第34話 入学式
「はぁ〜っ」
「デカいため息……」
俺が頭を抱えて机の上でため息をついていると、隣からリオネッタが笑いかけてきた。
「何か……あったの?」
「何か、って……見れば分かるだろ……」
そう言って俺は今俺たちがいる教室を目で指し示す。
するとリオネッタは俺の視線を追って、納得したようにあぁ、と呟きを漏らす。
そんなリオネッタを横目にもう一つデカいため息を。
「ロサリア。ため息ばっかりだと幸せが逃げていくらしいよ」
そう言いながらリオネッタの後ろの方からウコンが近づいてきた。
「ウコン。逆だ。幸せが逃げていったからため息が出るんだ」
「どっちでもいいけど、あまり気にしない方がいいよ。気にしてばっかりだと精神をすり減らしちゃうからね」
そう言いながらウコンもリオネッタと同じように、教室に目を向ける。
「あれが噂の残虐侯爵……」
「シッ! ……気をつけた方がいいぞ。何されるか分かったもんじゃない。気に入らない人間の指を一本ずつ折っていったことがあるらしいぞ……!」
「俺は植物人間にされた奴がいるって聞いた!」
今となっては懐かしいこの感じ。
入学試験の時の再来である。
魔族の襲来を撃退したり、復興に尽力したりしていたおかげで、この街に住む住人主に被災した地域の人々からの信頼を得ることができた俺だったが、国中から生徒が集まるこの魔法学院では、俺の悪評はまだまだ広まっている。
彼らが俺のことをアスファルト侯爵と呼んでいるのがその証拠だ。俺は現在男爵の地位にあるからな。
なまじ俺がかなりの実力を持っているのも、人々を不安にさせる原因のようだ。
先ほどあった入学式でした新入生代表挨拶の時も、俺が壇上に上がると一気に会場がざわついたしな。…………すごく泣きたかった。
「……ったく。まぁ仕方ないか」
仕方なく諦めて、俺はカバンから本を取り出す。
「その本……何?」
「初代勇者に関する童話だよ」
「へぇ〜。ロサリアは初代勇者様に興味があるの?」
「ん〜…………まぁな。最古の魔王と初代勇者はどんな風に戦ったんだろうな。文献を読む限り最強の勇者様相手に魔王はどう戦ったんだろう」
俺がそう言うと、ウコンもリオネッタも急に目を輝かせ始めた。
「そうだよね! 初代勇者様の開発された無属性魔法は本当に完璧なんだ! 尊敬するよ!」
「すごい剣士だった、って聞いてる。…………1回戦ってみたい」
この国どころか、この世界に住まう人々にとって、初代勇者とは崇拝の対象である。
人類で唯一スキルレベルが2桁に達した初代勇者。
俺も同じく、2桁のスキルレベルではあるが、さまざまな文献を読む限り、俺と初代勇者が同じ等級の魔法を使っても、威力は月とスッポンのように異なっているだろう。
もちろん、俺がスッポンな。
この差は込められている魔力の密度、基礎レベル、EXスキルによって異なってくる。
俺が初代勇者と同じレベルにたどり着くにはまだまだ時間がかかるだろう。
「あっ、あのっ! アスファルト男爵!」
俺が興奮している2人をぼーっと眺めていると、後ろから突然声がかかり、俺はビクッと体を震わせながら振り返る。
するとそこには、俺たちと同じクラスになった2人の生徒がいた。
プルプルと身体を震わせており、ガッチガチに緊張しているのが伝わってくる。
「どうかしたか?」
これ以上クラスメイトの緊張を煽らないよう、優しく問いかけると、2人は揃って頭を下げてきた。
「先日の魔族災害の時は、本当にありがとうございました! 自分の父は宝石店を営んでいるのですが、店の再建から営業再開のための資金援助まで…………アスファルト男爵のお力添えがなければこんなに早く営業を再会できるなど思いもしていませんでした! ……なんとお礼を申し上げればいいか」
「わっ、私も! …………父が魔族に襲われ瀕死だったのをアスファルト男爵にお助けいただいたと聞きました。父を助けてくださり、本当にありがとうございました!」
そう言って深々と頭を下げる2人。
呆気に取られ、少しの間フリーズしてしまう俺。
教室もザワザワッと喧騒に包まれる。
「…………顔を上げてくれ」
俺の言葉に2人のクラスメイトが顔を上げる。
「この街はアスファルト家が治める街だ。この街に何かあった時、君たち市民を助けるのはアスファルト家の人間として当然のこと。そう礼を述べる必要はないし、俺たちはクラスメイトだ。そんなふうに畏まる必要もない。…………2人の名前を聞いてもいいか?」
「シオンと申します」
「僕はコバットです」
「そうか。シオン、コバット。今、俺は礼を言う必要はないと述べたが…………正直に言うと、君たち2人からの感謝の言葉で俺は嬉しくなった。こちらこそ礼を言いたい。ありがとう」
滅相もない、とブンブン首を振る2人と少し会話を続け、彼らが自席に戻っていくのを見届けた俺は、再び前に視線を戻す。
す
ると、リオネッタとウコンがニヤニヤしながら俺を見ていた。
「…………なんだよ」
「「よかったね〜」」
「お前ら……俺を揶揄うようだったら電撃喰らわすぞ?」
すぐに押し黙る2人を見て笑いが込み上げてきた俺は、その笑みを隠すように本に視線を落とした。
【あとがき】
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
1章完結です!!
カクヨムコンに出すので、区切りのいいここで10万字を狙っていたんですが、ぜんっぜん足りませんでした。恥ずい。
明日明後日は、一旦状況やら何やら、皆さんの頭の中でごっちゃになっていることを整理するための用語解説や魔法についての解説話を投稿します。
週明けの月曜から2章の学院生活編が始まりますので、これからも引き続きお付き合いください!
最後になりますが、よろしければ応援やコメント、星を入れて頂けると嬉しいです!
レビューコメントもめちゃくちゃ喜びます!
よろしくお願いします!
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