第1話 王様
王女様にぞろぞろと着いていくクラスメイトと先生と少年。
しばらく歩いていくと、王女様の会話で出ていた王の間と言う場所に着いた。
「扉の向こうは王の間になります。これから王様がお見えになり、話が長くなると思いますが、静聴をお願い致します」
「わかりました」
「ありがとうございます。では、お入り下さい」
大きな扉が開き、王の間に入っていく。王座には、1人の男が座っている。
エリーの父親であり、ティミネス王国を纏める王様だ。その男は全員が王の間に入ってきた瞬間に立ち上がり、挨拶をする。
「皆、良く来た。エリーもお疲れだったな。私はここの国で、国王の立場にいるロレック・ミテス・ティミネスと言う。早速ですまないが、本題に入っても構わないか?」
「はい、お願いします」
笹木が一番前に出て一礼を返す。
「お父様、この方はササキ・エイジと言って、皆を纏めている方だそうです」
「すいませんが、姓が笹木で名が英二になります」
「ええと、エイジ・ササキになりますか?」
「ここの世界は名前が先になるなら、そうなりますね」
笹木はエリーの間違いを正しておく。間違えたままだと、後に響くかもしれないからだ。
「承知致しました。皆も姓ではなく、名前で呼んでも構いませんか?」
皆も英二に合わせて頷く。これからは全員が名前で呼び合うことに決まった。それらを黙って聞いていたロレック国王は…………
「ふむ、向こうでは姓が先になるのだな。では、英二殿は皆を纏めている存在で間違ってないな?」
「成り行きでそうなりましたが、僕が一番落ち着いて話すことが出来るみたいので……」
輪廻も落ち着いている方だが、歳のこともあり、聞き役に徹している。話すことは英二に放り投げるつもりだ。
「本題だが、魔王を倒して欲しいというのはエリーから聞いているな?」
「はい。そのために召喚したと聞いています。しかし、僕達にはそんな力があるとは思えないのですが……」
「それは心配するな。別の世界に召喚されたら、新たな力が手に入る。聞くより見た方が信じられるだろう。『ステータス』と唱えてみよ」
「え、ええと……『ステータス』!」
−−−−−−−−−−−−−−−
笹木英二 17歳 男
レベル:1
職業:勇者
筋力:200
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:200
魔耐:100
称号:輝神の加護・人類の希望・魅了する者
魔法:光魔法(聖光剣、天撃)
スキル:剣術・魔法耐性・身体強化・言語理解
−−−−−−−−−−−−−−−
これが英二のステータスになる。後ろにいたクラスメイト達も自分のステータスを確認して、職業は魔術師、巫女、鍛治師などと色々な声が聞こえていた。
「どうでしたか? 英二殿の職業は?」
「勇者と出ていますが……」
「おおっ! 貴方が勇者になりますか!」
周りの人はざわざわと好奇な視線を寄せる。クラスメイトの中に少しは嫉妬したような視線も混ざっていたが…………
(ふーん、あいつが勇者ねぇ)
輪廻はどうでもよいと言うように、自分のステータスを見る。
(こりゃあ、このステータスは誰にも教えられねぇな……)
輪廻のステータスには、ヤバい文字が入っていたからだ。
「ねぇ、輪廻君の職業は何だったの?」
「剣士でしたよ。おそらく、お兄ちゃんに剣道を教えてもらったことがあるからかな?」
「そういえば、夜行は剣道の大会で上位に入っていたわね」
とりあえず、輪廻は嘘をついた。絢は夜行が剣道をしていることを知っていたから、疑いもなく信じた。
「あ、あの。お願いがありますがいいですか?」
「お願い? 言ってみよ」
「ありがとうございます。間違われて召喚された輪廻君のことですがーー」
ロレック国王は英二に言われて、輪廻に気付いた。周りは16歳以上の人がいて、その中にまだ子供と言える少年がいたことから違和感がある。
「エリー、その少年は?」
「すいません。兄と間違われて召喚してしまったようなんです」
「それで、出来れば輪廻君に戦わせたくはないと考えています」
英二は間違われて召喚され、まだ小学生の輪廻に戦わせたいとは思わなかった。だから、前線には出さないで欲しいとロレック国王に頼む。
「わかった。しかし、自衛のために少年にも訓練を受けてもらう。前線に出さないことを約束しよう」
「ありがとうございます。自衛が必要なのはわかります。輪廻君もそれでいいかな?」
「はい。ありがとうございます」
ロレック国王にもお礼を言う。輪廻本人はそんなことは気にせずに、後のことを考えていた。
「ほぅ、礼儀正しい少年だな。向こうではこの少年のような歳でもこうなのか?」
「いえ、僕は輪廻君の歳では結構やんちゃでしたので、輪廻君が大人びていると思いますよ」
輪廻のことは前線には出さないと決め、次の話に入ろうとしたが…………
「次に……」
「待ってください!」
「え、菊江先生?」
いきなり先生がロレック国王の話をぶった切って、声を上げていた。大きな声に英二は驚いて声を掛けていた。
菊江先生はさっきまで混乱していて、大人しかったのだが、『前線』と言う言葉を聞いて、混乱していた頭の中がクリアになったのだ。
「『前線』に出すということは、生徒達を戦争に出すつもりなの!?」
菊江先生の言葉を聞いていた生徒達は、これからの未来で何をするのか理解させられた。
魔王を倒す過程に、戦争は必ず起きるのは予想出来る。菊江先生はその戦争に生徒達を送るのは許せなかった。
「貴方達は、未成年の生徒達に殺し合いをさせるつもりなの?」
「貴様! ロレック様になんてな口を……」
隣にいた立派な服を着た男が不敬だと騒ぐが、ロレック国王は止める。
「良い、下がれ」
「しかし……」
「下がれと言っておるだろ?」
「…………」
納得出来ないような顔で黙って下がる。
「その淑女の言う通り、魔王と戦争が起きたらそなた達を出すつもりだ。こっちが勝手に召喚しておいて更に戦争に出ろと言うことが如何に理不尽だということは私にもわかっている。だが、力が足りないんだ……」
続けて、ロレック国王は皆に向けて頭を下げる。
「頼む、助けてくれ」
「ロレック様!? 王様が頭を下げては……!」
横にいた男は慌てて言う。だが、ロレック国王はなんでもないように言う。
「この国が守れるなら、この老いぼれの頭ぐらいはいくらでも下げよう。頼み事をするのはこっちなんだぞ?」
「それは……」
男は何も言えない。ロレック国王が言っていることは正論なのだから。
「顔を上げてください」
英二がまだ頭を下げるロレック国王に言葉を放つ。
「僕はこの国を守ることを手伝いたいと思います」
「笹木さん!?」
「菊江先生、心配してくれているのは嬉しいですが、困っている人を放って置きたくないですよ。だから、僕はやります」
「笹木さん」
英二の覚悟に、菊江先生は何も言えなくなった。後ろにいた生徒も所々からも手伝うと言ってきている。まだ覚悟がない人も多数はいるが…………
その後、菊江先生は英二とロレック国王と話し合い、志望者だけが参加することで、戦争に参加したくない生徒を無理矢理参加させないことに決まった。
「ずっと立ちっぱしで疲れただろうから、1人に一つの部屋を与える。メイドに案内させるから部屋に向かって休むが良い」
ロレック国王はそう言って、それぞれにメイドが付いて、部屋に案内される。
「ええと、僕? 部屋に案内するけど、1人で大丈夫?」
まだ少年の輪廻を1人の部屋に泊まらせていいのか、聞いてくるメイド。と、横から絢が聞いてきた。
「良かったら私と一緒の部屋にする?」
その言葉に、ピクッと反応する男が数人いたが、輪廻はまだ小学生だからなのか、嫉妬の視線はなかった。
「ありがたいですが、1人の部屋の方がゆっくり休めるので、皆と同じように1人の部屋でお願いします」
「あら、大人だねぇ。無理強いはしないけど、困ったことがあったら言うのよ?」
「それか、私に申し出ても構いません。では、案内致します」
絢からの誘いを断って、メイドに案内してもらう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます