第14話 チュウシンジンブツ
ここは、帝都の外れの方にある小さな一軒家。今、ここでルティアたちが追ろうとしている反社会的組織・ユニオンの中心人物が集まろうとしていた。
「アンドレア様。ただいま戻りました」
「あぁ、お帰り、シリル。どうだった? 皇女様のお仲間というのは」
玄関からやってきた青年に優しげな笑みを浮かべて迎え入れた女性。
アンドレアと呼ばれた彼女は、かなり身長が高く、それでいてスラッとしていて、威厳に満ちた表情をしている。そんな彼女が、このユニオンを仕切るリーダーだ。
「短気で警戒心の強い少年と穏やかすぎて警戒心の欠片もない少女の二人組でしたよ。少年の方は割と強いみたいです。我々が送り込んだ黒服とギリギリまで粘っていましたから」
笑顔をアンドレアに向けるシリルという名の青年。腕を背中の後ろで組み、爽やかな雰囲気を振りまいている。
ちなみに、シリルはユニオンの副リーダーだ。
「あ〜ぁ。疲れた〜。演技するのも体に悪いな」
「お帰りなさいませ。クラークさん」
「あ、シリル! お前、何してくれんてんだよ! いくら俺が耐性を持っていて死にはしないと分かっていても、道端で倒れちまったじゃないか! そんな予定はなかったのに。お前のせいだぞ!」
入ってくるなりシリルへ急に距離を詰め、顔を険しくさせた男性。彼の名はクラーク。この三人の中では一番年齢が高く、茶色っぽい髪色をしていた。
「はいはい、申し訳ありませんでした。でも、あれが演技に使えることはわかったでしょう?」
「まぁ、そうだが……」
「それより、そちらの様子はどうだったんですか?」
クラークの文句を軽く流しながら、話をそらすシリル。
そんなシリルの態度に少しだけイラッとしたクラークだったが、なんとかその気持ちを抑えることに成功する。
「優しい雰囲気の姫さんと、それを守る騎士さんと、姫さんを守るっていういかにもな雰囲気のメイドさんといったところだな」
「そうですか。それより、任務、お疲れ様でした」
「あ、あぁ」
小刻みに頷くクラーク。こうした二人のやり取りを見ていたアンドレア。二人の近くに寄ってくると、二人の肩をポン、とたたく。
「さぁ、偵察も済んだところだし、作戦会議とするぞ」
「「はい! アンドレア様!」」
シリルとクラークの返事が家の中で響き渡る。ユニオンの活動は、この三人が支えている。作戦会議はこの後数時間かけて行われたのであった。
***
調査から帰ってきた、次の日。ルティアたちは情報の共有をするため、ルティアの執務室に全員で集まることになっていた。
「姫様、失礼いたします」
廊下で合流したイーサン、マリア、グレン、アーサー、オスカーの五人。代表してイーサンがドアを開ける。
しかし中へ入っても、ルティアの姿は見当たらない。どうやら出かけてしまっているようだった。
「あ、皆様。お集まりになられたんですね。すみません。ルティア様は現在中庭で魔法の研究に向かわれてしまって……」
五人がやってきたことに気づいたアメリア。五人に駆け寄ると、少しだけ困ったような表情で話しかける。
「それじゃあ、姫様、しばらく気づかないでしょうね」
「……はい。おそらくは」
「じゃあ、姫様を呼んでくる」
「あ、はい! お願いします。イーサン様」
アメリアが頷いたのを確認すると、さっと移動を始めるイーサン。ルティアのいる中庭へと、駆けていった。
***
「姫様―!」
中庭に辿り着いたイーサン。端の方で地面に何やら色々書いているルティアを見かけると、ルティアに声をかける。
しかし、集中してしまっているルティアには聞こえていないよう。ずっと地面を見つめたままだ。
「姫様!」
離れていたルティアに近づくと、肩に手を乗せ、声をかける。それでやっと気づいたルティアは、驚いた表情でイーサンの方に振り向いた。
「い、イーサン」
「姫様、もう全員集まっていますよ」
「そう。なら、急がなくてはね」
微笑みを返すルティア。さっと立ち上がると、服についてしまっていた砂を取り払った。
「今回はなんの魔法を研究しているんですか?」
「雷撃魔法よ。なんだか良い案が思いついたから、ちょっとだけ実践していたの。だけど、妙に上手くいかないのよね」
お手上げというようにため息をつくルティア。イーサンは、地面に書かれた文字を見ると、難しい顔をする。
「魔法はよく分からないので……。すみません、姫様。お力になれなくて」
「良いのよ。私の趣味の一環なんだし、私が解決するわ。それより、早く行きましょう!」
「はい、姫様」
二人でニコリと微笑み合うと、駆け足で執務室へと帰っていった。
つづく♪
〈次回予告〉
アンドレアだ。次回『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?
やっと執務室に集まった様子の皇女様たち一行。情報共有が始まる。
第15話『ジョウホウキョウユウ』。皇女様も良いが、ユニオンのことも応援するんだぞ!
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