第2章 46話 過去と未来
「……おばあさまは私をみくびっているわ……ずっと1人で抱え込んでいたのね?もっと私を信用してくれてもいいじゃない。私は弱いだけの子どもではないわ。少しくらいは助けになれる。悲しみは分かち合うことだってできるのよ」
クロエは悔しさから涙が込み上げてきた。キャロラインが嗚咽混じりで答えた。
「ごめんなさい……!!怖かったのよ!!何もかもが!!いつかクロエまでいなくなってしまうんじゃないかって!世界のすべてに怯えていたわ……!だから目をそむけ続けたのよ……」
「おばあさまは自分だけの空想世界で生きすぎよ。本当に私がおばあさまを1人残してどこかに行ってしまうと思う?私はおばあさまと一緒に泣くことさえ許されないの?私はおばあさまの空想世界の登場人物じゃないわ。現実世界の人間なのよ。私たち家族じゃないの?私だっておばあさまの力になりたいわ。1人で抱え込んで苦しんで、何も話してくれないのは寂しすぎるわ。信用されないのが1番悲しい」
クロエは両手でキャロラインを抱え込むようにしてすすり泣いた。ここでキャロラインは自分の犯してきた本当の罪にようやく気づいた。
「クロエの言う通りだわ!全部私1人の思い込みで作り上げたわがままだわ!自分のわがままをクロエのためだなんて自分勝手に思い込んで、だまし続けた!本当にごめんなさい……!本当に……」
キャロラインはクロエに身を預けたまま、弱々しく泣き続けた。クロエもキャロラインにつられた。キャロラインの気持ちが痛いほど心に刺さってきたのだ。クロエの怒りの気持ちは徐々に薄れてきた。代わりにキャロラインに同情する気持ちと、おばあさまには今までずっと守られてきたのだから、今度は私が守ってあげなきゃという意識が芽生えてきた。
「……私、おばあさまを許すことにするわ。話してくれてありがとう。心の底を打ち明けてくれてありがとう……いつも私を愛してくれてありがとう。そしておばあさまと話し合うことを提案してくれたシャルロットにも感謝しなくちゃね。私おばあさまが嘘をついていた理由がわかって少し……前向きになれたわ……まだ頭は混乱しているけど……だってお父さまの死を知ったのはたった2日前ですもの!ショック?ええ特大級にショックよ!ずっと引きずり続けるかもしれないわ!
でも……もう後ろ向きに考えることはやめるわ……昨日はすでに過去だもの。私たちは過去に向かって生きることなんてできないんだわ……けっして。変えられない過去の辛い出来事のことをずっと考えて生きていても不幸なだけよ……でも未来は私の意志で変えられる……私はまだ生きているんだもの!おばあさまもシャルロットも!いくら過去が辛くたって、今を幸せに生き続けることができれば未来はずっと幸せだわ!
だって今は未来の欠片なんですもの!過去の悲しみを引きずって今を生きていたら未来だって悲しいわ。おばあさま、過去の辛い出来事ばかりを思い返して未来の自分を不幸にしないで……私これから部屋に戻って、頭の中を整理するわ……それからもう一度食事を食べに戻るから、おばあさまはそれまでテーブルの食事を残しておいてくれるかしら?」
クロエはまだ泣きながらキャロラインを抱きしめて、一言一言をかみしめるように口にした。キャロラインはクロエに抱きついたまま、時折声を上げて泣き、言葉にならずに何度も首を縦に振った。そのまま時間が過ぎ、突然クロエがキャロラインを離した。そして、テーブルの上に置かれていたポットの水をコップになみなみとつぎ、一気に飲みほした。クロエはもう一度それを繰り返してから、大きく息を吐いた。
「……ふー、泣きすぎて喉がカラカラだわ……」
それを聞いたキャロラインは少し苦笑いを浮かべた。
「クロエ……本当に、本当にありがとう……そして、ごめんなさい。あなたは知らないうちにとても成長していたのね……いつまでも幼い頃のイメージが消えなくて……あなたを1人の大人として見れていなかったわ。本当にごめんなさい……」
「おばあさま、もう謝らないで。私が心苦しくなってくるわ。度が過ぎると謝られるほうも苦しいものよ。この件はもうあまり追求しないでおくわ。おばあさまの泣き顔ばかりが思い出されるのはどうかと思うわ」
クロエは袖で涙を拭いて大げさに笑顔を作った。キャロラインにはそれがとても頼もしくみえた。
「……クロエ、大すきよ!」
クロエはこの言葉を聞いてすぐさまキャロラインに抱きついた。クロエは「大すき」という言葉が大すきだった。
「私もおばあさまのこと、大すきよ!」
2人はそのまま何を言うわけでもなくしばらく抱き合っていた。クロエは2人を包む空気感が居心地良いものに変わっていくのを実感していた。深いぬかるみにはまってもがいていた2人が今はぬかるみを抜け出して、草の上で互いに馬鹿なことをしたと笑い合っている、そんな心境だった。そして、シャルロットが口にした対話の重要性について考えた。
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