第6話 絶対




「わかったわかった。もう珈琲豆は食べないから。はい。安心して成仏してください」

「いや、そんな。簡単にできるでしょ、みたいに言われてもできません」

「えー。じゃあ。しょうがない。本物のあんたに再会できるまで、その姿でいいや」

「………いや。すんげえ嫌そうなんだけど。まさかさっきの珈琲豆は食べない宣言は嘘なのか!?」

「………珈琲の中毒性って計り知れないわよね」

「やっぱり!」

「まあまあ。大丈夫。我慢するから。悪かったわね。勝手に食べて。そうね。あとは。この戦いを終わらせて。最高で最後の一杯は全部あんたのものだから安心して」

「………ばーか。俺が美味しい珈琲淹れてやるから、二人で半分こだ」

「まあ。お優しいこと。私を置いて行った人間の言葉とは思えないわ」

「………謝罪の言葉は本体に任せる」

「是非そうして。あと、お涙頂戴の浪漫溢れる再会の言葉もね」

「おう。期待して待ってろ」

「ええ。待っているわ」


 わらわらと化け物が集まって来た。

 すでに赤黒くなり始めているものばかりだ。

 骨が折れそうだ。

 こきこきと首を鳴らしては大刀を片手に持って化け物に突っ込みながら、ふと思った。

 八十粒の珈琲豆のあいつは戦えるのか。

 もし戦えない場合、は、

 守りながら戦わないといけないのではないか。

 いやきっと大丈夫だろう。


 化け物に次から次へと一太刀浴びせつつ、あいつの姿を探そうとして。

 はたと、さらしの中に馴染みのある感覚を覚えて。

 にっこり笑った。


「………うん。よし。絶対。生き延びて、あいつを」


 大刀を持っていない片手でさらしの中に戻った珈琲袋を軽く叩いて、戦いを再開させた。











(2023.9.30)



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