第7話 キンチョウ・アンシン
「お前! どうして俺たちを狙う!?」
「……貴族は、嫌いだ」
「答えになってねぇ!」
会話がつながっていないことにいらついて大声で怒鳴るグレン。しかし、どんなにグレンが怒鳴ったとしても相手の黒服は動じない。
これ以上何か言ってくることはなく、ジッとにらみつけてくるだけの黒服。そんな態度が余計にグレンをいらつかせてしまった。
「魔法具までつけやがって! 男なら剣だけで戦えよ!」
魔法具とは、魔法を使う際になくてはならない道具のこと。そこに魔力を流すことで、自分の実力に合った魔法が使える。
黒服の右腕にはまっている腕輪型の魔法具を見つけてしまったグレン。いらつきを押さえることができず更に怒った彼は、剣を鞘から抜きだし、構える。
黒服もそれに習って剣を構えた。
「グレン……」
「うるせぇ。お前は黙って後ろにいろ。前に出てきたりしたら守れるものも守れねぇだろ」
「は、はいです……」
グレンのこれほどの怒りは学園でも見たことのないものだったため、さすがのマリアでもグレンの言うことを聞く他に選択肢がない。
マリアが少しだけビクビクしながらも頷いたところを見たグレンは、少しだけ安心する。そして、より剣を握る力を強くすると、相手と剣を交えることだけに集中した。
「……」
「…………」
お互いをにらみ合いながらじりじりと近づいていく二人。辺りはシンと静まりかえっていて、誰かが通る気配もない。
聞こえるのは、二人が円を描くように近づく際の足音と、三人の呼吸の音だけだ。
そんな状態が、しばらく続く。五分ほどにらみ合い続けたのだろうか。
両者ともの相手をにらみつける目力が一瞬強くなったかと思うと、次の瞬間には二人の距離はすぐ近くに縮まっていた。
「はぁ!」
「……!」
剣同士が勢いよく交わり合う。カキン! という大きな音のもと、グレンと黒服との剣の戦いが始まったのであった。
***
イーサンが倒れた男性の様子を調べている。息はしていて脈も正常なようなのだが、倒れたきりで目を覚ましそうにない。
「貴族様、お医者様をお呼びしました!」
「ありがとう。先生、頼みます」
「……はい」
平民たちが連れてきたのは、この城下町一体の怪我や病気の診察を担っている女性の医者だ。
彼女は男性の様子を見るため、イーサンと場所を入れ替わる。そして、男性の前に座り込むと、念入りに様子を見始めた。
「……」
「あの、先生? その人は、助かりますか……?」
アメリアの後ろから顔を出し、ルティアは医者に問いかける。じーっと様子を見てからルティアの方に顔を向けると、優しく微笑んだ。
「はい、大丈夫ですよ。喉に小さな欠片が詰まっているだけですので」
その医者の言葉を聞くと、そこにいた者全員がわあっと歓声を上げる。
怖さからずっとアメリアの左腕にしがみついていたルティアも、ホッとすると同時に左腕から手を離した。
「ルティア様、良かったですね」
「えぇ。ありがとう、アメリア」
安心が混じったルティアの笑顔を見ると、アメリアの心もやっと落ち着き、安心感に包まれた笑顔を返す。
男性が助かることが分かり、自身が男性の近くにいる必要は無いと判断したイーサンも、ルティアの元へやってくると、声をかけた。
「姫様、大丈夫でしたか? ……いきなりのことで、びっくりしたと思いますが」
「えぇ。でも、男性が助かるみたいでホッとしたわ。ありがとう、イーサン」
「いえ」
イーサンはルティア以外の人物には絶対に見せないような笑顔を向ける。
それによってより安心感が増したルティアは、先程よりも素敵な笑顔を浮かべる。そんな二人を見守るようにアメリアも微笑んだ。
「それでは、私は戻りますね」
「はい! 先生、ありがとうございました!」
ルティアがお礼を言うと、医者はルティアに小さく手を振りお辞儀をすると、その場を去って行った。
改めて、三人の時間に戻る。三人で向き合うと、最初にイーサンが話を切り出した。
「それでは、男性が起きるのを待ってから私たちもこの場を離れましょうか」
「えぇ。そうね」
そうしてルティアが思い切り頷いた、そのとき……!
「う、ん……?」
「「「……!」」」
道の端の方に移動させられて寝かされていた先程の男性が、目を覚ましたのだった。
つづく♪
〈次回予告〉
オスカーです! 次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!』は……?
目を覚ました男性のこと。そして、グレン様と黒服の気になる結果は……?
第8話『マジワルケン』。そろそろ僕たちも出してください〜!
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