第19話 ハクリョク

「さぁ、貴族様。話し合いでも始めようか」


アンドレアのとてつもない迫力が混じった緊張感溢れる空気に包まれるルティアたち。


顔の表情と迫力の混じる空気感だけで経験の浅いルティアたちを動けなくしてしまうほどの実力を持っているようだ。


「は、話し合い……?」

「あぁ。そうだ」


アンドレアは本心など外には出てくるはずのない笑顔を浮かべる。


シリルの笑顔は人をイライラさせることが多いが、アンドレアの笑顔はイライラよりも恐怖の感情が先に出てくる。


「なんの話し合いだ?」

「それはもちろん、お前たち貴族たちの在り方について。……いや、お前たちと言うよりはお前たちの親だな」

「貴族の在り方とは……どういうことだ?」


グレンは恐怖に耐えながらもアンドレアたちをにらみつけながら問う。グレンの問う声でやっとルティアたちもなんとか正気に戻ったようだ。


ルティアたちもアンドレアたち三人をにらみつける。


「それはもちろん、お前たち貴族が平民を大事にしていないことだな」

「平民を大事にしていない、ですか? そんなことはないはずですよ。少なくとも我々ジャック子爵家はできるだけ皆さんの生活の支えになれるよう予算を組んでいます」


アンドレアは馬鹿にするような笑みをルティアたちに向ける。そんな態度を見ても冷静に振る舞おうとオスカーは丁寧な口調で答えた。


しかし、そんな配慮はアンドレアたちには無意味だったようで。三人とも態度を改める様子はない。


「ふんっ! 何も知らない奴が言うな。我々の気持ちなど、分かるはずがないのに」

「あなたたちの、気持ち……?」


今までの態度からは考えられない、アンドレアの寂しく辛そうな表情が一瞬だけ垣間見える。


ルティアは、その表情から彼女にも辛い過去があるということを悟った。


「……アンドレア様」

「あぁ、そうだな」


シリルの耳打ちに、アンドレアは物々しい雰囲気を醸し出しながら頷く。そんな張り詰めた空気感に、ルティアたちは全員息を飲む。


「いくぞ、シリル、クラーク!」

「「はい!!」」


いきなりすごい勢いで走り出すアンドレアたち。三人の手元を見てみるとそれぞれ魔法具や剣を握っている。


「な、何!?」


剣先を向けてきたり、魔法具を発動させ始めたりしているアンドレア、シリル、クラークの三人。突然の三人の動きにルティアたちは驚いていつも通りに反応することができない。


そのせいか、ルティアたちは三手に分かれてしまった。


 シリルに剣先を向けられたのはイーサンとグレン、そしてアーサー。ここの三人はイーサンの冷静な判断によりなんとかかわすことができた。


しかし、それで状況が良くなるわけではない。


「……いきなり襲いかかってきて、お前、どんな精神をしている?」

「至って普通の精神ですよ。私は、正真正銘あなた方の敵なのですから」


自信に溢れているがどこか不気味な笑顔が、余計にイーサンの思考を揺るがせる。


普段であれば押されないはずの状況なのに、なぜか力が入らず、勝っているとは言いづらい状況だ。


「どうされたのですか? あなた、剣さばきには自信があるのでしょう?」


わざと挑発しながら戦況を有利に進めようとするシリル。イーサンはなんとかシリルの剣をかわしているが、あまり反撃はできていないよう。


剣にはあまり対抗できないと判断したアーサーはイーサンの邪魔にならないようにしている。


しかし、グレンはそんなアーサーの横で動けなくなってしまっているようだ。


(俺は剣を使うってえのに、俺の力じゃあイーサンの助けに入れねぇ……。俺は何をやってんだよ。くそっ。やっぱり俺は役立たずか!?)


自分にも、挑発してくるシリルにもイライラし始めるグレン。それも作戦の内だったシリルは、今回だけ含んだような笑顔ではなく作戦が上手く進んでいることを喜ぶ表情になる。


「この場で私の剣についてこれるのはあなただけのようですね。イーサン様」

「……」

「そうにらまないでください。一応、褒めるつもりでいっているのですから」


シリルは相変わらず余裕の笑みを浮かべたまま。イーサンは集中しているタメか、余裕は生まれていない様子。


しかし、これが実力の差ではなく挑発のうまさ、ひいては経験の差で余裕かそうでないかが決まっているため、イーサン的にはあまり面白くないようだ。


代わりにシリルへ威圧的な声で問う。


「お前たちの目的は?」

「答える気はありません。いずれ、あなたたちにバレるのですから。ヒントはその後ろで固まっているグレン様にいったことですよ」

「グレン、に?」

「はい。少し考えてみてください」


考えろと言いつつ、更に剣をさばくスピードを上げるシリル。更に余裕がなくなってきたイーサンだが、なんとか食らいついていく。


 一方、他の二人と戦っている者達も、押されている様子なのであった——。



つづく♪




〈次回予告〉

イ:イーサンだ。

グ:グレンです。

イ&グ:次回『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

イ:戦いが、始まった……。

グ:(ちょ、ちゃんと読めよ)

イ:(読んでるが?)

グ:(お前、本気か……?)

イ:第20話『タイリツ』。よろしくな。

グ:挨拶も取りやがって! 何してくれんだよ、お前は!

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