第5話 チョウサ


 書類の整理が終わってから数日後の、肆月二十日。


ルティアたちは、書類の情報だけでなく平民たちからも話を聞くため、聞き込みによる調査をすることになっていた。


今、ルティア、イーサン、マリア、グレン、アーサー、オスカー、そしてアメリアの七人は帝都へと向かう馬車に揺られている。


馬車が走る帝都への道は、舗装された道路を囲むように色とりどりの草花や木々が植えられた道だ。


「何か作戦を立てる手がかりだけでも見つかると良いのだけれど……」

「そうですね。手がかりがないと、何から手をつけるかも決まりませんしね」


素敵な外の景色を見る余裕もなく、心配と不安で表情が曇ってしまっているルティア。


そんなルティアがため息をつきながら発した言葉に同意したのはグレンだ。


その横では、マリアやオスカーも何度も首を縦に振り、さらにイーサンやアーサー、アメリアも控えめに頷いている。


「……有力な情報は、結局ほとんど見つからなかったし」

「あれだけの書類があったのに、情報の中身はほとんどどんな事件が起こったのか、だけでしたもんね」


今回の書類の整理によって分かったユニオンの情報を要約すると、主に三つ。


一つ目は、反社会的組織で貴族のことを襲ったり、貴族のやっている商売の邪魔をしたりなどの貴族・王族を中心とした襲撃をしていること。


二つ目は、現在推定四十名ほどのメンバーがいるということ。


そして三つ目は、どんな事件が起こったのかは把握出来ていてもユニオンの尻尾をつかむことは全くできていないということ。


あまり有力な情報は得られていないため、今回の調査で何か情報を得てこなければならないのだ。


「……姫様、そろそろ着く」

「分かったわ」


イーサンの発したぼそっとした言葉にルティアは心配が抜けていないながらも頷くと、馬車を降りる準備を始める。


また、それに乗じて他のメンバーも準備を始めた。


しかし、マリアたちより先に準備を始めたはずなのに準備がなかなか進まない様子のルティア。


気を遣ったマリアは、ルティアの肩をポン、とたたく。そして、それを見ていたアメリアもルティアに視線を向けた。


「とにかく、肩に力を入れすぎずに情報を集めていけば大丈夫だと思うですよ〜」

「えぇ、マリア様の言うとおりです。コツコツ情報を集めていけば、そのうち手がかりが見つかりますよ」


ルティアを安心させようと、準備をしながらルティアに笑顔を向けるマリアとアメリア。そんな二人の優しげな笑顔を見たルティアは、少し心が和らいだ。


「そうね。頑張るわ!」


ルティアも笑顔で言葉を返す。そんな風にして場が和んでくると同時に、七人を乗せた馬車は目的地へと辿り着いた。


七人は、そろって馬車を降りる。そのときに、暖かさと冷たさの混じったこの時期特有の空気が七人の肌をかすめていった。


ちなみに、今回の七人は髪色を変えて自分の正体がばれないようにしている。そうすれば、町の者に貴族とバレることはあっても誰だかバレることは無いのだ。


「それでは、また後ほどお迎えに上がります」

「えぇ。よろしくね」


馬車がゆっくり動き出す。後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、ルティアは笑顔で六人の方に体を向けた。


「それじゃあ、手分けして聞き込みに行きましょう。私とイーサンとアメリアはこのまっすぐの道を、マリア様とグレン様は左の道を、アーサー様とオスカーは右の道で良いかしら?」

「大丈夫です〜!」

「問題ありません」


六人とも大きく頷く。


「みんな、ユニオンのメンバーがいる可能性もあるから慎重にね。じゃあ、調査を始めましょうか!」

「「「「「「はい!」」」」」」


こうして、ルティアたちはそれぞれ自分たちの持ち場である道へと入っていったのだった。



***



 ルティアたちが入っていったのは城下町の中でもかなり大きな規模の商店街だ。野菜や果物などの食材を売る店や宝石を売る店、洋服を売る店などのたくさんの店が並んでいる。


何かを焼くおいしそうな匂いも立ちこめていて、楽しそうな雰囲気が漂っている。


「素敵な商店街ね!」

「そうですね」


商店街を見てはしゃぐルティアを微笑ましそうに見守るアメリアとイーサン。見守る二人は、とても優しい目をしていた。


「まずはお店をやっている方々に意見を伺ってはどうですか?」

「そうね。では、あそこの洋服店に入りましょう」

「はい!」


アメリアの意見に乗ったルティアが洋服店へ向かって歩き出すと、その後ろをアメリアとイーサンがついて行く。そうしてルティアがお店に入ろうと、ドアノブに手をかけたそのとき——!


「う、うぅ……!」


店の横の路地から苦しそうにうめき、首に手を当てた男性が出てくる。


イーサンはすかさずルティアを守ろうと剣を構えて前に出るが、男性はルティアに危害を加える様子はない。


それどころか、ドスンという音を立てて道端に倒れ込んだ。


「きゃあっ!」

「ひ、人が倒れたぞー!」


道を歩いていた人々が倒れたことに驚き慌てる。イーサンは、剣を鞘にしまうと慌てて男性の方に近寄った。


「大丈夫か!? しっかりしろ!」


イーサンのいつもの様子からは考えられない様子に驚いたルティアは、急に怖くなってしまい、アメリアにぴったりとくっついてしまったのだった。



つづく♪




〈次回予告〉

グレンです。

ルティア殿下の前で男が倒れた。その頃、俺たちのところでも事件が……。

次回、『皇女サマの奮闘記〜試練に追われて大忙し!〜』。第6話『ジケン』。お楽しみに。

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