第20話 VS主人公 ①

「おい! 何指指してんだよ!」


 ラミィに説明するように指を指すと、スキンヘッドの男が俺に怒鳴りつけてきた。


「な? 言ったろ? ラミィは可愛いんだ。外を歩くとこういうのがホイホイ湧いてくるから気をつけるんだぞ」

「無視してんのか!?」


 唾を飛ばしながら叫んでくる大男。


「話す順番があっただけだって。そんなに俺と喋りたいなら喋ってやるよ」


 男の方に向き直り、肩をすくめながらそう言う。


「随分と喧嘩がしたいようだな……この俺様と!」

「できるなら穏便に済ませたい。手加減が難しそうだ」

「てめぇ……! 殺す!!」


 元々俺たちの距離はそこまで離れちゃいない。


 ギャリン、と耳障りな音が聞こえたと思えたかと思えば、奴の剣先は俺の目の先に突きつけられていた。


「ご主人様!?」

「大丈夫」


 血相を変えたラミィが俺の前に出ようとするのを手で静止させ、男の剣先を軽く掴む。


「危ないじゃないか」

「随分と俺様を煽ってくれたじゃねぇか。決闘だ!」


 顔を真っ赤にし、俺を睨みながらそう言ってくる男。


 いけない、少し煽りすぎたか。


「面倒だ。断る」

「あぁ!?」

「はいはい2人とも、そこまで」


 ブチギレて剣を捨て、俺の胸ぐらを掴もうとしてきた両手を掴みながら、何者かが割って入ってきた。


 俺と同年代……というか、同い年だろう。

 

 何故なら、俺はこの割り込んできた男を知っているから。


「チャヤンさん、相手は一般人ですよ。少し落ち着きましょう」

「ナニモンだ! ……って、え? ウコン?」

「はい、ウコンジュシです。冒険者ギルドに用があって通りかかったら、何やらものすごい声が聞こえましたので」


 爽やかそうに笑いながら言う男。


 そう、コイツはゲームの主人公だ。シナリオではいずれ俺を倒す奴。


 っていうかウコンジュシってなんだよシュジンコウでいいだろ。無駄に隠そうとすんなよ。


「で、でもよう、ウコン。元はと言えばコイツが生こいてきたせいでよぅ」


 主人公が来たせいか、妙に萎縮した様子のスキンヘッド。主人公より立場が低いのか。


「それもきっと、チャヤンさんがナンパしたからでしょう? あの子、すっごい可愛いですし」


 そう言いながらラミィの方を見、彼女に微笑みかける主人公。なんというイケメンムーブ。


 あまりのイケメン具合にレベル10相当の魔法の詠唱が口から漏れかける。


 ラミィもキュンと来てしまったのか、ササッと俺の後ろに隠れた。


「で、でもよぅ。一般人に舐められたままだったら俺たち冒険者の威厳が……」

「威厳なんてあっても食べれませんよ。はぁ、すみません、お二方。ご迷惑をおかけしました」


 ため息をつきながら俺らに向き直る主人公。


「解決したならそれでいい。それじゃ、俺たちはここで」


 そう言って、さっさとこの場を離れようとくるりと後ろを向くと、主人公が俺の背中に声をかけてきた。


「あ、ちょっと待ってください!」

「まだなんかあるのか?」


 俺が振り返ってそう聞くと、主人公はタタっと駆け寄ってきて背伸びをし、俺の耳に囁きかけようとしてきた。ちょい待て、薔薇が咲くぞ。ラミィがハッと口を押さえながらこっちをガン見してるぞ。


「アスファルト様でいらっしゃいますよね?」

「……知ってたのか?」

「はい。試験の空き時間にチラッと見かけたので。本日はお忍びですよね?」

「あぁ」


 それでコショコショ話をしてきたのか。気がきくやつじゃないか。


「敬語はいらん。要件はなんだ」

「わかった。じゃあ手短に。チャヤンさんが納得した様子を見せていなくてね。このままだとまた君に危害を加えるかもしれないから、その対策をしておきたいんだ」


 見れば、スキンヘッドは睨め付けるような目で俺を見ていた。


「謝罪をしろと?」

「違う。僕と模擬戦をしないか? 君が僕に負ければ彼の憂さは晴れるだろうし、君が勝ったら、ちょっかいをかけてくることはなくなるだろう。僕より強いということだからね」

「なるほど。……まぁいいだろう。寸止めか負けを認めるまで。魔法の使用はありでどうだ?」

「問題ないよ。場所はギルドの裏庭を借りよう。ここじゃ、通行人に迷惑だからね。…………それとありがとう。色々理由はつけたけど、本当は僕が戦ってみたかっただけなんだ」


 そう言うと、主人公は爽やかに笑った。


♢


「ちょっとウコン! また勝手に危ないことして! 今日はお買い物デートをする約束だったでしょ!?」

「ごめん、ヒィロン。これが終わったら一緒にブラブラしよう?」


 俺は何を見せられているんだろう。


 身支度を終えてギルドの裏庭に向かうと、主人公が性格のキツそうな女の子に平謝りしていた。懐かしい。ヒロインだわ。俺のタイプじゃなかったからあんまり知らないけど。確か主人公の幼馴染。


「あっ! あんたね! 私とウコンの時間を奪ったのは!」


 俺を見つけると、グングン近づいてきて俺にそう言うヒィロン。


「ちょ、ヒィロン!? 落ち着いて!?」


 俺の立場を知らないで喋りかけてきたヒィロンに青ざめながら言う主人公。


「頑張りなさいよ! 勝ったら、と、特別にちゅーとかしてあげるわ! ご褒美としてよ!? 私がしたい訳じゃないから!」


 大きくなったらうちの母親みたいになりそうだな。


「始めようか」

「うん、よろしく」


 かなり広い裏庭のど真ん中で向かい合う俺たち。


 急遽作られた観客席と思わしき場所には、主人公の戦っている姿を一目見ようと集まった数多くの女冒険者と、ニヤニヤしながら俺を見るスキンヘッドがいる。ラミィも端っこにいた。


 なにこの圧倒的アウェー。


「それでは、冒険者ウコンジュシとロサリオの決闘を始めます! 両者正々堂々頑張ってください! ウコンさん、応援してます!」


 審判であるギルド受付嬢がそう宣言する。ちなみにだが偽名を使っている。バレたら面倒だしな。


 後もう一回言わせて。なにこの圧倒的アウェー。


 今も主人公に激励の言葉を述べている受付嬢にジト目を向けがら俺はこのアウェー具合を嘆く。ホーム試合したいです。


「じゃあ……いくよっ!」


 そう言うと、主人公が一気に加速して俺に迫ってきた。予想より速い。だが、学院に入っていない主人公の魔法レベルや基礎レベルはそこまで高くはない。寝ぼけている親父よりも全然遅いな。


 ギルドから借りた短剣の腹で主人公の剣を受け止め、ガラ空きの胴に蹴りをぶち込む。


 勢い任せに右足を振り抜くと、吹っ飛んだ主人公は土壁にぶつかり、そのまま倒れた。が、まだ立ってくるだろう。


「キツイの貰っちゃったな」


 そう言いながら、俺の読み通り立ってきた主人。思いの外ケロッとしているな。


「まだ終わらんぞ……『ストーン・ワールド』ッ!」


 主人公を包む岩のドームを作る。


 これで俺の勝利は確定だろう。


 親父のように『世界眼』があれば斬られてしまう恐れがあるが、魔力で硬度を増している岩だ。普通に斬れるはずがない。


 ドームに近づいていき、コンコンとノックする。ノックしてなんだけど、音って伝わってんのか?


「おい、降参するのがオススメだぞ。そこからは絶対出られ……ッ!?」


 突如、俺の背後からものすごい殺気が襲ってくるのを肌で感じた。


 それが何かを考える前に膝の力をフッと抜いて、倒れ込むように体勢を崩し、横に薙ぎ払われた剣を躱す。


「おいおい! どうやって出たんだよ!?」

「なんでこれを躱せるのかなぁ!?」


 大きく距離を取って相手を視認すると、何故か主人公がドームの外に立っていた。外したのか? いや、そんなはずはない。躱せるような体勢じゃないのを見て閉じ込めたんだ。


 じゃあ、どうやって外に出た?


 ドームに斬られた形跡はないが…………もう一度やってみるか。


「『ストーン・ワールド』ッ!」


 今度はさっきよりも大きな範囲で包み込んでみる。


 集中を切らさず辺りに気を配っていると、突然、隣から死の気配がした。


「……ッこだろ!」


 迷わず双剣を振ると、ギィィン、と剣と剣がぶつかる感触がした。


「ロサリオ! 君、勘良すぎない!?」

「お前も俺の必勝法破ってくんなよ!」


 剣の先には主人公がいた。


 やっぱり理屈が分からない。どうやって外に出てる?


 鍔迫り合いが続く中で思考を働かせるが、一向に思い浮かばない。


 剣の先にいるロサリアも、俺を倒す方法を考えているのかかなり真剣な様子だったが、やがてフッと笑うと突然叫んだ。


「降参!」

「は!?」


 急に剣にこめていた力を緩め、そう言った主人公。


「駄目だ、勝てないや!」

「え、ちょっと待てよ。接戦だったろ!?」

「あの岩を抜けるのはすっごい魔力を消費するからね。正直、もう魔力は空っぽなんだ。君はまだ、有り余ってるだろうし」

「そう…………なのか」


 本当に魔力が切れたのか、ダルそうに座り込む主人公。


 やはりあのドームに囚われてはいたのか。抜け出した方法は未だ分からないが……


「ウコン!」


 地面に座り込んだ主人公に駆け寄るヒィロン。


「ごめん、ヒィロン。勝てなかったよ」

「バカッ! 自分を大事にしてって始まる前に言ったでしょ!」

「……言ってたっけ?」

「言ったわよ!」


 言ってない。


「ごめん、次は気をつけるから。…………ロサリオ、後のことは全部任せて。引き止めてごめん」

「……わかった。頼んだぞ」


 主人公が頷いたのを見ると、俺はラミィの元に向かう。


「あっ、あの! あなた、冒険者じゃありませんよね!? あの高度な岩魔法に戦闘センス。冒険者をやってみませんか!? ウコンくんに勝てるなんて…………勇者級の才能がありますよ!?」


 横から声が飛んでくる。審判をしていた受付嬢だ。


 どう対応しようか困っていると、後ろから主人公が助け舟を出してくれた。


「あっ、カレンさん! 鑑定して欲しいものがあったんです!これ、白龍の鱗なんですけど…………」

「「「白龍の鱗!?」」」


 主人公が降参を宣言していた時には静まり返っていたのに、一気に大騒ぎになったギルド。


 その隙を見て、俺はラミィと共に冒険者ギルドを抜け出した。



【あとがき】


 そろそろ新作ラブコメを出すのでそちらも見てもらえたら嬉しいです。カクコン用です。


 今日のオススメ曲はこちら、あいみょんさんで『貴方解剖純愛歌〜死ね〜』です。すごいタイトルしてますよね。でもめちゃめちゃ好きな曲です。MVは怖いです。

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