第21話 街ブラデート②
冒険者ギルドを離れた俺たちは、そのままトレジャーストリートを歩いていた。
「ご主人様。先ほどから何か考え事をされているようですが……いかがなさいました?」
「いや……さっきのしゅじんこ…………じゃなかった。ウコンジュシとの決闘を思い出しててな。あのドームからどうやって抜け出したのか、色んな融合魔法で考えてみてるんだけどさっぱり思いつかなくて」
確かに岩の中に閉じ込めていたはずなのに、気づけば俺の背後や横に一瞬で現れた。
透明化でもできなきゃ無理だよなぁ。透明になる複合魔法なんて想像つかないし。火と水の水蒸気爆発で起こした煙とか…………いや、絶対ないな。音しなかったし。
「あれは無属性魔法の一つ、ワープあるいはテレポートかと思います」
「ワープ…………言われてみればそんな感じが……って、は? 無属性魔法?」
なにそれ、聞いたことない。
驚いたようにラミィを見ると、ラミィは不思議そうに小首を傾げた。
「ご存じありませんでしたか? 風、岩、雷、草、炎、氷のどの属性にも属さない魔法のことを無属性魔法といいます。ただ、これを扱える人は滅多にいませんね。おそらく、全人類合わせて5人いるかどうかというところでしょう」
待って何その初耳情報!? そんなんゲームにあった!?
「無属性魔法にはいくつかの仮説があります。最も有名なのは虹理論と呼ばれるものですね」
「詳しく」
「この世には7つの魔法の力がありますがそれを7つと定めたのは人間だということです。虹の色が人によって見え方が違うように、魔法の区分けも人間が勝手に決めただけで、明確な区切りがないと考えられています」
「ムッズ…………じゃあ、この世には7神以外にも神が存在するということか? 7神以外の神の加護を使って発動する魔法の総称が……無属性魔法?」
「そういうことですね。先ほどのウコンジュシ様ですが、彼は一度見た無属性魔法を全て扱えるらしいです」
「チートやんかいな」
「星の数ほどあると言われている無属性魔法の中でワープもしくはテレポートという有力な魔法を扱えるということは、書物などで読んだものでも扱えるのかもしれません」
「チートやんかいな」
そんな魔法があるのか。今後のアプデとかで追加される要素だったんだろうか。一切ゲームには出てこなかったんだが。ワープやテレポートはあまりにもチートスキルな気がするが、その分消費魔力は大きいのか。だが、今後学院に入学して主人公がカをつけていけば、消費魔力も気にならなくなっていくのだろう。
「は〜……世界は広いな」
「私もこの目で見たのは初めてなので驚きました」
しばらく呆気に取られていた俺だったが、いつまでもこうしてはいらないのでパンと頬を叩き、気合いを入れ直す。
「よし、じゃあ気を取り直して街ブラに戻るか」
「かしこまりました」
歩いていくと、店先に武器の看板がある店が見えた。
「ここは武器屋ですね。王都一の武器屋『ローレンツ工房』の一番弟子だったシュルツさんがここのマスターです。駆け出しから一流まで御用達のお店です。鍛造、手入れ、オーダーメイドなど、武器に関わることならなんでもしてくれますよ」
「おぉ! 入ってみたい!」
「かしこまりました」
ドアを開けると、ベルの音がカランカランと鳴った。
その音を聞いてか、店の奥から1人の大男がこちらにやってくる。
「見ない顔だな。はじめまして、シュルツだ。今日は何しに?」
気の良さそうなダンディなおっさんだ。
「武器を見に来た。少し見て回っても?」
「あぁ。うちは一級品の武器しか置いてねぇ。満足すると思うぜ」
店内をぐるりと見渡すと、装備品ごとに売り場が分かれている。
店はかなり広い木造建築で片手剣、短剣、大剣、魔法杖、斧、弓、槍、盾と8つに分けられている。後、お会計をするところに少しアクセサリーが置いてあるくらいか。
「はっはっは。坊主、彼女を連れて武器屋に来るもんじゃないぞ。武器に興味を持つ女の子は少ないんだ」
「そう……だな。その通りだ」
やっべぇ、リアルに武器屋に入るのが初めてだったからちょっと興奮して我を忘れてた。せっかくラミィと出かけてんのにラミィの興味ないところ行っても意味ないもんな。反省。
「いえ! 私は大丈夫ですので!」
「嬢ちゃん、少しだけだがうちにはアクセサリーも置いてあってな。それを見てもいいぞ?」
「じゃあ…………そうします」
シュルツにトコトコついてくラミィを見送って、俺は武器売り場に戻る。
「おぉ〜!」
リアル武器。かっけぇ!
