第16話 コウサツ
情報の共有を終えて一ヶ月ほどが経ったこの日。ルティアたちはまた新たに上がってきている報告書の確認をしていたところだった。
「一ヶ月しか時間が経っていないのに四十五件も報告書が上がるなんて、かなり高い頻度で事件が起こってるってことですね〜」
「それだけユニオンに貴族の行動情報を得られてしまっているという意味でもあるがな。それに、結局得られる情報はほとんど一緒だし」
マリアとグレンは読み終わった報告書を机の上に整理しながら会話をしている。マリアは済ました顔で作業と会話を両立させていたが、グレンは報告書の山を睨みつけるように言葉を発していた。
すると、そんな二人の会話に耳を傾けていたオスカーが口を開く。
「グレン様たちを襲ったというユニオンのあの男のことも、『貴族は嫌い』の一点張りで何も情報は得られてないですしね〜」
そうなのだ。あのエイダンたちが捕まえたあの黒服の男は、その後の事情聴取でも『貴族は嫌い』の一点張りで、結局他のことは一切話さなかった。まるで、誰かに操られているかのように。
ルティアたちはあの黒服から得られる情報に少しだけ期待していたのだが、何も得ることが出来ず、がっかりしていた。
「……そうね」
報告書に目線を落としつつ、マリアたちの言葉に頷くルティア。何か考えているように報告書を眺めていたが、やがて報告書のページを開く手の動きが止まる。
「ルティア様?」
「あ、ごめんなさい。ちょっとグレン様の言葉と報告書に気になったところがあって……」
アメリアがぼーっとしてしまっている様子のルティアに声をかけると、ルティアが驚いたように少しだけ目を見開いた。
「気になるところ、ですか?」
「これを見てもらってもいい?」
持っていた報告書の向きを変え、アメリアに見えやすいようにするルティア。
アメリアの他にもソファで座って作業をしていたイーサンたちがルティアの机へと集まってくる。
「ほら、見て。ここ最近で起こっている事例って、前に起こっている何らかの事件と少し似ているのよ」
「た、確かに……」
例を挙げると、伯爵家の令嬢が襲撃に遭ったという事件。
これは、店から出てきたところに魔力で使用する火の弾が飛び出す銃で撃たれたという内容だ。
この事件の内容と似ているのはグレン・マリアの二人組が行った村で起こっていた事件。
そちらの事件では子爵家の令息が剣による襲撃を受けている。
他の事件にも、馬車に乗っているところを襲われる、寝ているところを襲われるなどの事例がある。
「しかも、どの事例も襲われている。だから、似たり寄ったりな情報しか集まらないんだと思う」
「そうですね。それが作戦なのかどうなのか、それは不明ですが」
ルティアの意見にイーサンも賛同する。しかし、そんなイーサンを少しだけ面白くないような目で見ているグレン。
どうやら自分が言おうとしていたことをイーサンに言われてしまったらしい。
「それが作戦かどうかは置いておいて、気になったことを言っても良いですか?」
「えぇ。良いわよ、オスカー」
もちろんと大きく頷くルティア。そして、周りの視線が一気にオスカーに集まる。オスカーも一度小さく頷き返してから話を始める。
「ルティア様の前で倒れた男性は、なんで貴族でもないのにユニオンからナムネスを飲まされたのでしょうか?」
オスカーに言われて初めて気づいたルティアたち。大きく目を見開いたまま固まってしまった。
「み、皆様? どうされたのですか!?」
「あ、ごめんなさい。それに全く気づいていなかったから少しだけ驚いてしまって」
オスカーは全員固まったところを見て少しだけ慌ててしまう。オスカーの声でやっと気が戻ってきたルティア。
少しだけぎこちない様子で頷く。そんなルティアを見て、イーサンとマリアとグレンとアーサー、そしてアメリアもやっと気がつく。
「オスカー様に言われなかったら、なんで男性がナムネスを渡されたのかなんて気にならなかったかもしれないですね。本当に、なんでなんでしょう?」
アメリアが腕を組みながら考え始める。他のメンバーも、腕を組むとまではいかずとも悩み込んでいる様子だ。
「もしかしたら、それも作戦の内かも。貴族ばかり狙うと思わせておいてじわじわと平民を狙うっていう」
いつもと違い、今回はアーサーが口を開く。そのアーサーの考察にルティアたちは全員頷いた。
「そうね。それはすごくあり得るわ」
「他にないか、考察を進めてみるです?」
「えぇ。そうしましょう」
こうして、報告書の確認もあと少し残した状態で考察の時間になっていったのだった。
***
またまた登場のユニオンメンバー。シリルはアンドレアの座る机の前に立っていた。
「アンドレア様。そろそろあの作戦を進めても良いですか?」
「あぁ。進めてくれ。慎重にな」
「はい。分かりました。それでは、失礼いたします」
一礼すると去って行くシリル。シリルがいなくなると同時に、部屋のドアはバタンと閉められる。
足音を元に完全にシリルが去って行ったことを確認したアンドレアは、ふうっとため息をつくと、椅子に深く腰掛ける。
「さて、皇女様はどんな人か。……楽しみだな」
夕日に照らされながらコーヒーを口に含みつつ、何かを含んでいるように微笑んだアンドレアであった。
つづく♪
〈次回予告〉
オ:オスカーです!
ア:アメリアです!
オ&ア:次回の『皇女様の奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』。
オ:いつもの執務室ではなく、別の場所でのお話です。
ア:ルティア様とイーサン様に注目ですよ!
オ&ア:第17話『ケントマホウ』
ア:オスカー様、結局あの考察って結論はどうなったんでしたっけ?
オ:さぁ? 確か結論出てなかった気がする……。
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