第32話 風神と使徒 ②
大きな窓と椅子が特徴的な部屋で、風神アーティシア様は微笑みを浮かべている。
『それじゃあ…………お話し、しようか』
そう言って椅子に腰掛けた彼女だったが…………え、そっち? 神座に座るんじゃないの? なんで普通のソファに座ってんの?
ガン無視された神座が可哀想に思えてきた頃、アーティシア様がこてっと首を傾げる。
なかなか話さない俺を不思議に思っているのか。
慌てて話し始めようとするも、何から話すべきか迷ってしまう。
今日来たのはヒィロンの言っていたことが本当かどうかの事実確認をするためだ。
しかし、せっかくの機会、俺の身に起こっていること含め聞きたいことが山ほどある。
「魔族が襲来した日、俺の友人を助けて頂いたと聞きました。今日はそのことのお礼に参ったのです」
『…………そのこと。どういたしまして』
「何故彼女を助けていただけたかお聞きしてもよろしいですか?」
七国の中で一番人間と交流を持たない神。それが風神アーティシア様だ。
そのはずが、何故か今回は人を助けた。
『それは…………あなたが使徒だから』
俺が使徒だから?
だからなんだと言うのだ?
『我々七神は…………かつて、天空の島に住んいた。そこには、他にも神がいた。その神々の中の誰かが、最高権力者であった私たちを嵌めて地下に落とした』
「地下?」
『この世界のこと』
なんとも斬新な表現をしたものだ。
おそらくだが、その天空の島を基準に考えたからそのような呼称になっているのだろう。
『使徒の力は…………力を失った私たちが託した…………神々の種』
「種?」
『種はいづれ…………発芽する。でも、どんな花が咲くか、どのような色の葉になるか。それらはすべて…………あなた次第』
要は使徒の力は十人十色ということか。
どの神のどの力を伸ばすか、その力で何をしたいかによって発現する能力が変わったりでもするのだろうか。
『神の力は…………魔力を必要としない。神力と呼ばれるものを使う』
「神力?」
『使徒であるあなたの身体にもすでに流れている。だけど、普通の人間には扱うどころか感じることすらできない』
「どうすればいいんですか?」
『神力を使える人間から…………直接教えを請うのが1番いい。神の使う神力は…………人間の使い方と違うからコツを掴むのは難しいし、自分でやるのも頭抜けたセンスがないと無理だから』
神力を使える人間…………そんな人がいるんだろうか。
帰ったら文献やら何やらで一通り調べる必要があるな。
『他に聞きたいことはある?』
「じゃあ…………俺の身にかかっている呪いについて何かご存じではありませんか?」
『呪い?』
意味があるかは分からないが、俺はステータス画面の呪いの欄を開く。
・古代龍の呪い
最古の魔王、ドヴォルザークに仕えた12の魔龍による呪い。被呪者は【四風亡者】効果を常時獲得。
【四風亡者】 全ステータス-30%,獲得経験值-100%,思考略奪,精神腐敗
警告:ロサリア・フォン・アスファルトの存在を未確認。該当効果、発動不可。
首を傾げ、俺を凝視した後、納得したように軽く頷くアーティシア様。
『その呪い…………いつかけられたの?』
「分かりません」
『うん…………解呪されていないのに…………正気を保ってる。混ざってる?』
「多分おっしゃる通りです。俺はロサリア・フォン・アスファルトではありません」
なるほど、と首を上下に振るアーティシア様。
神座に足を投げ出し、何やら真剣な表情で空中の一点を見つめている。
こう言っちゃなんだが、この神がボーッとしていないのを初めて見たかもしれない。
「あなたが混ざった原因は、私たちじゃない。おそらく、呪いをかけた奴と同一人物」
「同一人物? この呪いをかけたのは古代龍じゃないんですか?」
『古代龍如きが、一瞬でも私の目を欺けるはずがない。それに、効果の強さを考えても古代龍とは格が違う。裏にいる何かのせい』
古代龍は操られているだけなのだろうか?
「古代龍に直接聞きに行ってもいいと思いますか?」
『やめるべき。ここ数十年は静かにしてるトカゲだけど、刺激するのは得策じゃない』
ふぅむ。手詰まりということだろうか。
『私から…………一つ提案』
古代龍の背後にいる存在について考えていると、アーティシア様がそう言う。
『神力の使い方と…………その呪いの調査同時に行える方法がある』
「そんな方法があるんですか?」
『うん。…………初代勇者に聞くのが早い』
「初代勇者? 生きてるんですか?」
12の古代龍を従えた最古の魔王ドヴォルザークを倒した初代勇者。
ウコンが使う無属性魔法を創造した人物でもある。
古代龍を知っている存在だから、その人に聞くのが一番早いが接触できなきゃ意味がない。
『あの娘は死後…………神獣になった』
神に?
人間が神になれるのか?
というか今更だが、七神以外にも神はいるのか。
『今は仮死状態だけど…………起こす方法はある。草の国、ナーシャに霊廟がある』
「草の国…………」
遠いな。
これから学校生活が始まる中で隣国とは言え国境を跨ぐのは少し時間がかかる。
まぁ、そのことについてはおいおい考えるとしよう。
「ありがとうございます。ナーシャに向かってみようと思います」
ありがたい助言を頂き、頭を下げる俺に対し、アーティシア様はとんでもないことを言った。
『うん。初代勇者に…………ドヴォルザークによろしく言っといて』
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