第8話 マジワルケン

 目を覚ました男性は、起き上がるとキョロキョロと辺りを見回す。


「ん……? ここは……?」


男性の発した声に気づいたルティア、イーサン、アメリアの三人。振り向くと、男性の近くへ駆け寄っていく。


「大丈夫ですか!?」

「は、はい?」

「あなたは、路地から出てきた途端ここで倒れられたのですよ」


状況を上手く分かっていない様子の男性に、アメリアが状況を説明する。それを聞いた男性は目を大きく見開いた後に、目を泳がせた。


「それは、本当ですか……?」

「「「はい」」」


半信半疑の男性の問いに、ルティアたちは大きく頷く。


三人が頷いたのを見た男性は、更に動揺を隠せないようで。目が泳いだまま、体は固まってしまっている。


「あ、あのときだ……。に、嵌められたんだ」

「あいつ?」


男性の放った「あいつ」という言葉に反応するイーサン。眉毛が少しだけピクッと動く。


そんな細かい動きも見逃さなかったルティアは、イーサンの顔をのぞき込む。


「イーサン?」

「いえ、少し気になったことがあって」


ルティアを安心させようと微笑むと、イーサンはまた男性の方に向き直り、真剣な目つきで問いかける。


「その「あいつ」とは誰のことだ?」


その途端、男性の泳いでいた目がイーサンの目をしっかりと捉えた。



***



 三〇分以上が経過している今も、剣同士がぶつかり合う戦いはまだ続いている。


相手の黒服の方は息が上がってもいない状態で余裕なようだが、グレンはそろそろ限界が近づいてきているよう。若干黒服の方が押している状態だ。


「くっそぉ……!」


押されながらも重い打撃を与えようと必至になって剣を振り続けるグレン。相手には数回擦る程度でほぼ交わされてしまっている。


「はぁ、はぁ……」


息切れ中のグレン。相手をにらみつけ、威嚇しようと頑張るが、なんとかして一撃をぶつけられないと自分が負けることに気づき始めていた。


(くそっ! なんか良い策はないのかよ!)


苦し紛れの戦いに、グレンは焦り、マリアは心配で目をそらしたくなってきていた。


(グレン……!)


相手の黒服がジャンプして剣を振り上げ、グレンに斬りかかろうとする。


この距離では回避できないと考えたグレン。もうダメだと思い目をつむった、そのとき……!


「グレン様っ!」


グレンに斬りかかろうとしていたはずの黒服は、道の端にすごい勢いで飛ばされていく。


斬られたはずなのに呼吸ができることに気づいたグレンは、つむっていた目をそっと開いた。


すると目の前には、剣先を黒服に突きつけている騎士団の服を着た屈強な男が立っていたのだ。


「エイダン騎士団長!」

「グレン様、間に合って良かったです」


相手に剣先を突きつけたままグレンに微笑みかけるエイダン・ワイナリー。


スピカ帝国の王立騎士団第一部隊隊長であり騎士団長のエイダンは、彼の後ろを追いやっと追いついた様子の部下に黒服の捕縛を命じると、グレンの元へとやってくる。


「グレン様、お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

「いえ、ちょうどグレン様が戦っているところが見えたので、助太刀に参っただけですよ。マリア様も、お怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です〜。ありがとうです。エイダン様」


やっと安心できるようになったマリアは、満面の笑みでエイダンに礼を言う。そんなマリアの笑顔に、エイダンも笑顔を返した。


「お二人がご無事でよかったです。それにしても、どうしてここに……?」

「私たち、皇女殿下の仲間協力者に選ばれたです〜。それで、この先の村の人に色々聞いて回ろうと向かっていた途中だったです」

「あぁ、そういうことでしたか」


エイダンは小刻みに頷く。しばらく考えると、二人に向けて優しく微笑んだ。


「それでは、この先も気をつけてくださいね。この辺りでは、ユニオンが貴族のことを狙っていますから。それとも、私の部下をつけましょうか?」

「あ、いえ。機密事項もありますので、せっかくですがお断りしておきます」

「そうですか。では、お気をつけて!」

「「はい! ありがとうございました!」」


元気よく返事をする二人。エイダンが軽く手を振りながら部下を連れて去って行く様子を見送ると、二人は村へと足を向けた。



つづく♪




〈次回予告〉

エイダンです。次回の、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』は……?

ルティア皇女殿下の前で男性が放った気になる言葉の意味とは……?

第9話『オドロキツヅク』! 次回もよろしくお願いしますね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る