第14話 父母のイチャイチャ

「もうっ! あなたもロサリアも朝食に遅刻するなんて…………どういうつもりなの!?」


 食堂に入ると、俺のマッマであるクルシュがぷんぷん怒りながら席に座って待っていた。


「すみません母上。 俺は早く切り上げよう、と言ったのですが、父上がなかなか解放してくれなかったもので…………」

「なぬっ!? ロサリア! 話と違うではないか!」


 知るか。朝早くから鍛錬に付き合わされたんだから、これくらいの理不尽は呑んでくれ。


 それほどまでに…………母上は怖い。


 俺ではなく、ロサリアの身体がビクビクと震えているのだ。


「あ・な・た?」

「ち、違うのだ! これには深い訳が…………」

「言い訳はいりません! 2人とも、早く席につきなさい!」


 母上の気を悪くしないようすぐに椅子に座る俺と親父。


 ちなみに、うちの机は異世界でよく見るどんな大家族だよと言わんばかりに広い長机だ。


 しかし、 親父はお誕生日席に座っておらず、片側に俺が、反対側に親父と母上が並んで座っている。


 …………まぁ、理由は後で分かる。


 3人座ったところで、家政婦たちが目の前に料理を並べてきた。


 恐らくムニエルらしきもの。ご飯が欲しいが、こんな異世界にあるはずもなく…………ってか、制作会社日本なんだからご飯くらい用意しとけよ。


 何を言うでもなく、無言で食べ始める我が家。


 静かに食事を進める中、親父の方からカチャカチャとフォークと皿がぶつかる音が聞こえてくる。


 それを無視して食べ進めていた俺だったが、痺れを切らした母上がバン、と立ち上がる音が聞こえた。


「全く! あなたったら…………貴族なのにこんなこともできなかったら笑われるわよ!?」

「む…………むぅ…………すまない」


 しょんぼりと落ち込む親父。その様子には、先ほど俺を圧倒していた威厳は全く感じられない。


 無理もないだろう。


 元平民の親父が、子供の頃にテーブルマナーを学ぶ横会があったとは思えないし、大人になってから直そうとしても、子供のように簡単に矯正したりはできないだろう。


「全く…………本当に手がかかるわね!」


 ため息を吐いて、文句を言いながら、母上は父上のフォークを掴むと、それで綺麗に料理を切り分け、父上の口元までフォークを持っていく。


「はい、あ、あーん」


 仕方なさそうにやっている母上だが、その声には隠しきれない喜びが滲んでいた。


「…………いつもすまんな」


 母上にあーんをしてもらいながら申し訳なさそうに言う親父。


「本当よ…………全くもう!」


 悪態を吐きながらも、顔を紅潮させ、目線を合わさずニヤける頬を必死に抑える母上。


 そんな両親の様子を死んだ魚のような目で見つめる俺。


 何故息子の前でイチャイチャするのだろうか。


 今はまだ普通にあーんしているだけだからいいが、どうせその内、キスも混ぜ始める。止める手段はない。 母上も親父も、信じられないくらい互いのことを愛しあっているからなぁ。


 親父と母上は、貴族では珍しい恋愛結婚で結婚した。


 元々平民だった親父が王様の姪っ子である母上の警獲かなんかを担当した際、互いに一目惚れをしたらしい。


 そこから、平民と王族の秘密の恋愛が始まったらしいが…………詳しいことは知らない。というよりも知りたくない。…………親の馴れ初めとか聞きたくねぇんだよなぁ。


 噂では、世間…………主に他の貴族から大ブーイングを受けた中、親父が国王の前で自らの命を賭けて御前試合をしたらしい。そんで、全勝した褒美に結婚の許可を貰ったとか。


 街にいる吟遊詩人が詠う時の一つにそうある。


「もうっ…………あなたったら……んっ…………食事中なのに……」


 いつの間にか母上が自席ではなく、親父に抱きつきながら親父の膝の上に座り、舌をねじ込みあっていた。息子からしたら恐怖以外の何物でもない現実に一気に引き戻される。


「…………ラミィ」

「はい」


 俺の後ろに控えていたラミィが、スッと前に出てきた。


「一つお願いがあるんだけど…………」

「あーんしてほしい、と?」

「違うよ?」


 否定したにも関わらず、いつの間にか目の前の魚を一ロサイズに切り分け、俺の方にフォークを差し出してきていたラミィ。冗談ではなさそうだが、一切の感情を感じさせない瞳で聞いてくるからわからねぇ。


 取り敢えずそれをパクッと食べておく。取り敢えずな?


「まぁっ、ラミィ! どうしたらそんな風に自然にあーんできるのかしら? 気になるわ。あとで私の部屋に来てちょうだい。…………いえっ、自然にあーんしたいとか、そういうのではないのだけど!」


 今更取り繕うなよ。


 誰に言い訳しているのかは分からないが、パタパタと手を振りながらそう言う母上にジト目を向ける。


 かしこまりました、と頷き、そのまま後ろに下がるラミィ。


 その様子を見届けると、母上は再び親父とイチャイチャするのに戻った。


 …………はぁ、辛いよな。分かるぜロサリア。


「ご主人様。先程のご用件はなんだったのでしょうか?」

「俺、寮生活がいい」

「もう既に、自宅からの通学で書類を提出したので、すぐには無理かと」

「マジか…………」


 親のイチャイチャを目の前で見ながら、俺はデカデカとため息をついた。


【あとがき】


 主人公のマッマを王様の娘ではなく姪っ子にしたのには水たまりの底より深い理由があります。 この後、王女を出すつもりなんですが、マッマを王様の娘にしたら、近親相姦が起こっちゃいます。


 それを未然に防ぐため、マッマは姪っ子です。


危ない危ない…………僕じゃなきゃ気付けなかったね。


 今日のオススメソングは宇多田ヒカルさんで「first love」です。


 友人とカラオケに行った際に、友人がこの曲を歌ったんですが、あまりの声の美しさに惚れ、そのまま告白してしまった思い出の曲でもあります。


 まぁ、半分嘘ですけどネ!

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