六、座敷牢




 気がつくと、やっぱりそこは真っ暗だった。


 いや違う。少しだけど、ぼんやりまわりが見えるくらいの光がどこからか部屋にさしていた。




 そう、ここは部屋の中だ。


 時代劇の映画にでも出てきそうな、四畳半ってか、そんぐらいの狭いせまい和室だった。

 いや、和室じゃねえ。

 こんなもんがマトモな和室でたまるかよ。


 周りには、四角い柱がタテに、ヨコにはまってて、

 こんなもん、やっぱ時代劇に出てきそうな牢屋そのものだ。

 おまけにそのすぐ外側には、土の壁がギュウギュウに詰まってて。

 見てるだけで息がつまりそうだった。




 助けてくれ。

 死ぬ。こんなところにいたら死ぬ。

 こんなとこで死にたくねえよ。

 こんな暗い、せまいとこで。一人っきりで。


 新しい彼女もできたばっかなんだ。あの糞ダッセェ男捨てて、俺がモノにした女だ。クルマも新しいの買った。買ったカネはバイトの後輩クンに半分ださせてやったけど。

 明日ホテル行こうって、そんな時に。

 なんでもうあんな昔の、小学校の終わりのときのことなんか夢に見てんだよ。

 もうあんなガキみてぇなオマジナイなんてやんなくても、あんなこともう関係ねぇだろ。




 そんなこと、思ったんだか、叫んだんだか。

 いやに胸が苦しいって、そう思ってよく見ると、俺の身体は着物きてた。

 これもマトモな着物じゃねえ。キツくて、白くて、ガラ無しで。おまけに胸のあたりを見たら、左前、ってやつだった。

 ウソだろ。これ、経帷子きょうかたびらだ。

 小学校のときにジジイの、高校のときにババアの葬儀で着てたの見たから覚えてる。


 何なんだこれ。死ぬのかよ。

 こんなせまい牢屋みたいな部屋んなかに閉じこめられて。こんな死人のきる着物なんて着せられて。


 腹の底からゾッとした、そのときに。

 どっかから歌が聞こえてきた。




――― 因習村インシュウムラおく座敷ザシキ

――― 因習村インシュウムラおく囚獄ヒトヤ

――― 若宮ワカミヤ様をお迎えし。




 何なんだ。マジでなんなんだ。

 これ、祟りってやつなのか。それともバチが当たったとかいう奴なのか。

 小学校の終わりにやった、あのオマジナイが、今になって、こっちに返ってきたとでも。

 ひょっとして、他のやつらもこんな目に遭ってるのか。

 今までこのオマジナイ ―― ”若宮送り”とかいうのをやったやつ全員、こんな風に。

 あの日うめたカエルみたいに――。




 そこまで思ったあたりだったか。

 息苦しさがひどくなって、また目の前が真っ暗に。

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