第31話 風神と使徒 ①
緊張のあまり、式典の記憶はほとんどなかったが、俺は男爵の爵位と領地を少し受け取ったらしい。
爵位と領地を受け取ったということは、俺は実家から出て、自分の領地に住まなければならないということだ。そこの統治もしなければならないはずだが、俺の年齢の若さのため、特例で王国の推薦する秘書をつけることになった。
式典の後の立食パーティーでは、知らん貴族からめちゃめちゃ話しかけられた上に、色んな女の子からも話しかけられてかなり体力を消耗した。皆、金と領地目当てって考えると怖い。
人間ってすげぇよな。
ほしいもののためならこんな媚び売れんのか、なんて考えながらチキンを喰う。かったからか、一瞬で過ぎ去った式典を終え、俺たちはそのままウコンのテレポートで帰還した。
ただ、母上と親父は国王の飲んでくるらしく、帰宅は明日になるらしい。
屋敷に帰ると、時刻はもう丑三つ時。
いくら屋敷と被災地の距離があるとはいえ、真夜中にゴーレムを動かして復興作業を進めるのはさすがに迷惑か、と考えてそのまま眠りについた。
♢
朝起きると、すでに執事やラミィたちが朝食の準備をしていた。
簡素なパンにスープという簡素なものだが、被災している今はめちゃくちゃスープが美味い。
やはり、温かい飲み物は人間を落ち着かせてくれるよ。
朝食を終え、みんなに指示を出すと、俺は護衛をつけずにそのままの足で街を出て丘の上にある教会を目指した。
緩やかな傾斜を持つ丘の上をゆっくり登っていく。
転生したばかりの頃は、落ち着いたら訪問しようと考えていたが、入学試験があり、魔族に襲来されたり、復興があったりと、なかなか機会が訪れなかったため、後回しになってしまった。
「これはこれはアスファルト様。本日は一体どのようなご用件で?」
教会の門をノックすると、中から白髪の神父がニコニコした様子で顔を出してきた。
突然だが、俺の悪名は国中に広まっている。
『どれだけ才に溢れていても、アスファルト家の長男とは関わるな』
貴族の間では、自らの子供にこういったことを教えている人たちもいるらしい。
しかし魔族を撃退して以降、多くの人が俺を受け入れてくれるようになった感じがする。
噂は噂なだけで本当は違ったんじゃないか、と人々の心を少し動かせたようでうれしい。
「突然来訪してしまって申し訳ない。風神様に謁見を願いたくてな」
「なるほど。そうでしたか。しかし、残念ながらと言いますか、風神様は部屋から滅多に出てこられないのです。我々は彼女を尊重しています故…………」
申し訳なさそうに言ってくる神父。
「問題ない。扉越しに少し声を聞いてもらうだけで結構だ」
「それなら大丈夫でしょう。こちらです」
そう言って中に招き入れてもらう。
内装は、通常の教会とほとんど変わらない。
唯一にして最大の変化ポイントは、教会の奥に神像がないこと。
代わりに、大きな部屋がある。
そこが風神アーティシアの神室だ。
礼拝をする場所から一つ扉を抜け、廊下を通っていくとその部屋はあった。
手で案内を終えた神父が下がり、礼拝所に帰っていくのを見届け、扉に向かって声をかける。
「アーティシア様。いらっしゃいますか?」
『入って』
声と共に大きな扉がゆっくりと、一人でに開く。
おそらく、今まで誰も踏み入れたことがないであろう神室の中に入ると、風神アーティシアが、巨大な窓から街を眺めているのが見えた。
『…………お茶、いる?』
「ありがとうございます」
なんて返答していいか分からずに、時間をかけて肯定の返事を出すと、アーティシアは満足したように頷き、カチャカチャと音を立てながら慣れない仕草でお茶の準備を始めた。
やり方が分からなくなったのか、首を傾けながらポットと茶葉、カップの間で視線を彷徨わせるアーティシア様。
手伝った方がいいんだろうか?
「…………お手伝いいたしましょうか?」
『……これくらいできるもん』
フルフルと首を振りながら拗ねたようにそう言い、再び格闘を始めるアーティシア様。これは、最後まで自分でやらせるのがいいだろう。
2時間後。
ようやくお茶を淹れられたのか、満足げな様子でカップを2つ持ってくるアーティシア様。
…………大変だった。
バレないようにお湯を継ぎ足したり自然にお茶の淹れ方を教えようとしたり…………マジで疲れた。
俺の前に置いてくれたお茶を礼を言ってから啜り……って美味いなおい! 淹れ方分からないのに成功したらめちゃめちゃ美味いお茶が淹れれるのか。
『それじゃあお話し、しようか』
俺と同じようにお茶を啜ってから、俺の対面に座ったアーティシア様はそう言った。
【あとがき】
お時間と興味があれば是非新作も読んでくれると嬉しいです!
よろしくお願いします!
「美男美女しかいない学校で、フツメンの俺がモテる件。」
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