第25話 七聖賢 炎帝

「お前…………マジで人間かよ!?」

「そうだが」


 地面と激突し、かなりのダメージを受けたのか、身体中のあちこちから魔力が漏れ出ている。4本あった腕も、魔力が流れ出ているせいで形を維持できなくなったのだろう、いつの間にか2本に戻っていた。


 もうコイツは動けそうにないな。


 後はあのちょこまか隠れて出てきてを繰り返す女魔族を片付けるだけか。


「ロサリア!」


 遠くの方からウコンが走って近づいてくる。かなりの速度だ。風魔法を使っているのだろう。


「…………ウコンか。コイツ、逃げ出さないように見張っといてくれ」

「わかった。住民の避難は終わったよ。家は…………結構壊れちゃってるけど」

「あぁ…………まぁしゃあないか。それよりコイツ、見張っといてくれ。俺はあの女魔族を捕まえてくる。殺さないようにな。後でいろいろ尋問する」


 そう言ってから、風魔法を使って高く飛翔し、屋根の上に着地する。


 さて、どうするか。


 姿を消した女魔族は今、殺気を抑えているせいで探知ができない。


 どうやって炙りだそうか悩んでいたところだが、いい案がある。


 おそらくあの女魔族は、腕4本の男魔族を回収してすぐに撤収するつもりだろう。単純な戦闘力だけで言えば、あの男の方が高いしな。小細工は上手いようだが、俺に勝てるとは思わないだろう。


 だが、一度倒したウコンの隙をつき、男を回収して逃げることならできると考えているはずだ。


 ならば、ウコンの近くにいる可能性が高いだろう。


「『ストーン・ワールド』」


 おなじみの岩のドームで魔族の男とウコンを囲う。


「『アイス・ウォール』」


 半径100mを分厚い氷の壁で覆う。


 ちょっと申し訳ないが、魔族を倒すためだ。


「『ファイアー・メテオ』」


 転生して初の炎魔法。


 隕石を全域に降らすと周囲の風景と同化していた女魔族がボロボロの姿で姿を現した。


「化け物……ですか……!」


 姿を見つけたので、降下し、女魔族が意識を失ったのを確認すると、氷の壁に注いでた魔力を止める。


 すぐに消える氷の壁。


「よし、これで終わりか」


 女魔族を抱え、岩のドームに近づいていく。


「終わったぞー」

「すごいね。魔族を一人で…………しかも相手は二人いたのに」

「こいつらは下っ端みたいなもんだろ。じゃあ、俺は軽くコイツらに尋問してるから、親父を呼んできてもらってもいいか?」

「屋敷にいるんだよね?」

「あぁ。それか、騒ぎが起こってるところにいるかのどっちかだな」

「わかった」


 ここを離れるウコンを見送って、魔族の二人を水魔法を使った糸で縛り上げる。


「んで? お前ら何しに来たの?」

「チッ…………まさかこんなところで死ぬとはな」

「いいから話せよ。痛い目見るぞ」


 俺がそう言うと、女魔族がクッと口を引き結んだ。


「ほらほら~。何? 戦争でも仕掛けに来た?」

「…………魔力だ。…………あの場所で、警戒基準を超える魔力反応があった。だから調査に」

「調査じゃなくて殲滅だったろ……」


 冒険者が全員倒れていたぞ?


「そこは……! ザインが勝手に…………」

「ほぅ? ではザインくん、何か申し開きはあるかね?」

「あんだよその喋り方…………魔王様のお達しなんだよ。一定以上の魔力が感知されたとき、報告かあるいは抹消、ってな。あそこで膨大な魔力を感じたから、消しに来た、ってわけだ」

「魔力の総量で判断? ガバくないか?」


 本当にそうなのだろうか。


 魔力総量が少なくとも熟練の魔法使いはいるし、親父のように魔力がなくとも恐ろしいほど強い人間もいる。


 それに、こんな抗争とは関係のない地でもそれが適用されているのだろうか。


 …………嘘くさいな。


「おい。嘘は通じな…………ッ!?」


 未だに舐めた態度をとるザインに、雷魔法をぶちかまそうと思った矢先、一瞬で二人の姿が搔き消えた。


「すまない。この子たちは僕の部下でね。返してもらいに来た」


 後ろから声が聞こえ、反射的に飛び退いて戦闘態勢を取る。


 いつの間にか、後ろには豪華な衣装に身を包んだ女が立っていた。


「…………魔族か?」

「初めまして。僕は通りすがりの魔族。同族が殺されそうになっていて助けないのはあまりにも非情だろう?」

「通りすがりに魔族がいてたまるかよ。んな防衛ラインガバガバじゃねぇぞ…………って言いたいけど魔族に侵入を許している時点で説得力ねぇか」


 やれやれ、と肩を竦めながらそう言う裏で、俺は背中に冷や汗を垂らしていた。


 俺が目で追えない速さ?


 決して油断はしていなかった。火事場のバカ力とか出されたときにすぐに対応できるようにな。


 速さだけで言えば間違いなく俺よりも、親父よりも早い。


 そして何より、気配の殺し方が上手すぎる。


 真後ろにいたのに気づけないことってあるのか?


「それで? 何者だ?」

「レディに先に名乗らせるなんて…………どうかと思わないかい?」

「それは悪かった。ロサリア・フォン・アスファルト。ただの貴族だ」

「ロサリア? あぁ、特待生だね。じゃあ僕も改めて自己紹介。と言っても、名乗る名はそれほど持ち合わせていないがね。僕は七聖賢の一柱、『炎帝』。よろしくね」



【あとがき】


 明日は原神のアップデート日でおそらく興奮しすぎるので更新できるか危ういです。ちなみに今日はフリーナの実践紹介PVを見ながら書きましたし同時に気絶してました。ヤバい。


 正気を保てるようがんばります。

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