異世界に召喚された暗殺者の少年
神代零
プロローグ
眩しい…………
始まりは光に包まれて、何が起こったのかわからない状態だった。
だんだんと光が収まって、ようやく周りが見えるようになる。
周りには高校生の制服を来た男女と先生と思える大人がいた。その中に周りとの共通点がない11歳の少年が1人いる。
周りを見回す少年、崇条輪廻(たかじょうりんね)は何が起こったのか確認する。
周りには高校生が沢山いて、先生だと思える女性の大人が1人で、床を見ると魔法陣のようなものが描かれているのがわかった。
四方は壁に囲まれていて、学校の教室と同じぐらいの広さでドアは一つだけ。
と、そこまで確認出来た所で、一つだけのドアが開かれ、ローブを着た人が何人か入ってくる。
最後には、高貴な人が着るドレスで部屋に入って来る女性が見えた。
その女性が今の現状を理解させられるような一言を放つ。
「ようこそ、我が勇者達よ。私達の国を魔王の手からお助け下さい!!」
前に出てきた女性は、周りにいる高校生と変わらない歳に見える。さらに、召喚に成功したことに歓喜を覚えているのか、さっきの言葉と違って顔は笑顔だった。
急にそんなことを言われて、まだ現状を理解してもまだ信じられないのか、戸惑う者が多数だった。
目の前の女性が言っていた言葉、『勇者』と『魔王』。
そんな者は漫画やゲームなどに出ても現実ではいないと理解しているのに、『魔王の手からお助け下さい』と言われたのだ。つまり、魔法陣や周りにいるフードを被っている者を見れば、ここは地球ではないとわかる…………
「な、ななな、き、急に変なことを言わないで下さいよ!!」
一番目に声を上げたのは先生だった。
続いて落ち着いたのか、生徒同士で会話をし始めた。
「落ち着いて下さい。菊江先生」
「ここは間違いなく、異世界みたいだね〜。まさか、私達が召喚されるとは思わなかったけど……」
男女の2人はまず、先生を落ち着かせることから始めた。
菊江先生と呼ばれた先生は生徒から親しみを持たれて、好感の高い女性だ。今は、理解が追いつかないことが起こりすぎて少し混乱しているようだ。
男女の2人はこのクラスではリーダー的な存在である。男の容姿は別の学校からも告白される程に顔は良い方で、誰にも優しい優男のイメージがある。女の方は男女からも人気があり、ボーイッシュな性格でいつも活気がある女性である。
クラスメイトではない輪廻にはそんなことは知らないが。
そのリーダー的な男が質問をする。
「すみませんが、貴女は?」
「あ、頼む前に自己紹介をすべきでしたね。心遣い出来ず、すみませんでした。
私はティミネス王国の第一王女、エリー・ミテス・ティミネスと申します。エリーと呼んでも構いません」
「僕は笹木英二(ささきえいじ)と言います。確認したいのですが、僕達は召喚されたのですか?」
間違いなく、召喚されたのはわかるが、エリーからの口からも聞いておきたかったのだ。
「はい。魔術師の皆様が召喚しました。ただ、いつでも出来るわけでもありませんが…………」
「そ、そうですか。魔王の手から守って欲しいのは……?」
「詳しくはここではなく、王の間で話したいのですが構いませんか? あと、クラスメイトと言う意味はわかりませんが、反応は37人と出ています。全員いるか、確認をお願い出来ますか?」
クラスメイトは全員で36人で先生が1人なら数は合うが…………
「……え、君は?」
笹木は輪廻と目が合い、驚く。まさか、クラスメイトではない少年がいるとは思わなかったからだ。
笹木が声を掛けると、周りもそれに気付いてがやがやと騒いでいた。
「え、君は……崇条夜行(たかじょうやこう)の弟だよね?」
すぐにわかった女性はさっきのことがあったからだろう。
つまり、さっきまでは輪廻は兄である崇条夜行の学校にいたのだ。
「はい。お兄さんの姿が見えないのですが、もしかしてお兄さんと間違われて召喚されたかもしれません……」
輪廻は夜行の忘れ物を届けに教室まで行ったが、夜行は教室にはいなくて、さっきの女性から夜行はお手洗いに行っていると教えてくれたのだ。その後に、先生が来てすぐに教室内が光って…………
「夜行がいないの!?」
クラスメイトの中から声が聞こえて、そっちを見ると夜行の女友達である霧崎晴海(きりざきはるみ)がいた。
「探してみたのですが、姿が見えなかったから……」
「そんな……」
