第10話 ソレゾレノヨウス

 無事村へとたどり着くことのできたグレンとマリアの二人は、村に着くなりユニオンについての聞き込み調査を始めていた。


「すまない、少し時間をもらっても良いか?」

「は、はい。貴族様、なんでしょうか?」


店のショーウィンドウを拭いていた店員に声をかけるグレン。店員はグレンの言葉に返事をすると、しばし手を止めてグレンに目を向ける。


「一つ、質問をしたい」

「はい」

「この辺りで、このようなマークのついた服を着た連中がやってきたことはあるか?」


服のポケットからユニオンのマークが書かれた紙を取り出し、店員に見せる。


紙に顔を近づけた店員は、マークをジッと見つめ終わると顔を離し、グレンに顔を向けると首を横に振った。


「……そうか。ご協力、感謝する」


そう言い残し、店を出て行くグレン。店の敷地内から出ると、肩を落としてため息をついた。


「はぁ、どこも情報は持っていないみたいだな」


二度目のため息をつこうとしたとき、マリアも隣の店から出てくる。グレンのところへ駆け寄ったマリアは、グレンと同じくため息をついた。


「グレン、どうだったですか?」

「全然ダメだ。そっちは?」

「こっちも情報ゲットならずです〜」


二人の顔が同時に暗くなる。元々ユニオンの情報を知っている人が少ない上に今日は隣の村でバザーをやっている関係でそっちに人が流れてしまっている状況。


聞き込みをするには、あまりにも不利な状態だったのだ。


「はぁ、こうなることが分かってたら殿下に違う日にしようって言っていたのに……」


この状況では、どんどん二人のやる気が下がっていく。もう諦めて帰ろうとグレンが言おうとした、そのとき——。


「ユニオンの情報を、集めていらっしゃるんですか?」


背後から声をかけられる。二人が振り向くと、そこには青色の混じった髪色をした、爽やかそうな青年が笑顔で立っていた。



***



「ここが、大商人の家……」

「やっとつきましたね、アーサー様」


大商人の家の前へと辿り着いた二人。小さめな貴族の屋敷とあまり変わらない広さの家を見上げ、話を聞きにいく覚悟を決める。


「よし、行きましょうか」

「はい」


頷くアーサー。オスカーは、アーサーも準備ができたところを確認すると、家の戸を叩いた。


「ごめんください!」

「は〜い! ちょっと待っていて下さいね〜!」


中から、優しそうな女性の声が聞こえてくる。緊張しながら女性が出てくるのを待つ二人。


しばらくすると、ガチャンという音を立てて、家の門が開き、四十代くらいに見える女性が出てきたのだった。



***



「あの、そろそろ帰らせていただいてもよろしいですか?」


ルティアたちが三人そろって考え込んでしまったことで困惑した男性が、話を切り出す。


男性が困っていることに気づいた三人は、慌てて男性の方に向き直る。


「はい、すみません。引き留めてしまって……」

「大丈夫です、貴族様。それよりも、気をつけて下さいね。敵は、自分が思っている人たちだけではないこともあります。親しくしている人ですら敵になることもありますから。それでは、失礼します」


男性は一礼し、帽子をかぶってから去って行く。ルティアたちは、去って行く男性を笑顔で見送った。


しかし、男性がいなくなっても、しばらくの間ぼーっとしてしまっているルティア。遠くの方を見つめたまま、動く気配がない。


男性の身に起こったことと、男性が言い残していった言葉を聞いて、あまり思い出したく無いことを思い出してしまいそうだったからだ。


あの、王宮で起こった悲劇を。


ルティアのことを心配したイーサンは、ルティアのそばに行き、顔を近づけると耳打ちをする。


「姫様、俺たちも調査を再開しましょう。あの男性の言った言葉を確認するためにも、情報は多い方が良いかと」

「……そうね。じゃあ、当初の予定通りそこのお店から聴き込み調査を始めましょう」

「「はい!」」


気を取り直して笑顔で言うルティア。


イーサンとアメリアが敬礼をし、元気の良い返事をしたのを確認すると、ルティアは先程入ろうとしていた店へと足を運ぶ。


 それは、どうしてもぼーっとしてしまいそうな自分をごまかすためでもあったのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

グ:グレンです。

マ:マリアです〜!

グ&マ:次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』

マ:私たちに近づいてきた青年の正体、気になるです〜!

グ:ルティア殿下やアーサーたちのお話、それからマリアのヘマも見所だ!

マ:私、ヘマしてないですよ〜!

グ:第11話『セッショク』! ぜひ見てくれ!

マ:勝手に締めないで下さいです〜!!

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