オーロラの雨
猫又大統領
読み切り
「SNSで噂のあの日、罪を犯した者はオーロラの雨が裁くって話」
寒さが覆った夜空を見ながらそう呟く彼女の口元から溢れる白い息に僕は見惚れた。しばらく顔を合わせないうちに大人のようなものになっていくその姿に僕は何故だか焦りの感情が心を這う。
彼女とは親同士が友達で幼いころよく遊んだ。今の彼女からは考えられないような子で、秘密基地を作る提案から設計、資材集め、場所決め、を彼女はどんどんやっていく。完成するころには彼女の腕やひざや顔にまでも擦り傷やアザが出来ていた。僕も必死に手伝ったけれど体には擦り傷はいくつか出来たけど彼女のようなことにはならなかった。そんな頑張る彼女に僕は男のプライドよりも尊敬が勝って付き従う日々を送る。その生活はとても充実していた。
彼女はあの時に作った僕らの隠れ家を今でもたまに一人、足を運んでいたらしい。その話を隠れ家に向かう道で聞いた僕は嬉しさが湧いたけれど、何故か素っ気なく返事を返す。そんな自分も情けなくて仕方がない。
僕は部活と勉強で幼いころのことより先のことに囚われた生活を送って、彼女が家に尋ねてくるまで彼女のことも隠れ家のこともどこかに仕舞い込んでいた。
記憶を辿ると彼女のお爺さんの行方不明がきっかけだと思う。彼女の家は資産家だったからお爺さんは誰かに殺されたんだと近所では噂があっちこっちであったのを覚えている。中には家族に殺されたんだという根も葉もないデタラメなものまで飛び出すような始末。
たしか、隠れ家が完成した時にこの事があってすぐに彼女に合わなくなった。隠れ家で遊ぶよりも隠れ家を作る時間のほうが長い。
彼女が見せてくれた隠れ家の設計図には地下室が書いてあったが、完成した隠れ家には地下は見当たらず、僕は彼女にも出来ないことがあるんだと少し上から目線で納得していたけど、僅かな悪戯心から僕は彼女に尋ねたことがあった。
「地下室出来なかったんだね」
この言葉に彼女は大粒の涙をこぼしてながら、一言。ごめん、と謝った。
僕は罪悪感に支配されてそれ以上のことは覚えていない。
「今、何考えてるの?」
彼女の声に過去を振り返って後悔してるとは言えない。
「え、きょ、今日は雨が降るらしい噂のオーロラの雨かどうかは知らないけどね。ただの噂。そんなもの無いよ」
「最新の天気予報だと雨も降るかどうか五分五分だって」
彼女はため息交じりにいう。
「念のため、折り畳み傘持ってきたんだ。さす?」
そいう僕の言葉に彼女は僕をみて更にため息をつく。
「あのさ。雨、浴びたいの、私」
「オーロラの雨? 悪い奴らが消えるんだよね、君は消えないよ本当だとしても意味ないよ」
僕の額に雨粒がひとつ。ふたつ。
そして、雨はふる。
「どう? 私? 消えてる? 溶けてる?」
雨の音が少し彼女の声を押さえる。
「綺麗なままだよ」
僕の言葉に少し下を向いて彼女は笑う。
「何それ、ようやくでた言葉がなんだか安っぽい」
「誰に言ったことないし、思ったこともないから……」
「なら受け取ってやろうかな。今度はもっといい言葉にしなさいよ」
彼女はそういうと僕の手を取り、歩き出す。
オーロラの雨 猫又大統領 @arigatou
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