第33話 様々な文献


「その…………ご主人様……」

「んー?」

「……そろそろ休まれてはいかがでしょうか? 明日は入学式ですし、ご主人様は新入生代表挨拶の役もあります。万全の体調で臨まれる方がよろしいかと」

「そうだな〜。そろそろ寝なきゃな〜」


 本から目を離し、時計を見上げる。


 時刻はもう夜の12時を回ったところだ。


 明日の魔法学院の入学式は8時半集合の9時開始だったので、6時ごろには起床したいところ。


 それならば、そろそろベッドに入った方がいいが……


「もうちょっとだけだから! このページが終わったら寝るから!」

「そのセリフは3回目ですが…………かしこまりました」


 ラミィの許可を得たので、再び本に目を落とす。


 風神アーティシア様から助言を得た後、俺は全魔力を使って爆速で復興を進めた。


 家の建設やインフラの整備、各商店の損害と補償などを全て片付けた俺は、母上に一つ頼み事をした。


「国立図書館に入り浸る権利をくれ」と。


 王都にある国立図書館は基本的に一般開放もされているが、俺が望んだのは一部の人間しか立ち入りの許されない禁書エリア。


 そこは、王が直々に許可した人間でないと入ることが許されない、国の歴史や他国との関係などが記載された本が集まる場所だ。


 魔族を撃退し、迅速に復興を終わらせた功績をもって、俺は禁書エリアに立ち入る権利を国王から得た。


 そこからは、国立図書館に入り浸り、調べ物をする毎日。


 調べている内容は主に、


・最古の魔王ドヴォルザークについて

・初代勇者について

・神獣の霊廟について

・草の国ナーシャと神獣の関係について



 の4点。


 ドヴォルザークについては、

「人類にあだなす存在であること」

「古代龍を従えていたこと」

「人類で唯一、スキルレベルが2桁に達した初代勇者に敗れたこと」


 が書かれており、既に持っていた知識と何ら変わりはなかった。


 初代勇者については


「神々の使徒であったこと」

「全属性の魔法を使えたこと」

「無属性魔法を発明したこと」

「最古の魔法ドヴォルザークを倒したこと」


…………そして、


「異界より来た人間であること」


 が分かった。


 つまり、初代勇者は俺と同じく転移者だ。


 転移元が日本かどうかは分からないが。


 そして、残念なことに、初代勇者が最古の魔王ドヴォルザークと同一人物であるという記載はなかった。それどころか、初代勇者の名前すらどこにも記載されていない。初代勇者について分かっているのは、頭抜けた魔法の才と、異界からの転移者であることと、女性であることだけだ。


 神獣の霊廟について。


 書物を読んだところ、どうやらここは現在、観光地になっているらしい。


 この霊廟はダンジョンの様になっているらしく、最深部に霊廟があるのだとか。


 金を払えば誰でもダンジョンに挑戦できるが、霊廟に辿り着いた者はこれまでいないらしい。よって、本当にここに神獣がいるという根拠はない。


 草の国ナーシャと神獣の関係について。


 俺が住む風の国ブロウは、風と芸術の国だ。


 風神アーティシアは政に一切関与せず、人間である国王が政治を行なっている。


 それに対して草の国ナーシャは、草と勇者の国。


 初代勇者が最初に降臨した国とされており、これまで勇者を最も輩出している国でもあるらしい。


 ちなみにだが、今まで散々勇者勇者と言ってきたウコンだが、アイツはまだ正確には勇者ではない。


 何故ならば、先代勇者が逝去すると、ウコンと同じく、初代勇者の紋章を持つ人間が各国に必ず1人生まれるからだ。


 先代勇者が逝去して15年後に、ナーシャで勇者トーナメントが開催される。各国の勇者7人+その世代で最も武に名を馳せている人間1人のトーナメント戦。


 初代勇者の紋章を持つ者と持たない者では力の差が明確なので、当然勇者に一般人が勝つことはありえない。


 武に名を馳せている者はあくまでも、盛り上げ役として呼ばれるだけだ。まぁ、それでもこれ以上ない栄誉ではあるが。


 話が逸れたが、この勇者トーナメントにおける優勝者が、正式な勇者として歴史に名を刻む。


 よって、そのトーナメントの前までは、ウコンのように手に紋章を持つ者のことは勇者候補と呼ぶのが正しい。


 ゲームをプレイしていた俺はウコンが勇者になることは知っているのだが。


 そして、ナーシャの政治体制だが、神が1人で政治を行っている。


 草神バローナ。


 草と…………もう一つ何を司るか、明らかになっていない神だ。


 アーティシア様とは違い、毎日のように民衆の前に姿を晒す草神だが、明らかになっていないことが多い。


 書物を読む限り、意図的に隠しているようだ。理由は想像つかないが。


 アーティシア様も、彼とは数百年も会っていないらしい。


 そして、気になるナーシャと神獣との関係だが…………


 草神と同じように、何故かこのことに関する記録が一切ない。


 隠す必要のないことのはず。


 どの書物を読んでも、


「この地に降臨した神獣様は、ナーシャのとある遺跡にて、人々の安寧を守った」


 としか記されていない。


 ほぼ100%、裏に何かあると見て間違い無いだろう。


 色々調べて分かったことだが、やはり初代勇者を仮死状態から覚醒させ、本人から直接聞くのが1番早いと思う。


 数百年前に起こった出来事をこれ以上知れそうにないしな。


「…………ご主人様。もう1時を回られていますが」

「マジ!? すぐ寝ます! おやすみ!」


 急いで本を片付け、ベッドに飛び込むと、ラミィは部屋の電気を消して俺の部屋から出ていった。


 俺がすべき第一歩は、一刻も早くナーシャに行くことだな。



【あとがき】


 次章への布石とかを詰め込みすぎて新出の情報が多くなりすぎてしまいました。読んでて頭パンクしてしまっていたら申し訳ありません。


 まだ第一章が続きますが、次章は『草神バローナとドヴォルザーク編』になると思います。


 これからもよろしくお願いします!

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