四、因習村




 走った。

 走った。走った。走った。走った。走った。


 走っても走っても、なんにも明かりは見えてこねえ。




 なんなんだ。

 何があったんだ。

 悪いコトも、昔のコトもぜーんぶ捨てて。

 明日から長めの春休み、そしてその後ははれて中学入学だったはずなのに。


 そんなこと考えながら、真っ暗ななかを、何度もコケて、やぶに顔をつっこんで、枝で顔面たたかれて、手とかヒザとかすりむいて、クツなんかたぶん土でドロドロ。


 だから目のまえに、光でてらされた景色がうかんだときは、それだけで涙がでてきた。

 それが太陽の光じゃなくて、家やコンビニや街灯の明かりでもなくて。なんだか不気味な月の光だったとしても。




 空はまっくら。

 そのまん中に穴をまるく空けたみたいに、青じろい光がこぼれ落ちてきてる。


 そんな光をうっすらあびて、暗闇のなかに浮かびあがるのは、家、家、家、家。

 黒くしずんで、うすぼんやりと形もはっきりしてなくて、ホンモノっぽくなくてまるででかい影絵みたいでも、それはたしかに家だった。

 そんなのが、あっちに一つ、こっちに一つ、パラパラ建ってるありさまは。


 村だ。

 ここは、村だ。


 振り返ると、元きたところは真っ暗だった。

 雑木林がひろがってるのか、それとも違うなにかなのか、それもわからないほど真っ暗。

 そして真っ暗でなくなるあたりの地面から、一本、木の棒がたってて。

 いい加減にナイフかなにかで切りつけたような、でもはっきりと読める文字で、こう刻まれてた。




『因』『習』『村』。




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