第22話 風神 アーティシア

 武器屋を出た俺たちは、近くにあったベンチに腰を下ろして木陰で涼しい風に吹かれながら休憩していた。


「いいものは見つかりましたか?」

「あぁ。…………ごめんな。武器屋寄っちゃって。興味なかったろ」

「いえ、あそこにはアクセサリーもあったので楽しめましたよ」

「ならいいんだけど。……そろそろ昼時だし、どこかご飯でも食べに行かない?」

「かしこまりました。どのようなお店をお探しですか?」


 そう言われ、俺はう〜んと考え込む。


 なんでもいいんだけどこういう時になんでもいいって言ったら困らせるよな。


「なんかこう…………軽いやつ。あんまり胃に負担になんないやつ」


 考えた結果、中年のおっさんみたいな返答になってしまった。まだ朝ごはんが消化されきってない感じがするんだよな。胃にずっしりと残ってる。


 多分かなり想定外の答えだったろうが、ラミィは特に困った様子もなく、こくりと頷いた。


「かしこまりました。では、サンドイッチのお店にしましょうか」

「お願いします」


 ラミィに先導され、来た道を戻っていく。中央の噴水広場まで戻ると、ラミィは右方向に曲がり、料理店が立ち並ぶ道に入って行った。


「色んな店があるな」

「ここで食べれない料理はないと言われるほど、多くの料理店がありますね」

「ほぉ……賑わってるな」

「最近は魔王軍の進行も穏やかになってきているので市場も活発化しています」


 魔王軍。


 やはりいるのか。


 ここに来てから、命を賭けた戦闘とは無縁の生活を送っているせいで魔王軍と言われてもあまりピンと来ない。


 まぁ、ここは王都に続いて2番目の都市らしいし、前線とは遠く離れた場所だろうからそこまで被害は感じてないが。


 新聞はあるにはあるが、2、3日前の内容が普通に載っていたりするからあんまり使えない。仕方のないことではあるが。


「着きました」



 ラミィの声に顔を上げると、目の前にはオシャレな感じの木造建築があった。店内スペースは小さめだが、その分テラス席が多い。


 野菜とハムのサンドイッチを注文し、ラミィと共に2階に上がってテラス席で外の様子をボーっと眺める。


 やわらかな日差しが心地よく、遠くから聞こえてくる子供の声がいい具合に眠気を誘ってきた。間違いなく昼ごはん食べて寝ちゃうパターン。


「いい街だな」

「はい」


 こうも心地がいいと…………ん?


「ラミィ」

「いかがなさいました?」

「緊急事態。今すぐ屋敷に戻って親父に町民を保護するよう伝えろ。最重要任務」

「かしこまりました!」


 理由を聞かずにバッと店を飛び出すラミィ。


 彼女を見送ってから、俺はテラスの柵に足をかけ、大ジャンプ。



 隣の家の屋根に飛び乗り、そのまま屋根を伝って走り出す。


 穏やかな午後には似つかわしくない濃密で重たい魔力の余波を感じた。


 当然会ったことはない。見たことすらない。


 シナリオ上、こんなところで出会うはずもないことは知っている。


 だが、直感が間違いないと騒いでいる。


 膨大で邪悪な魔力の気配。


 魔族だ。


【ヒィロン視点】


 何が起こっているのか、私は理解できなかった。


 目の前で血を流しながら倒れているウコン。


 少し離れたところでも、ウコンと同じように多くの冒険者が倒れている。


「ウコン? どうしたの……? ウコン?」

「ヒィ…………ロン」


 掠れた声で目も開けずに私の名を呼ぶウコン。


「っぱ勘違いか? 馬鹿みたいにデケェ魔力が流れたから来てみたはいいが…………雑魚ばっかじゃねぇか」

「ザイン。何勝手な行動を! 魔王様がお怒りになります!」

「いいじゃねぇかよ。危険の目を未然に摘んだんだ。俺ら遊撃隊の仕事を全うしただけだ

ろ」

「しかし! この街には剣聖バルトが……!」

「物理しか脳のねぇ脳筋だろ? 七星剣様がいれば余裕だろ」

「だからと言って……!」

「あーあーうっせぇ! 止めらんなかったお前がワリィ。そんだけだ」


 目の前では2人の人が言い争っていた。


 2人とも赤い目にここらでは珍しい褐色の肌をしている。


「あ、ああ、あなたたちは……誰?」

「あ? まだ生きてる奴がいたか。人間は魔力が小さすぎて気づけねぇ。見てわかんねぇか? 魔族だよ」


 そうダルそうに言った男は、背中から翼を生やし、バサバサ廉かせて見せた。


「ウ、ウコンは……」

「あ? あぁ、それか。襲ってきたのはそれだろ? 斬っただけだ。っつーかお前もウゼェな。死ね」


 そう言った男は一瞬で私の前まで移動する と、大きく腕を振り上げる。


 反射的にウコンを抱きしめ、ギュッと目を瞑る私。


 しかし、いつまで待っても男の腕が振り下ろされることはなかった。


 恐る恐る目を開ける。


 すると、男はいつの間にか奥の方に飛び下がっており、それまで魔力を感じさせなかった女も殺意をむき出しにして、私と彼らの間に入った人物を睨みつけていた。


『駄目よ』


 頭の中で鳴ったその声は、今まで聴いたこともないような甘美な響きを伴っていた。


 陽光に照らされ、光り輝いて見える侵入者。



 この街でそれを知らない者は存在しない。


 街を出てすぐ近くにある丘の上には、大きな教会が立っている。


 聖堂の奥の部屋にある『神室』には、ただ1人を除いて何人たりとも入ることが許されていない。


 そこにある大きな窓から、常にこの街を俯瞰し続ける方。


 風神、アーティシア様が立っていた。



【あとがき】


 休日は昼時に更新をしていますが、今日は冠模試があり、書き溜めがない状況だったので模試後に書きました。


 疲労のあまり推敲すらできていないので誤字があるかもしれないです。先に謝っておきます。すみません。


今日のオススメ曲はこちら、米津玄師さんで『春雷』です。


 アップテンポな米津玄師さんの曲が好きです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る