第30話 拉致
「おい。マジでどういうことだよ」
多くの従者に囲まれながら、俺は横でニヤニヤしている親父を睨みつける。
どうしてこうなった。
もう一度冷静に思い出してみよう。
王都からの物資を受け取り、即席の氷すべり台で盗賊と一緒に物資を街まで運んだ後、俺はウコンのテレポートで街まで帰った。
滑り台を使わなかったのは、体調の悪い状態で10kmも滑ったら間違いなくゲロッたのと、お尻が冷たそうだったから。
テレポートにはかなりの魔力を使うのか、ウコンは嫌そうな顔をしていたが、それでも屋敷まで送ってくれた。
そんで、そっからラミィを含めた従者たちに避難民への対応と新たに届いた物資の配分について指示を出して、俺は休息をとったんだよな。
そして目を覚ましたら…………何故か王城にいた。
意味が分からんが多分ここは王城。豪華な調度品で埋め尽くされた部屋で目を覚ますと、見知らぬメイドの人たちにあれよあれよという間に応接室のような場所に移動させられ…………そして今に至る。
メイドに着せ替え人形にさせられながら、俺は寝起きで回っていない頭を必死に働かせる。
おそらく…………というかほとんど間違いなく、この状況は横でニタニタしている親父と母さんが原因だろう。
「んで結局なんだよこれ…………起きて急に着せ替え人形にされるなんて想像できんわ」
「あらあら~! まだ気づいてないの~?」
「ガハハハ! よかったな! ロサリア!」
「何もよくねぇよ…………」
そもそもの話、一体どうやって俺を王城まで連れてきたのだろうか?
王城から俺の住む街まで、徒歩でおよそ3日。約60kmくらいは離れているはずだ。
それにもかかわらず、何故か王城と思わしき場所には、俺と母上、それから親父がいる。
「…………夢か?」
「ご主人様。動かないでください。上手く着せられません」
ラミィもいんのかよ。
目の前にはむむむ、と顔をしかめながら俺に色々な服を当ててくるラミィがいた。
ウコンのテレポートを使って輸送するのは不可能だろう。
一緒にテレポートできるのは1人までだし、何回も往復するほどウコンの魔力は多くない。…………いや、待てよ?
「ウコン。お前も絶対いるだろ」
「バレたか」
ニヤニヤしながらウコンまで部屋の隅から出てくる。っつーか今ヌルっと出てきたけど隠蔽魔法でも使ってた?
おそらく、これはウコンが一人一人テレポートで連れてきたんだろう。
足りない魔力は俺のを使ったに違いない。
じゃあ、何故俺たちを王城まで連れてきたのか。
これはおそらく…………なんかの勲章を授与するためか。
今になって冷静に考えてみれば、魔族を2人倒し、親父の手助けはあったとしても七聖賢の一角である炎帝をも追い払ったのだ。
普通に考えれば、死亡者を出さずに魔族を追い払ったのだから、国を挙げて祝福すべきことだ。
だからこそ、こうして王城に呼び出し、勲章と褒美を授けるための式典を執り行うのだ。…………予想でしかないけれど。
黙ったまま連れてきているのは、親父と母上がからかうためにでもやっているんだろう。
「ご主人様…………その…………ごめんなさい」
俺が親父たちのいたずらに気づいて不機嫌になったのを悟ったのか、俺の服を整えながらラミィが申し訳なさそうにそう言ってくる。
「その…………当主様にお願いされまして…………」
「ガハハハ! ラミィもノリノリだったじゃないか!」
「当主様!? 内緒にしてくださると先ほどおっしゃって…………あ」
自分からバラしたことに気づき、バツが悪そうに顔を背けるラミィ。
「ラミィ?」
「…………ごめんなさい。慌てふためくご主人様を見たかった出来心でして…………」
「後でお説教ね」
「うぅ…………」
しょぼんとするラミィ。
なるほど、ここには俺の味方はいなかったわけだ。
「それで? これから俺は何をされるわけ?」
「あなたの想像通りだと思うわ。勲章と褒美の授与式よ」
「俺、礼儀作法とか不安なんだけど…………」
「少し無礼を働いても大丈夫だろう! 国王様はお優しいお方だからな!」
「街は? 主戦力がこんなに離れて問題はないのか?」
「えぇ。指示は出してきたから問題ないわ。それと、国王様は怒らせないほうがいいわよ?」
「…………え?」
「この人、一度国王様を怒らせて首斬られそうになっていたもの」
そう笑顔で言う母上と、そんなことはもう忘れたように不思議な顔をする鳥頭を見ながら、俺は背筋をブルっと震わせた。
え? 式典?
頭真っ白のまま、気づいたら終わってたよ?
[あとがき]
新作出しました。
ラブコメです。よかったら是非。
「美男美女しかいない学校で、フツメンの俺がモテる件。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます