第17話 ケントマホウ

 情報の考察をしていた日から三日程が経ったこの日、ルティアたちが集まっているのは執務室ではなく王宮内にある騎士団の訓練場。


早速ルティアたちは、エイダンに訓練場の中を案内してもらっていた。


「今日はもう訓練の予定はないので自由に使っていただいて大丈夫です。何かありましたら、私にご連絡ください」

「えぇ、ありがとう。エイダン」

「いえ。それでは、失礼いたします、ルティア皇女殿下」


騎士らしく敬礼をすると、ルティアたちに微笑みかけてから去って行くエイダン。ルティアも去って行くエイダンに感謝の意を込めた微笑みを見せる。


完全にエイダンが視界から去って行ったことを確認すると、クルッとこちらに振り向き、イーサンたちにあどけない笑顔を浮かべた。


「今日は、先に伝えていた通り剣や魔法を鍛えておこうと思うの。この前のグレンたちみたいにまた襲われても困るし、鍛えておけば私たちだけでも戦えるかもしれないもの」


この場にいる全員が真面目な表情へと切り替わる。ルティアの言葉にしっかりと頷いた。


「それでね、各々おのおのがやりたい方をやってもらおうと思っているのだけれど、それでいいかしら?」

「「「「「はい!」」」」」


はっきりとした元気の良い返事をする五人。アメリアは、訓練所の端の方でルティアたちを見守っている。


こうして、ルティアとマリア、アーサーの三人は魔法の訓練を、イーサンとグレンとオスカーは剣の訓練をやることになったのだった。



***



 こちらはルティアたち魔法の鍛錬班。ルティアは前回途中で終わってしまった魔法の開発の続きをしようと準備中。


マリアとアーサーは、それぞれ魔法の中でも苦手な分野の復習をしている。


少しして、休憩がてらマリアが顔を上げたとき、地面にしゃがみ込んで何やら魔法式を書いていたルティアの右腕にはめているものが視界に入る。


「あ、殿下の魔法具、素敵ですね〜」


マリアが言っているのはルティアが持っている魔法具のこと。


腕輪型で、水色やルティアの瞳と同じラベンダー色の宝石がいくつかちりばめられている。


「そう? ありがとう。これ、かつてお父様とお母様にもらったものなのよ」


明るくうれしそうな笑顔を浮かべるルティア。マリアもそんな顔を見てうれしい気分になる。


「そうだったですか。皇帝陛下と皇后陛下、優しい人ですね!」

「そうなの。まぁ、お母様にはもう会えないのだけれどね……」


寂しそうに魔法具を見つめるルティア。時が経ったと言えど、やはりもう母親に会えないというのはつらいらしい。


マリアとその会話を聞いていたアーサーもルティアの寂しさが目に映ったようで黙り込んでしまう。


 そんな魔法の鍛錬班が悲しい雰囲気でいたそのとき、剣の鍛錬班ではオスカーの人を賞賛する言葉が聞こえていた。


「さすがイーサン様ですね! お見事な剣さばきです」

「……ありがとう」


手合わせをしながらイーサンの剣さばきを褒めるオスカー。


それに対し控えめにお礼を言うイーサン。オスカーのことをお礼に褒めようなどとは一切考えなかったらしい。


そんな二人を見ながら素振りをしているグレンは、なんだか良い気分ではない。


(なんだよ。あいつばっかり褒められやがって。俺だって頑張ってるのに)


頑張りを認めてもらえていないように感じてしまっているグレン。負けず嫌いの彼はイーサンがルティアの護衛騎士であるオスカーに褒められているのが気に食わないらしい。


歯ぎしりをしつつイーサンをにらんだグレンは、今まで以上に悔しい思いに駆られていた。


しかし、手合わせに集中してしまっていて全くグレンの感情に気づくことができない二人。そのまま会話は続いてしまう。


「イーサン様は、確か騎士団の訓練に参加していたことがありましたよね?」

「……あぁ」

「なら、エイダン騎士団長のしごきも受けたと」

「あぁ。一太刀も当てることができず、悔しい思いをした思い出がある」


こう言った具合に剣の手合わせをしながら話に花を咲かせている二人。周りが見えなくなり始めているようだ。


更に悔しい思いが募ってくるグレン。気づくと仲良くなっている二人から目が離せなくなってしまっていた。


しかし、事件は空気を読むことなく突然起こるもののようだ。


「大変です! 王宮近くの通り道で、タニア公爵様が襲われています!」


案の定やってきた事件発生の報せに全員の空気感が一変する。


「まだそれは続いているのね!?」

「はい。公爵の護衛騎士が踏ん張っているようです」

「分かったわ! みんな! 私たちも駆けつけるわよ!」

「はい!」


ルティアたちは、勇ましい顔つきで駆けていく。足の遅いマリアも、オスカーに負ぶってもらい、ルティアたちに遅れを取らないようにしたようだ。


ユニオンメンバーに顔を合わせることができるかもしれないこのチャンスを逃さないためにも、ルティアたちは必死になってひたすら走り続けたのだった——。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

マ:マリアです〜!

ル:今回は少しだけ強くなったような気がするわね!

マ:はい! ルティア殿下!

ル:と、言うことで……

ル&マ:次回『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ル:最後にやってきた事件の発生報告!

マ:私たちはその事件解決へと向かうです!

ル:第18話『タイメン』。

ル&マ:次回も見てください!

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