「ん? 坊主。お前、双剣使いじゃねぇのか? なんで片手剣を見てるんだよ」
ラミィを案内し終わって戻ってきたシュルツがそう声をかけてきた。
「俺が双剣使いだってよくわかったな」
「腕の筋肉がほぼ均等についている。だが、筋肉量は重戦士ほど多くない。なら、片手剣の二刀流か短剣の二刀流のどっちかだと思ってな」
「なるほど」
さすがは武器屋。目がすごいな。
「それで片手剣を見ている理由は?」
「あぁ、実は俺、剣だけで言えば片手剣の方が得意でな。将来的にはこっちを使っていきたい」
「メイン装備を変えんのか……あまりオススメはしないが」
「今短剣を2本使っているのは、魔法のためなんだ。複数属性を同時に発動するとなると、素手じゃどうも効率と威力が低下してな。何かを媒介にしないと実戦じゃ使い物にならねぇ」
「複数魔法を同時発動?」
「こんな感じだ」
俺は両手を出して、右手から炎を、左手では水球を作る。だが、予想通り消費魔力の割には小さいんだよな。
「おいおい……十分すげぇじゃねぇか。魔法士としてやっていったほうがいいんじゃねぇか?」
「さっきも言ったが、剣の方が得意なんだよ」
俺がそう言うと、シュルツは顎に手を当てて低く唸った。
「その歳でその技量なら問題ねぇと思うんだが。……まぁいい、剣の腕も見せてくれ。ほらよ」
そう言って、シュルツは売り場にあった片手剣をヒョイッと投げ寄越してきた。
それを片手で掴み、剣を抜く。
軽いのに脆さを感じさせない。照明が反射して刃がギラリと反射しており、その剣の鋭さが伝わってきた。
「いい剣だな」
「知ってる。素振りをしてみてくれ」
鞘を床に置き、ゆったり剣を構える。
イメージするのは親父との対人戦。
一歩を踏み込み、体重を乗せて剣を振るう。それを軽くいなしてくる親父。そこからの反撃を俺も剣で軌道を変える。相手の力に逆らわず、そのまま利用してこちらの攻撃に応用。
攻撃、いなす、避ける、攻撃、攻撃、避ける、いなす、攻撃、いなす、避ける。
一通り剣を振るうと、パチパチとシュルツが拍手をしてきた。
「相手には勝てたか?」
「無理だな。すぐに負けた」
「だろうな。バルトを練習相手にするんだから勝てなくて当然だ」
「分かったのか!?」
「お前の太刀筋がアイツとそっくりだ。アイツとは旧知でな。お前、ロサリアだったのか。デカくなったな」
笑いながらそう言うシュルツ。
「お前が目指すべきは魔法剣士かもな」
「魔法剣士?」
「魔法と剣術を同時に使うやつだな。ピッタリだと思うぞ」
「なるほど……」
「剣としては片手剣に魔法杖の性能を乗っける感じだ。ま、使うやつはここ10年見てねぇから店には置いてねぇ。オーダーメイドになるな」
「それで頼む」
俺がそう言うと、シュルツは大きく頷いた。
「分かった。また来い、そん時に詳しく決めようぜ。今は恋人……じゃねぇのか、従者の子と出歩くのがメインだろ?」
「そうだな。ありがとう、また来る」
「おうよ」
剣を鞘にしまってシュルツに渡し、俺はラミィに駆け寄った。
【あとがき】
同じアーティストは選ばないようにして紹介してきたので、もうそろそろおすすめ曲が尽きかけているストレート果汁100%りんごジュースです。ヨルシカやYOASOBIなら全曲語れるのに…………
今日のオススメ曲はこちら、藤井風さんで「花」です。
最近出たばかりの曲ですが、藤井さんの気の赴くまま歌うような歌い方が好きです。
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