第9話 オドロキツヅク

 こちらは、右側の道へと入っていったアーサーとオスカーのコンビ。右側のこの道は、とある大商人が住む家へと向かう道だ。


二人は、その大商人にも話を聞きに行こうと、歩いて進んでいた。


「アーサー様は、この先の家に行ったことはありますか?」

「……いえ、無いです」


表情を変えずに一瞬だけオスカーの方へ顔を向けたアーサー。簡潔に回答すると、またすぐに前に顔を向ける。


緑の葉が風に揺れるのどかな道。元々あまり話をしないアーサーだが、今日は自然の様子が気になってしまっていて、更に話をしない。


一方でオスカーは、なんとかアーサーとの気まずい雰囲気をなんとかしようと頑張っているのだが、何も手応えがないようで少し心が折れかけていた。


(アーサー様、口数の多い方ではないから会話がなかなかつながらない……。なんだか気まずいな……)


肩を落としながらため息をつくオスカー。しかしアーサーはオスカーが肩を落とそうがため息をつこうが気にしていないようだった。


「……もうすぐ大商人の家に着く」

「あ、そうですね」


このマイペースなアーサーの性格ではどうしようもないと悟ったオスカーは、もうアーサーと会話をつなげることは諦めたのであった。



***



 イーサンの問いかけに対し、真っ直ぐな目をこちらに向けてくる男性。その目につられて三人は背筋を伸ばす。


「あいつの名前は……」


男性の言葉を真剣に待とうとするが故、三人からちょっとした圧のようなものがかかる。


男性は、この圧に少しだけちょっと気が引けてしまったが、それでも真っ直ぐな目はそのままで話をしようと気合いを入れるために拳を強く握る。


「すみません。あいつは名前を名乗らなかったんです。ですが、服の胸のところにユニオンのマークがついていました」

「「ユニオン……!」」

「やっぱりな」


ついつい驚きで口をポカンと開けてしまうルティアとアメリア。


しかし、ユニオンと少なからずつながりがあるだろうと踏んでいたイーサンは動揺せず、冷静に小さく頷いた。


「それと、もう一つ質問したいのだが、よいか?」

「は、はい」


男性が三回ほど頷いたのを確認したイーサン。


先程の男性の答えに驚いて口が開いたままのルティアを少しでも安心させるため、ルティアに軽く微笑んでから男性に視線を向けた。


「その「あいつ」には何をされたんだ?」

「は、はい? すみません、もう少し詳しく説明をしていただいてもよろしいですか?」

「あいつのせいだ、と先程言っていただろう? だから、その「あいつ」に何かされたのかと思ってな」


イーサンのこの説明でやっと何を答えれば良いのか理解したような素振りを見せる男性。何度か頷いてから、答え始めた。


「茶を、出されたんです」

「茶……?」


三人の頭の上に、数個のハテナマークが浮かび出す。


「はい。その茶を飲む際、体に良いからと白い薬のようなものを茶に入れられました。そして、渡された茶を飲んだとき、喉の辺りに何かが詰まったような気がしたので、それが原因かと」


その話を聞いていた三人に驚きの色が走る。イーサンは柄にもなく目を見開き、ルティアとアメリアの二人は顔を見合わせた。


「……薬、か。それは具体的にどのような見た目の薬だ?」

「白くて丸い形をしていて、一粒の大きさは一センチメートルぐらいだったと思います」


男性からの薬の情報を聞いて確信を持つイーサン。急に深刻な顔つきになると、息を吐くかのようにつぶやいた。


「……ど、毒薬、ナムネスだ……」


それは、依存症を引き起こす、飲んだ人を息苦しくする、手足にしびれを引き起こすなどの人によって違った効果が出る、危険薬物に指定されている薬品の名。


イーサンから発された薬の名を聞くと、今度はルティアがその言葉に反応する。


「まだそんなものが残っていたなんて……! あれは危険薬物になってから市場に出回らなくなったはずよ!」


危険薬物に指定されてから聞かなくなったはずの薬物の名を聞いて、ルティアは怒りと恐ろしさで身が震えてしまったのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

ル:ルティアです!

ア:アメリアです!

ル&ア:次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……。

ル:村に着いたマリア様とグレン様。無事に情報をゲットできるのか!?

ア:そして、大商人の家へと向かったお二人は……?

ル&ア:第10話『ソレゾレノヨウス』! お楽しみに!!

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