第13話 セイネント、イカリ

「それは、どういう意味だ?」


警戒の目を青年に向けながら、低い声で問いかけるグレン。青年は、そんなグレンの鋭い目つきをも、笑顔でかわした。


「言葉通りの意味ですよ。確かにユニオンは反社会的組織ですが、国を乗っ取りたいのではなく、ちゃんとした理由を持って行動しているということです」

「理由……?」

「はい」


何か含んだような笑顔から、自信ありげな笑顔に変わる青年。グレンはなぜ青年がそんなことを言うのかが信じられない。


ジッとしていてあまり体を動かさないまま、疑いの目を向ける。また、マリアは二人に話しかける言葉が見つからず、見守るだけの状態になってしまっている。


「それでは、情報もお伝えしましたので、ここで失礼させていただきますね。気をつけて下さい。敵は、思っている以上にたくさんいるものですよ」


また含んだような笑顔になる青年。グレンとマリアに軽く一礼すると、青年はクルリと背を向けて、去って行った。


「なんなんだ? あいつは。変なこと言いやがって」

「不思議な雰囲気を持った人だったですね〜」


吐き捨てるように言ったグレンに、ほんわかとした雰囲気のままで言葉を発するマリア。なんとなく調子が狂いそうになってしまうグレン。


しかし、マリアの言葉は同意できることだったので、真剣な目をしながら頷いた。


「そうだな。……と、そろそろ集合時間だ。マリア、集合場所に戻るぞ」

「は、はいです!」


マリアとグレンは、ここへ到着した際に馬車から降りたところへ向かって歩き出す。青年が最後に言った言葉に、少しだけ疑問を抱きながら——。



***



「おい! この店の店長を呼べ!」

「しょ、少々お待ちください!」


すごい剣幕の男性客におびえる店員。持っていたトレーを落としそうになるほどに慌てて店の奥へと駆けていく。


それを見ていた周りの客も、何が起こったのか、どうしてあの男性が怒っているのかが分からず、困惑してしまっていた。


「どうされましたか! お客様!」


すぐに血相を変えて先程の店員とともにやってくるこの店の店長。手や首には汗が浮かんでいることから、焦っていることが伺える。


「どうしたもこうしたもないだろ! なんだ! この料理は!」

「料理が、どうかいたしましたか?」

「この味付けはなんなんだ! かなり酸っぱいぞ!」


トマトソースで味付けがされたスパゲッティ。上にたくさんの粉チーズがかかっており、まだほんのり湯気も出ている。


見た目や匂いのみで判断するならば、かなりおいしそうに見える。


「酸っぱい……? そ、そんなはずは!」


声が裏返ってしまった店長。焦ったように店員に向けて頷くと、スパゲッティのそばへと近寄ると、客の食べていたスパゲッティから麺を一本だけ取り、口に含む。


「た、確かに、酸っぱい……」


目を見開き、さらに血相が変わる店長。自分たちの失態だと分かってしまった店長たちは、即座に頭を下げた。


「も、申し訳ありません! 全ては我々の失態です! お代はいただかなくて結構です。ですので、何卒ご勘弁を」

「そんなことを言ってられるか! 俺はこんなものを食べさせられたんだぞ!」


怒りで顔に血管が浮かんでいる男性。周りへの迷惑など考えず、くどくどと店長たちに罵声を浴びせていく。


必要以上の罵声に、なんだか惨めな店長たち。そして、それを見て穏やかな気持ちでは食事ができなくなってしまったお客たち。


——そんな様子、もう見ているだけでは我慢ができなくなってしまった。


「る、ルティア様!?」

「それ以上は周りの客への迷惑になってしまうわ。店長もこれだけ謝っていることだし、その辺で許してあげなさい」


気づくとルティアは、店長たちの前で男性から庇うように立っていた。


「「こ、皇女殿下!?」」


いきなりのルティアの登場に、驚きを隠せない男性。男性だけではなく、店長や店員たちやお客たち、そして何よりイーサンとアメリアが驚いてしまう。


さすがに周りの目がたくさんあるこの状況でこの国の第一皇女に逆らうことなどできない男性は、ふんっと鼻を鳴らすと勢いよくドアを開けて、店を出て行った。


一瞬の静寂。しかし、それをルティアが破る。


「それでは皆様、お騒がせいたしました。食事を再開してくださいませ」


ルティアが店の客たちに笑顔を向け、スカートの裾をつまんでお辞儀をすると、わあっという客たちの歓声を浴びる。


そうして、客たちは安心してまた食事を再開していった。


「あ、ありがとうございました! 皇女殿下!」

「いえ。私は当然のことをしただけです。今後は、このような騒動にならないようにしてくださいね」

「は、はい!」


うるうるとした目で返事をした店長たち。ルティアはニコッと微笑みかけると、イーサンたちの方に笑顔を向けた。


「イーサン、アメリア。ご飯を食べられなかったのは残念だけれど、そろそろ集合時間になるし、早く帰るわよ」

「「はい!」」


改めて場のゴタゴタを収めたルティアに尊敬の意を向けるイーサンとアメリア。


 このあと、ルティアたちは馬車の前でマリアやグレン、アーサーにオスカーと合流することができると、無事に王宮へと帰っていったのであった。



つづく♪




〈次回予告〉

イーサンだ。次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』。

とある一軒家の様子と、調査後の姫様の話だ。

第14話『チュウシンジンブツ』。次回も、よろしく。

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