第2章 23話 見たいものを見る
今にも雨が降り出しそうな空の下を2人の少女が歩いていた。髪をツインテールにしたクロエが軽いステップで先を行く。一方、今日はシャルロットの足取りが少し重い。
「でね、今日のジャミールは魔法で美しい王子様に変身していると思うの。昨日私たちが見たジャミールは世を忍ぶ仮の姿だったんだわ。
きっと世知辛いを世を生きるための処世術なのよ。危なかったわ。予備知識がないとあれをジャミールの真の姿だと思ってしまうところだわ。
魔法仕掛けのロボット、リチャードの創造主よ。素敵でないはずがないわ。ああ、夕焼けのタキシードにアジサイのシルクハットをかぶっている姿が鮮やかに浮かんでくるわ。本当の年齢は218歳ってところね。
あの古い屋敷は日が暮れると、半透明な雲の上に浮かぶ虹色の城に変わるのよ!夜は彼にしか見えない召使いにもてなされて眠りにつくの。
シャルロットも王子様相手にケンカはできないわね。私、シャルロットが王子様の前でお姫様のように微笑む姿が見られると思ったらドキドキが止まらないわ。ねえ、シャルロット、どうか私の震える手を握りしめて」
クロエは突然、演舞をするように回転してシャルロットに手を差しのべた。シャルロットはクロエの手が全然震えてないのを知っていた。
「あんたはいつも楽しそうね。私は少し気が重いわ。どう考えてもジャミールと気が合うとは思えないし、あんたのいう予備知識とやらに何の根拠も感じられないもの。解っているのは私が付き合いがいいってことだけ」
シャルロットはそう言うと、顔を上げて天を仰いだ。クロエがなぜこんなに都合のいい未来を予想できるのか謎だった。
「あら、人は自分の見たいと思ったようにしかその人を見れないのよ。シャルロットが最初から気が合わないと思えば、運命の人とも仲良くなる前に離れてしまうわ。
私はジャミールと気が合うと信じて疑わないの。だってそう思った方がずっと幸せだもの」
クロエは子どもっぽく頬を膨らませて笑った。シャルロットは首を横に振り「やれやれ」といった感じのポーズを取った。
「もちろん初めて会う人とは気が合うと思っていたほうがいいでしょうね。でも私はそこまで楽観的にはなれないわ。
だって、昨日ジャミールを見たとき、乞食かと思ったのよ。あれしか服を持っていないのかしら……」
シャルロットは歩みを止め、クロエの返答を待った。ジャミールが陰気な人物に見えたので、クロエが夢の世界の住人のままでいるのは危険だと思ったからだ。
「シャルロット、見た目で人を判断してはいけないわ。外見を着飾ることは容易だから、外見で内面を想像するのはもったいなすぎるわ。
内面に自信がある人は外見を着飾る必要なんてないもの。たとえ1着しか服を持っていなくたって私はジャミールを王子様だと思うわ」
夢見がちで現実的な才女は笑顔をこぼしながらシャルロットに背を向けて歩き出した。シャルロットはしぶしぶクロエの後について歩き始めた。足取りは重いままだ。それでも口元はゆるみ、クロエがそこまで言うならと開き直ったところもあった。
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