集めだからといってチームワークが良くないわけではありませんよ」


お互いに自信に溢れた表情を浮かべながら戦っている。オスカーは一応挑発のつもりで言っているのだが、クラークは本心からのこの表情。


この二人の間にすごく差が開いている訳でもないが、早く決着をつけないと負ける可能性があるため、全く油断できない状況だ。


(さすが国の警護をかいくぐっているだけある。やっぱり、実力は本物みたいですね)


剣を交えながらもクラークの隙を探しているオスカー。そんなオスカーの戦いをもっと楽にするため、より集中力を高めながら魔法をかけ続ける。


しかし、いつまでこうしていられるか分からないようで。


(魔法、いつまで続けてかけていられるか分からないです……。オスカー様、なんとか決着をつけてくれるとうれしいですが……)


なかなか相手に大きな打撃を与えられないのに早く決着をつけなければならない。見方を変えれば、イーサンたちよりもヒドい状況と言えるかもしれない。


「どうした? 戦い始めてから怖くなってきたか?」

「いえ。そうでもないですよ!」


やっと隙を見せたクラーク。オスカーが厳しい状態だと知って少し油断したようだ。


そして、その隙を逃さなかったオスカー。殺さないよう、肩にかすれる程度で剣を振る。さすがは七人の中で一番実践の経験があるといったところだろうか。


「くそっ! 油断した!」


今度は肩に斬りかかろうとするオスカーの攻撃に、自分の剣でガードするクラーク。これにより、少しだけオスカーたちに有利な状況になったようだ。


「マリア様! もう少しお願いしますね!」

「はいです!!」


有利になったとは言えど、決着がつくまではまだ時間が必要であり、全く油断できない状態のオスカーたちであった。



***



「どうした? 急に威勢がなくなって。魔法だけじゃあ、剣と魔法の組み合わせには勝てないか?」

「……」


アンドレアは他の二人とは違い、大声でダイレクトにルティアとアメリアを挑発している。


アンドレアは剣と魔法を組み合わせての攻撃をしており、魔法だけの対抗は難しいものがあった。


(魔法で攻撃しても、剣ではじかれてしまったり、かなり強力なバリアを展開しないと剣で干渉されてしまうし……。

それに、アメリアは接近戦を得意としている。魔法も剣も得意な彼女相手では、アメリアの短剣も当てにできないわ)


ルティアもその状況を理解しており、非常に厳しそうな表情をしている。


「皇女様、強いって聞いていたのになぁ? これは期待外れだ」

「……」

「ルティア様、挑発に乗ってはいけませんよ。落ち着いてやりましょう」

「……えぇ」


後ろからのアメリアの助言に真剣な表情で頷くルティア。攻撃を止めたアンドレアに向き合う。


「ねぇ、一つ聞いても良いかしら?」

「どうぞ」

「ありがとう。あの男性二人は仲間なのよね? そのうちの一人、とても見覚えがあるのだけど、町中で会っていたりしないかしら?」


真剣味を帯びた笑顔で話しかける。アンドレアは戦いの気迫を壊さないまま、どっしりとした重みのある頷きを返す。


ルティアはそれを見ると少し思索にふけってみた。


(やっぱり、会っているのね……。でも、あのときの男性はあんな戦いなどしないようだった。もしかして、あれは演技だったのかしら? そこまでして私たちを見極めようとする意味って……?)


「で、それを聞いてどうしようと言うんだ?」


戦いの場だと言うのに思索にふけり始めたことがじれったくなってきたアンドレアは、さっさと質問を投げかける。


ルティアは思索の時間が終わってしまったことをあまりよく思っていないながらも待ってくれていたことに感謝する。


そうして、真っ直ぐな視線を向けた。


「これでもう一つ聞きたいことができたわ。

私たち、あなたたちを傷つけるために戦っている訳じゃあないのよ。だから、あなたたちがどうしてこんなことをするのか、教えて欲しいのよ」

「教えて何になる?」

「きっと話し合えばお互い通じ合えると思うの。だから、まずはあなたたちの言い分を……」

「……世間知らずのお姫様だな」


ルティアの言葉がアンドレアの地雷を踏んだのか、余計にアンドレアの表情が険しくなる。攻撃をするために剣を構え直すアンドレア。


しかし、このときはルティアたちの方が運が良かったようだ。


「皇女殿下〜! 皆様〜! 大丈夫ですか〜!?」


応援に駆けつけてきたのは騎士団のメンバー。エイダンが第二部隊のメンバーを全員引き連れてこちらへ駆けてきていた。


「ちっ。騎士団の奴が来やがった。おい! 皇女様! この戦いは預けるぞ! そのついでと言っちゃあなんだが、一つだけ情報を教えてやる!」

「情報?」

「あぁ、お前の母親、皇后様を殺したのは、我だってことをな!」

「え?」


いきなりの予期せぬその言葉に、ルティアのこのままアンドレアのことを追いかける気さえも奪ってしまう。


考え通り動揺したルティアを見て、一瞬笑みを浮かべると、アンドレアはシリルやクラークたちユニオンのメンバーに声をかけた。


「撤退するぞ!」

「「「「はい!」」」」


その一言で、ユニオンの者たちは全員退散していく。イーサンやオスカーたちも、逃げるのを目的としている彼らには追いつけなかったようだ。


結果、ルティアたちはユニオンメンバーから大した情報を得ることができないまま、逃がしてしまったのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

マ:マリアです〜!

オ:オスカーです!

マ&オ:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』

オ:何を思ったか急に帰って行ったユニオンメンバー。

マ:戦いをした、その後の皇女殿下は……?

オ:第21話『ナヤミ』

マ:第一章が終わるまであと二回ですよ〜!

オ:ところでマリア様、魔法を使うに当たってのポイントを一つ。

マ:えぇ!? いきなりです!? えーっと、集中すること……です!

オ:皆様も、試してみてくださいね。

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