第2章 24話 誘い
「きゃー素敵!愛しのリチャードが玄関で待ってくれているわ!」
先を進んでいたクロエが歓喜の声を上げた。シャルロットがクロエの影から顔を覗かせると、屋敷の扉の前でちょこんと三角座りをしているロボットの姿が見えた。
ロボットは頭を360度回転させて周囲を見張っていた。少女たちを発見すると、ロボットは2人を見つめて瞳を黄色く点滅させ、アンバランスに立ち上がり、重たい扉を開けて中へと戻っていった。
「リチャードは私たちを待っていたんじゃないの?出迎える前に屋敷に入っていっちゃったわよ」
シャルロットはロボットの行動を不審に思った。クロエは少し考えてから言った。
「ジャミールを呼びにいったのかも知れないわ……でも屋敷に入っておいでと誘っていたようにも見えたわね。どっちかしら?」
彼女はシャルロットの目を見つめて意見を求めた。
「うーん、どっちでもいいわ。考えるの馬鹿らしくなってきた。もともとロボットのお出迎え自体が非常識なのよ。私の常識は通用しないわ」
シャルロットは言葉を投げ捨てるように言った。
「……素敵だわ。私たちを常識という狭い
ああ、ジャミールは狼男で魔男で科学者でもあったんだわ。きっと屋敷は科学的なトラップでいっぱいよ。私たちがジャミールに会うに相応しい人物なのかを確かめる試練がたくさん用意されているのよ」
「このあいだ入ったときにはトラップなんてなかったわね」
シャルロットは深く考えずに思ったままを答えた。クロエは屋敷に向かいながら、まだ空想話を続けた。
「きっと今日、お屋敷の中では舞踏会を開催しているんだわ。私たちは白馬の王子様に会いに行くのよ!」
「昨日王子様は自分で荷車を引いていたわね」
シャルロットは辺りを見回しながら言った。屋敷の近くで目につくのは古い井戸とボロボロの納屋ひとつだ。2人は雑談しながら屋敷の入り口まで歩いた。
扉は開けっ放しになっていて、室内に灯りがなく、リチャードの姿も見えない。シャルロットは「うん」と小さくうなずいて玄関の呼び鈴に目をやり、クロエに指で合図を送った。
クロエは大きくうなずき、呼び鈴をつかんで鳴らした。錆びついた呼び鈴は予想外に大きな音を立ててカンカンと響いた。たが、すぐに静かになった。
クロエは様子を見ながら何回か呼び鈴を鳴らしたが誰も出てくる様子はない。シャルロットはリチャードがきちんとジャミールに話を伝えているのか心配になった。クロエは呼び鈴から手を離して早口で言った。
「きっとジャミールは私たちを試しているのよ。あえて姿を隠して私たちの様子をうかがっているんだわ。リチャードを玄関で待機させたのは私たちを誘導しようとしたのよ。
そっちがその気なら、いいわ。誘われて差し上げましょう!シャルロット、落とし穴があるかもしれないから気をつけて。
落ちてくる天井は私たちをサンドイッチにするかもしれないけれど、私、本棚によじ登ろうとしてつぶされたことがあるから平気だわ。少し息が止まるだけよ。
あら、シャルロットなら天井を支えて踏ん張れそうね。その姿が容易に想像できるもの。これっておかしいかしら?」
クロエはようやく自分の考えがおかしいことに気づいたのかシャルロットに答えを求めた。
「うん。おかしい!」
シャルロットは真っ直ぐにクロエの目を見て言った。とても短く、はっきりとした口調で。親友の目を覚まさせようとしたのだ。
しかし、クロエときたら、にっこりと笑って、
「まちがいないわ。人生はエンターテイメントだもの。真面目くさってなんか生きてられない!新しいファンタジーを探しに行きましょ!」
と、楽しそうに屋敷の中に入っていった。シャルロットは「どこまでが本気なのかしら」と頭をかきながらあとに続いた。
「扉が開いてるとそれほど暗くないわね。恐怖心が邪魔をしなければランプなしでも大丈夫そうね」
クロエはまじまじと石像を眺めながら言った。シャルロットはその言葉にビクッと反応してバックパックから取り出しかけたランプをもう一度しまった。平静を装って、
「1階、2階、地下のどこから回る?」
と、何故か
クロエは「どうしようかしら?」と首を傾げた。
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