第6話 ジケンハッセイ

「大丈夫か!? しっかりしろ!」


急に道端で倒れた男性に向かって声をかけるイーサン。イーサンらしからぬいきなりの大声に驚いたルティアは、アメリアの左腕にしがみつく。


「イーサン、その人は……大丈夫……?」

「これだけでは分からないです。息はしているようだから、大丈夫かと思われますが……。万が一のこともありますので、姫様は近寄らないようにお願いします」

「え、えぇ」


おびえながらも頷くルティア。しかし、怖さが増してしまったためか、アメリアの腕にしがみつこうとする強さがより強くなった。


「姫様……」


おびえるルティアに、倒れた男性を助けようと必死になるイーサン。そして、そんな二人を心配そうに見守るアメリア。


 三人は、目の前で起こったことに対して動揺を隠せないのであった——。



***



 マリアとグレンの二人が歩いているのは、左側の小さな村へと通ずる道。


二人は周囲に話を聞けそうな人がいないか確認しながら、村へと向かって歩いていた。


「なぁ、この先の村って、何があるんだ?」

「確か、糸と洋服の生産が盛んな村だったと思うです」

「そうか……。その村に、ユニオンの情報があるのか?」

「一応、貴族がドレスを購入してお店を出てきたところを襲われるという事例はあったです」


書類で得た情報を思い返しながら言うマリア。


マリアの言葉を聞きながら右側の草陰の方を見ていたグレンは二、三度頷いてから進行方向を向き、歩く速度を少しだけ速めた。


「グレン……?」


いきなりの速度上昇に驚いたマリアは、グレンについつい声をかけてしまう。しかしグレンは鋭い目つきでマリアの方を見る。


「静かにしろ。さっきっから後をつけてきてる奴がいる気がすんだよ」


声を潜め、マリアだけに聞こえるような小さな声で注意するグレン。相手に怪しまれないよう、顔は前に向けたままだ。


「……尾行されてるということです?」

「そういうことだ」


先程と同じように周囲を確認する素振りを見せながら頷くグレン。


幸い、相手はまだ気づかれたことが分かっていないようで、後をつけてきているだけだ。


「村が見えてきたら、一気に走るぞ。マリア、走れるか?」

「うぅっ、走るのは……苦手です〜」


少々眉をしかめてグレンに目線のみを向けるマリア。その様子から、よっぽど走るのが苦手なことが伝わってくる。


「苦手でも良いから、走れるか走れないかで答えろ」

「遅くて良いなら、走れるです」

「よし、そろそろ村も見え始める。合図したら走れ。良いな?」

「は、はいです〜」


しばらくの間会話が途切れる二人。歩き続けていくと、視界に村が見えてきた。


グレンはまだ相手が尾行してきていることを確認すると、マリアに目線を向ける。


「マリア、行くぞ!」

「は、はい〜」


ダッと勢いよく地面を蹴り、スピードを上げていく二人。二人が走り出すと同時に、尾行してきている相手もスピードを上げる。


グレンはこのまま走り抜け、村へと入ってしまおうと考えていたが、そう簡単にはいかないようだ。


「グ、グレン〜! 待ってくださいです〜!」


グレンの三分の一以下とも思われるスピードで、非常にゆっくりグレンの後ろを追いかけてくるマリア。


走っているとは言えないほどのあまりの遅さにグレンはあきれてしまい、人目につきやすいところへ逃げ込むという作戦を中止し、マリアの元へと駆け寄った。


「お前、勉強はできるのに運動はからっきしなのな」

「う、うるさいです〜! しょうがないじゃないですか! 誰にだって苦手なことはあるですよ!」


頰を膨らませて怒るマリア。しかし、作戦を中止した今、そんな呑気に構えているヒマはない。


がさっ! という大きな音が草陰から鳴ると、腰に剣を携え右腕に腕輪型の魔法具をつけた黒服の男が一人、現れた。


「ちっ。やっぱり振り切れねぇか」


舌打ちをしたグレン。マリアを自分の後ろにいてもらうようにすると、目の前の黒服をにらみ、自身の左側に身につけていた剣に手を伸ばした。



つづく♪




〈次回予告〉

……アーサーです。次回の『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!』。

ルティア殿下の前に現れた男とマリア様とグレン様の前に現れた男。それぞれが繰り広げる行動とは……?

第7話『キンチョウ・アンシン』。……次回も、よろしく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る