第26話 レベル10の雷魔法
「炎帝?」
「あぁ。七聖賢の炎帝、と言った方が分かりやすいかな?」
七聖賢。
ゲーム内のシナリオに出てくる今の魔王の7人の配下のことだ。
炎帝と名乗った奴もその1人。
ストーリーでは、わりかし序盤に出てくる敵で、仲間には優しく、敵には厳しいタイプの僕っ娘。
「そんな高貴なお方が何故ここに?」
「言っただろう? 部下が死にそうだったんだ。助けに来て当然、だろう?」
2人を横に寝かせ、おそらく魔力で治療しながらそう言う炎帝。
魔族の身体は魔力でできているから、魔力を流し込むだけで治療が終わる。
マズイな。
先程の2人の魔族を倒した時にかなりの魔力を使ったせいで、今の魔力は4000くらい。本来の4割だ。
七聖賢でも弱い方の炎帝だが……4割の魔力でコイツを倒せるか?
「それよりロサリア君。いくつか質問をしてもいいかな? 気になっていることがあるんだ」
「質問によるな」
「そもそもの話……君は人間かい?」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。1人の人間が魔族を2人纏めて倒せるなんておかしいんだよ。数は少ないが、個の力が膨大なのが魔族だ。対して人間は、数は多いが、個の力は小さい。魔王軍と人間軍では、1対多で戦うのが普通だ。君のような人間がいるのは、魔王軍的にかなり困る」
「残念。人間だ。正体を隠している魔族でもなければ神様でもないただの人間だよ」
「そうか……」
納得したのかしていないのか、伺えない表情で言う炎帝。
炎帝から漏れ出る魔力は膨大だ。俺の倍は軽くあるだろう。
だが、魔法レベルは間違いなく俺の方が上。
ビビっていてもしょうがないな。
「で? やるの?」
「君はここで殺すべきだからね」
その言葉と共に、炎帝は軽く腕を振るった。
途端、目の前から炎の斬撃が俺めがけて飛んでくる。
「『アイス・アロー』ッ!」
氷の矢を大量生成し、斬撃に向けて一斉発射。
対になる氷属性の魔法をぶつけたことで炎の斬撃は俺に届く前に蒸発した。
「ふむ。……やはり脅威だね」
「斬撃出すならせめて剣持てや!」
魔王の魔法レベルは7属性オール9。
その下につく七聖賢はそれぞれの名が冠する魔法レベルが9だ。
つまり、炎帝は炎魔法だけで言えば、魔王と同じくらいの強さになる。
「さて、増援が来る前に終わらせるか」
そう言って炎帝が俺の方に向けて歩き出す。
少しでも変な動きをしたらすぐに反応できるように目を離さず炎帝を注視する。
「ッ!?」
「遅いね」
速すぎないか!?
ゆるりと一歩を踏み出したはずの炎帝が、いつの間にか俺の横にいた。
力任せに腹を殴られた俺は、吹っ飛んで家の壁に激突する。
どこが痛いのか分からないほど全身が悲鳴を上げている。
今…………ぶん殴られた時、肋から聞こえちゃいけない音しなかったか?
何本折れたかは分からないが、悠長に治させてくれる暇もないだろう。
再びこちらにゆるりと歩き出した炎帝が俺に笑いかける。
「今ので意識を保ててるのはすごいね。綺麗に入ったはずなんだけどな」
何か……何かコイツに対抗できるものはないか? 意識を引けて治療できる時間を……
炎帝を見据え、ポツポツと魔法の詠唱を始める。
「させるわけな……ッ!?」
急に飛び退いた炎帝。…………何が起こった?
「ガハハハ! よくぞ耐えたロサリア! 後は俺に任せろ!」
「剣聖!?」
……親父?
主人公のやつ、親父を呼んでくれたのか。そういやお願いしていたな。
「ロサリア! 遅くなってごめん!」
朦朧としてきた頭にそんな声が響く。これは…………主人公の声か。
「ウコンくん。息子を頼んだ」
「はい! お気をつけて!」
足音が一つ離れていくのと同時に、体がポカポカと温かくなってきた。
回復魔法か。
霞んできた目で炎帝の方を見ると、彼女は剣聖から距離を取っていた。
「『フレイム・アロー』」
数十本もの炎の矢を親父の方に飛ばす帝。
親父はそれを見据えると、手に持っていた大剣を肩に担ぎ……
「ぬぅうううううん!!」
大きく薙ぎ払う。
それだけで風が吹き荒れ、炎の矢はすべてあらぬ方に飛んでいった。
「さすがに2人庇いがら剣聖を相手にする気はないかな……。今日のところは帰るよ」
そう言うと炎帝は翼を生やし、2人を抱えて空に飛び立つ。
「ぬ!? 待て!」
ブン、と剣をぶん投げる親父。
剣は炎帝に向かって爆速で進んでいったが、ギリギリのところで回避される。
「逃がす……かよ…………」
「ロサリア!? まだ回復してないんだから喋らないで!」
ポツポツと唱え続けていた詠唱が完了する。
残っている魔力全てを注いだこの世界に来て初めてのレベル10の魔法。
炎帝のさらに上に黒い雷雲を作り……
「…………へ?」
「『サンダー・レイン』」
雨のような雷を、炎帝に降らせた。
【あとがき】
昨日更新できませんでした。すみません。
喉が痛くて休んでました。
もう治ったので今日から再び書きます。
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