第2話 邪神の加護
メイドさんに部屋へ案内してもらい、一応の配慮として絢の隣の部屋になっていた。
何故かは、絢が輪廻の保護者のように見えたからそうなったかもしれない。
「……ふぅ」
部屋に入って、メイドからは半刻したら飯の時間で呼びに来ると言って出ていった。半刻と言えば、一時間程度だと記憶している。
そして、輪廻は今日のことで小さなため息を漏らした。
部屋は1人で寝るには、広すぎる部屋だと思える。皆もこんな部屋でゆっくり出来んのか? と考えながらベットに身体を投げ出す。
「まさか、俺が異世界に行くことになるとはね……」
輪廻の一人称が変わる。いつも周りには、軽く猫を被っていて、本来の輪廻はこっちだ。
輪廻の容姿は、見た目も歳と変わらずには少年だとわかる。身長は130センチと、11歳にしては、低い方だと思う。服はぶかぶかな青暗い長袖に長ズボン。歩く時に裾は邪魔にならない程度になっていて、襟も普通より長めで唇は見えるが、顎は完全に隠れている。
顔は、美少年の範囲に入る。髪はサラサラで首までの長さになっており、ツリ目だが、まだ少年だから怖いより可愛い方に入るだろう。
(しかし、ステータスは余計な情報までも出してしまうな……)
溜息を吐きたくなる輪廻。このステータスでは誰にも言えないし、見せられないからだ。
輪廻のステータスはこうなっている。
−−−−−−−−−−−−−−−
崇条輪廻 11歳 男
レベル:1
職業:暗殺者
筋力:150
体力:200
耐性:100
敏捷:400
魔力:300
魔耐:100
称号:邪神の加護・暗殺の極み・冷徹の者
特異魔法:重力魔法(重壁・重圧)
スキル:暗殺術・隠密・剣術・徒手空拳・身体強化・言語理解
−−−−−−−−−−−−−−−
(一番、気になるのはこれだよな。『邪神の加護』って、何だよ……)
加護にツッコミを入れたい輪廻だったが、もう決まってしまったから仕方がないと諦める。
輪廻は偶然に偶然が重なって、この世界に来ることになってしまったが…………
(ようやく、あそこから離れることが……出来たっ!!)
輪廻は暗殺の裏稼業を営む崇条家のことは好きじゃなかった。一番嫌だったのは………………………訓練だった。
え、人殺し? そんなもんはどうでもいい。それがどうでもいいと思えるぐらいに…………厳しいのっ!!
特に、自分の兄である夜行が教える時は、いつも命懸けだ。兄は頭のネジが足りないのか、実戦しかやらないのだ。
相手は殺害依頼の相手、たまにヤクザや犯罪者とも殺(や)ったりした。
いつでも実戦、寝る前にも実戦、休む暇もなく実戦……………………ふざけんなぁぁぁ!! と叫びたくなる輪廻だったのだ。
相手が何も出来ない一般人ならいいが、銃を持っているヤクザや犯罪者とは死ぬかと思ったことは指の数では足りないぐらいだ。
だが、今は異世界にいて兄もさすがにここまでは来れないだろうし、もし地球の時に逃げたら、粛正として殺されてしまうので、今の状況は輪廻にとっては嬉しいことだった。
(だけど、ここには長くいられねぇな……)
その理由は、称号にある『邪神の加護』だ。暗殺者も結構駄目な感じがするが、それは人間の範疇には収まるが、『邪神の加護』は魔王や魔族側の範疇に入る可能性が高い。
もし、この称号がばれたら、運良くても監禁、悪ければ処刑される可能性もある。
だから、ここで出来るだけの準備をしてから出ていった方がいいと考えた。
「ふぅ、武器はこれだけか……」
輪廻が持ったまま、一緒に召喚された鞄。輪廻の学校は珍しく、ランドセルではなく、普通の鞄も認められている。
輪廻は手提げの鞄で、底には一枚のプラスチックで作られた底があり、さらに下には、1本のナイフが隠されていた。
いつも学校に行く時も常備しており、自分専用の特注で作られたサバイバルナイフに似たナイフだ。ナイフは目立たないように、黒く染められており、夜など闇がある場所ではなかなか悟られない武器である。
特注で作ってもらい、手入れも欠かずにやっているので、切れ味は当初の時から全く落ちていない。
(この世界でこのナイフだけじゃ、厳しいな……)
何せ、この世界では魔法があるのだ。ただのナイフでは、魔法で強化された剣と打ち合っただけで折れてしまう可能性が高い。
(確か、俺にも一つの魔法があったな……)
ステータスを確認すると、魔法は特異魔法の重力魔法になっており、特異と書かれている通りに、普通の魔法じゃないのはわかる。
魔法は何があるかはまだわからないから、調べる必要もあるだろう。
強さは必要だが、知識も必要だ。出ていく前に知識を得ておかないと、後に困ることが起きるだろう。
(もし図書館のような場所があれば、あとで教えてもらっておくか。あとは、この『邪神の加護』は何に使えるんだ?)
輪廻は使える物は全ては使うという信条を持っている。それが『邪神の加護』でも、同じのことだ。『暗殺の極み』は大体予測出来る。敏捷が高く、暗殺術と隠密のスキルが付いていることからそういう称号だとわかるが、『邪神の加護』にはわかりやすい変化がないのだ。
『冷徹の者』は…………多分、精神的な効果を強化する称号だろう。
(……うん、称号の効果はわかりにくいな)
これも調べることが出来たらいいのだが、明らかにヤバそうな加護が普通の本に出てくるかも怪しい。
(こういうものは、禁書とかに書かれていそうだな……)
輪廻はライトノベルなどの小説を読んでいたから、そうゆう知識もあり程度は持っていた。禁書は王族の秘密になっていて、王城の地下にありそうだなと考えて、今度ここを探険すると決める。
というように、ナイフを手で弄びながら思考に深まっていたら、突然にノックが聞こえて、慌ててナイフを鞄に隠した。
「え、ええと、もうご飯なんですか?」
メイドさんだと思い、声を掛けたが、違った。
「違うよ。絢だけど、開けていいかな?」
ここは時計がないからわからないが、感覚ではまだ半刻は経ってない。食事の誘いではないなら、何の用なのかわからないがとりあえず、入れることにした。
「はい、鍵は掛かっていないから入ってもいいですよ」
「ありがとうね」
部屋に入りながら、お礼をいってくる。その絢がじっとこっちを見てきたと思ったら、そんな呟きが聞こえた。
「……落ち着いているね?」
「え、そう?」
「うん、急に召喚されて親や兄とも離れ離れになったんだよ? 私も寂しいの。なのに、私より落ち着いていたから……」
「あー」
絢は、自分も家族と離れ離れとなって寂しいと思うが、まだ小学生だった輪廻の方がもっと寂しく感じているだろうと思って、輪廻の部屋に行ったのだ。
だが、当の本人は普通の様子だったからつい、聞いてしまったのだ。
「いつも家では1人だったからね」
「えっ?」
輪廻の言葉に固まった絢。兄の夜行は? と思ったが輪廻が話を始めた。
「父親は海外へ仕事でいなくて、母親は仕事で日本中を飛びまくっているからなかなか帰ってこないの。お兄ちゃんは休みの日なら、部活が終われば家にいるけど、平日は部活が終わったらすぐにバイトで…………げふっ!?」
「可哀相じゃない!!」
急に、顔に胸で抱き着かれて、ふがふがと息が出来なくて背中を叩くが、離してくれない。絢の胸はそんなに大きくないが、息を塞がれる程度の大きさはある。
さらに強く叩くと、絢も気付いてすぐに離れてくれた。
「ご、ゴメン! 苦しかった?」
「だ、大丈夫です……」
息を整える輪廻に謝り続ける絢。普通なら役得だと思う男が多いかもしれないが、息を塞がれるのは勘弁して欲しいと思う輪廻だった。
「だ、大体、夜行も可愛い弟を放ってバイトなんてっ!」
絢は夜行に対して怒っていた。両親がいないのに、まだ小学生の輪廻を1人で家にお留守番させているからだ。
その言葉につい、苦笑してしまう輪廻だったが顔に出さなかった。輪廻が言ったバイトと言うのは、裏稼業のことだ。両親も裏稼業で海外や日本中で仕事をしているのだ。
「いいですよ、生活の為に働いてくれているから、僕が我慢すればいいだけですから」
「輪廻君……」
絢は輪廻君は強いんだね……と頭を撫でながら考えていた。そして、一つの決意をすることになる。
「よし、私でいいならドンッと甘えてきなさい! 何かあれば何でも言うのよ?」
「え、いえ、いつでも1人でもやって行けたので、頼りすぎるのは……」
絢はさらに顔を近付けてくる。
「いいの!! 輪廻君はもっと甘えるべきよっ!!」
「……………………はい」
輪廻はこうなったら、何か言っても無駄だと経験で理解しているので、諦めたように言う。
「よし! お姉さんに何をして欲しい?」
「では、少しは顔を離してくれますか……? 僕も一応、男なんですから」
「ご、ゴメン!」
絢はハッと気付いて、すぐに離れてくれる。絢は顔を赤くして、それに輪廻は苦笑していた。
「絢さん、そろそろ半刻になるので、メイドさんに呼ばれるかと思いますよ? あ、隣同士ですし、一緒に行きましょうか?」
「う、うん」
絢はまだ顔を赤くして、なんで輪廻君は余裕があるのよ……と思いながらメイドさんが来るまで一緒に待つことにーー
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