霧崎は悲しそうな顔をして落ち込む。笹木は驚きから立ち直って、話しかけてきた。
「ええと、君は崇条の弟だよね……?」
「輪廻でいいですよ。お兄さんがいないのは残念ですが、僕のことより他の人は大丈夫ですか?」
「ああ、今から確認してくる。お兄さんがいないのは淋しいかもしれないが、周りには沢山のお兄さんとお姉さんがいるから安心しておいてくれ」
「ありがとうございます」
輪廻は励まされたから笑顔でお礼を言う。笹木はそんな輪廻の様子を見て、大人びているなと苦笑しながら確認に戻る。
「名前を言っていなかったわね。私は栗原絢(くりはらあや)と言うわ。何かがあったらお姉さんに頼ってもいいからね」
「はい。僕は輪廻と言います。もし、その時はまた栗原さんに頼らせてもらいます」
ボーイッシュな女性は絢でいいと言って、横で確認が終わるまで待っている。
確認が終わり、全員で37人はいると確認が出来た。しかし、崇条だけは弟の方だが…………
「間違えられて召喚された方にどう謝罪すればいいか……」
エリーはまだ少年と言える歳の輪廻を巻き込んでしまったことに罪悪感を覚えていた。
輪廻は周りの高校生や先生なら召喚してもいいのかよと思ったが、口に出さないでおいた。
だが、口に出した者がいた。
「ふざけんな! 勝手に召喚して、何も一言もないのかよ!?」
「そうよ、間違えた人だけに謝罪するって変でしょ!」
と、あと数人からも同じように非難をエリーに浴びせていた。
言われて、ようやく気付いたように頭を下げてきた。
「すみません、貴方達のことも謝罪が必要でした。だけど、こっちも必死なんです。それを理解して欲しいです」
「必死だと? そっちの世界のことは自分達で解決しやがれっ! さっさと元の世界に戻せ!」
元の世界に帰りたい派の男がそう叫ぶが…………
「元の世界に帰れません」
「……は?」
「今は無理なんです……」
再度、謝るように頭を下げるエリー。
「顔を上げてください。今は無理とはどういうことですか?」
また笹木が質問をする。クラスメイトの中で笹木が落ち着いて話が出来ることから、笹木が話を進めることに暗黙の了解で決めたようだ。
「はい、今は召喚に使われた空間は閉じられています。それを開くためには、長い時間を待たなければなりません」
「長い時間とは、どれくらいですか?」
「50年ぐらいです」
「ふざけんな!!」
さっきまで叫んでいた男が怒りでエリーに掴み掛かろうとしたが、横にいたローブを被っていた男に抑えられた。
「ふぐっ!?」
「王女様に掴み掛かるとは何事か!!」
「止めなさい!!」
腕を捻ろうとした男にエリーが止める。
「その人の怒りはわかるから、酷いことをしないであげて……」
「しかし……」
「僕からも頼むよ。あとで僕からも話しておくから」
男は少し考えた後、離すことにした。地に伏せられた男は何も出来ずに抑えられたことから大人しくなっていた。
「すみませんでした。まだ続きがあるのですよ」
「続き?」
「はい。空間は時間を掛けてエネルギーを貯めています。そして、溜まったエネルギーがあれば、開くことが出来ます」
「……つまり、エネルギーを貯めれば、すぐに帰れると?」
「はい。しかし、そのエネルギーは質が高くなければ無理です。生き物の中で最上級の者ではなければ……」
「なるほど、魔王を倒せば帰れるということか?」
質が高いエネルギーと言えば、魔王に当て嵌まる。他にも当て嵌まる生き物がいるかもしれないが、無害な生き物をエネルギーにするより、魔王を倒して、この世界を平和にして帰った方がいい。
「わかりました。帰る方法があるだけはマシな方だと思います。皆もいいかい?」
後ろで話を聞いていたクラスメイト達も小さく頷く。本当はすぐに帰りたいと思う人もいたが、反論すると抑えられた男のようになるだけだと理解させられたのだ。
だから、今は話を聞いてから決めて行けばいいと考える者が多数だった。
「あら、魔王を倒さないと帰れないパターンみたいだねぇ」
「帰れるだけはマシじゃない? 魔王を倒しても帰れないパターンもあるみたいだし」
「おっ、輪廻君も小説とか読む方?」
「まぁ、暇な時に読みますね」
と、輪廻は絢と話しながら王女様に着いて部屋を出ていく…………
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