三、ワカミヤ送り
――― サムライ映画にでてきそうな、タタミ敷きのうす暗い部屋。
まわりはまるでオリみたいに、四角い柱がタテに、ヨコにはまってて、
その外側はかたそうな土の壁が押しつぶすように迫ってる
そんな息のつまりそうなせまい部屋いっぱいに、あのカエルが倒れてる。
手足をだらん、て投げだして。頭をひっくり返らせて。白いハラが、ほんのすこし膨れたり下がったりして。
ああ、まだ生きてんのか、ってわかる。
と、いつの間にか、カエルはそのまま、人間にかわってて。
カエルのハラみたいに白い、葬式のときジジイが着てた死人の着物をきせられた若いオトナの男の人にかわってて。
胸がハァハァ息してんのが、少しずつ弱くなってくのが、よけいにハッキリ見てとれて。
ああ、コイツ、そのうち死ぬんだろな。
こんな暗い、せまいとこで。一人っきりで。
――― でも、そんなのもう、どうでも良かった。
「これでもう、いいんだよな」
「そりゃそうだろ。言ったじゃん」
「“ワカミヤ送り”はインシュウムラの中だけの話なんだ。俺たちにはもう、なんの関係もねえよ」
「小学校であったコトぜーんぶ、な」
そうだ。
ヤシロだか牢屋だか、とにかくぜんぶあの中に、“ワカミヤ様”といっしょに埋めてとじこめた。
そしてそのコトもぜんぶ、インシュウムラのサカイのなかに置いてきた。
だから俺たちにインシュウぜんぶ、悪いコトも古いコトも、もう、なんも関係ない。
一年のとき、給食でいつも牛乳のんでなかった有田のやつに『好き嫌いはだめなんだぜ。ちゃんと飲めよ』ってみんなで、こっそり取っといた牛乳むりやり飲ませたら、アレルギーとかで
二年のとき、ウサギは声を出さないって理科の授業で聞いたことがウソじゃないか、『いきものハウス』のウサギで“
三年のとき、学年いちばんトロかった古山のせいで運動会のリレー競争でボロボロに負けて「古山くんはセキニンをとるべきだとおもいまーす」って朝の会や帰りの会で何度かテーマにあげてたら、学校にこなくなったことも。
四年のとき、屋上から飛び降りやがった倉山がのこしていきやがった
五年のとき、大学からきた
去年の五月、『四月に入った白川ってマジうざいじゃん。あんたらからも、いろいろ“教え”たげてよね』って何人か女子にたのまれて、けっこうかわいい顔してた転校生を、トイレで裸にならせたり、シッコさせたり、動画とってやったことも。
ぜんぶ、ぜんぶ“ワカミヤ様”といっしょに埋まって土のなか。
そのことだって、ぜんぶ、ぜんぶ、インシュウムラのなかの話。
だからもう、俺らにはなんの関係ない。
バレることも、あとでなにか悪いことにつながることもなくなるって、この学校でた先輩とか兄貴から聞いたやつらの話を合わせて、この“ワカミヤ送り”をやったんだ。
いつの間にかみんな疲れて、駆け足はやめてたけど、足は軽かった。
明日はここの卒業式。それが終わったら春休みだ。
そんなことを考えてると、もう雑木林の外がみえてきた。
「みんな出て、誰かに見られたらやべえぞ」
「一人か二人、時間あけてこっそり出るんだ」
「えぇー、マジかよ」
面倒くせえけど、たしかにそれは仕方ない。
話しあったり、ジャンケンしたりで、一回ずつ順番きめて、五分くらいの感覚で、でっかいカシの木のよこ曲がってやぶの中の道をとおって、雑木林を出て行った。
最初のほうは、まだけっこうな人数がいて、春休みになにして遊ぶとか、中学いったらどうやってカノジョ作るかとか、そんな話してたけど。
一時間たつころには残り三人だけになって。
ジャンケンで俺だけ負けて、ほかの二人がやぶの中へ消えてくのを、たった一人で見送った。
空は夕ぐれ。
こんな雑木林のなか、3月の風はくっそ寒い。
あたりもうす暗くなって、道もだんだん、影のなかへとけていってる気がしてくる。
後ろのほうで、なにか音が聞こえた気がした。
――― もういいだろ。
五分はたったハズだって決めて、カシの木まわってやぶのなかの細い道へ駆けこんだとき。
いきなり、あたりが真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます