第13話 史上最強の剣聖

「ロサリアァアアアアア! おはよぉおおおおおおお!」


 不快な大声が屋敷中に響き渡る。


 あまりの大声にチラリと目を開けると、側にはラミィが既にビシッとメイド服を着て控えていた。


「…………今何時?」

「朝の5時半を回ったところでございます」

「早起きすぎだろ…………あの親父」


 ハァ、とため息をついて、諦めながらベッドから起き上がる。


 転生してよかったことは、ふかふかのベッドがあること。俺が使っていたやつより全然寝心地がいい。


 ノロノロとベッドから起き上がり、ラミィに手伝ってもらいがら服を着替える。


 動きやすい服装で部屋のドアを開けると、予想通り、目の前に俺の親父がいた。


「おはようロサリア! 鍛錬日和のいい天気だな!」

「おはようございます父上。生憎の雨模様なのは言わないでおきますね」

「さぁ、朝の鍛錬をするぞ!」

「はい。準備を済ませますので父上は先に道場で待っていてください」

「あいわかった!」


 精一杯の皮肉など、まるで通じていないような笑顔で頷く親父。


 昨日の入学試験で身体まだだるいんだけどなぁ。


 …………めんどくせぇ。


 ウッキウッキで道場に向かう親父の後ろ姿を見ながらため息をつき、俺は部屋に戻って身体を動かすためのストレッチをする。


「…………道場壊そうかな」

「旦那様が大泣きされるかと」

「だよなぁ…………」


 ストレッチを終えた後にステータスを開き、魔力が回復しているのを確認すると、俺はラミィと共に道場に向かった。



「模擬戦をするぞ!」

「父上。たまには素振りなどをしてはいかがでしょう?」

「断る! つまらん!」


 おい剣聖。


 駄々をこねる子供のように嫌だ嫌だと首を振る親父を見て、今日何度目かも分からぬため息を吐く。


「さぁロサリア! 剣を手に取るが良い!」


 仕方なく2本の短刀を腰から抜き放ち、姿勢を低くして構える。


「いつも通り、寸止めだ!」

「魔法は使ってもいいですか?」

「構わん!」


 いつも通り、というが、俺にとっては初めての模擬戦。


 距離はわずか3mほど。


 普通の片手用直剣と比べれば肉厚で長い長剣を構えているが、親父の身体がデカすぎるあまり、少し剣が小さく見える。


 前世では剣道をやっていたとか、そういうのはなかったので、こういう対峙は人生初の経験。


 大きく剣を引き、微動だにしない親父の姿を、目を瞑らずに見続ける俺。


 初動を見逃したら一瞬で敗北してしまうことは、俺ではないロサリアの経験に深く刻まれている。


「参るッ!!」


 そう言って親父が動き出した瞬間、俺は大きく後ろに飛んだ。


 前は予想していても、後ろに飛ぶとは思っていないはずの親父が、驚いたように目を見開くが、それも束の間、すぐさま突進してくる。


 親父が踏み込むと同時に、道場内の空気が震え、一瞬で親父の姿が消えた。


 その瞬間、俺は用意していたレベル2相当の氷下級魔法、『アイスロック』を無詠唱かつ方向を絞らず無差別に発動する。


 俺の右斜め後ろから、氷が砕かれた音が耳に入ったのと同時に、俺はそこに向かって短刀を振るった。


 ギャリィン、と金属同士がぶつかる不協和音。


 俺の短刀と交錯する片手剣…………その向こうにいる親父がニッと大きく笑った。


「よくぞ防いだ!!」

「『アイスロック』ッ!」


 今度は詠唱を入れ、方向を俺の目の前に絞り、全弾一斉発射。その数およそ50発。


 数発を剣で捌いて、残りを避けるように大きく後ろに飛ぶ親父。


 無防備になる着地の瞬間を狙って…………


「『ストーンワールド』ッ!」


 岩最上級魔法を発動。レベルはおよそ5相当の、岩でできた半球の世界を作り上げる魔法だ。


 地面から岩が出現し、一斉に親父を包み込んだ。


 範囲を親父の半径2mに絞った分、強度はかなり跳ね上がる。


 この世界で最も硬いと言われているミスリルと同等の硬さの持つ岩のドームが親父を包んだ。


 これでしばらくは出てこれないだろう。


 後は外から氷中級魔法、『アイスアロー』をぶち込みまくれば俺の勝…………マジか。


「…………化け物かよ」

「ガハハハ! なかなか硬かったぞ!」


 おそらく一刀で、俺のドームを壊した親父が笑いながら外に出てくる。


 これが当代『剣聖』バルト・フォン・アスファルトか。


 史上最強の『剣聖』とも名高いバルトは、平民出身の剣士だ。


 これまでの王国に対する働きによって、侯爵の爵位や、国王のいとこの娘と結婚する権利を勝ち取るなど、数々の伝説を残している剣士。


 バルトは魔法を使わない。というより、使えない。魔法に対する才能が一切ないのだ。


 その代わりに、人並外れた運動神経と反射神経、それから、Exスキル『世界眼』を持って生まれた。


 親父日く、世界眼の能力によって、実態のある魔法の斬り口が分かってしまうらしい。親父はそれを「魔法の核」と呼んでいたが。


 だから、今のように、実態のある魔法を使えば、彼に斬られてしまう。


 ロサリアの経験により、知ってはいたが、実際に見てみると恐ろしいものだ。俺には見えていない世界が親父の前に広がっているんだろう。


 だが、逆を返せば…………


「『ウィンドストリーム』ッ!」


 風魔法や回復魔法のように、実態のない魔法は斬ることができない。


 俺は親父の付近に竜巻を発生させる。


「むおっ!?」


 風に煽られ、身体が浮かび上がったところを、先ほど用意した『アイスアロー』を出し惜しみせずにぶっ放す。


 風に煽られながらも、飛んでくる氷矢を捌き続ける親父に背筋を冷やすが、攻撃の手を緩めないよう、『ウィンドシールド』で自らを風の盾で包み、地面に向けて炎魔法と氷魔法の最上級魔法を同時にぶっ放す。


 水蒸気爆発の激しい音と共に、親父の元に飛んでいく俺。


「トドメだッ!」


 親父に目掛けて短刀を振り上げる。


 俺の短刀が親父の首元に吸い込まれそうになった時…………


 キン、と、僅かに音がして俺は空中でバランスを崩す。


 何が起こった!?


 理解する間もなく親父は俺を足場代わりに使って体制を立て直し、俺の頭上に踵下ろしをしてきた。


 避ける術なくモロに喰らい、地面に激突する俺。激しい衝撃音と痛みが襲いかかってくるのを抑えながら、立ち上がると、俺の首筋にいつの間にか直剣が添えられていた。


「…………参りました」

「うむっ! ガハハハ!今日のはとてもいい動きだったぞ! ロサリア!」


 満足したのか、剣をチン、と鞘に収めて、道場の端っこまで歩いていき置いてあったタオルで汗を拭う親父。


 その様子を見て、俺はフッと息を吐き、そのまま地面に倒れ込む。


「ご主人様っ!?」

「大丈夫大丈夫。ちょっと疲れただけ」


 慌てて駆け寄ってきたラミィを手で静止させ、タオルを受け取っていつの間にかびっしょりかいていた汗を拭く。


「あそこまでして勝てねぇのかよ…………」

「旦那様も本気でしたよ」

「剣聖と本気でやり合えるのはいいことだけど…………あっち魔法使ってねぇんだよな。魔法使えてたら瞬殺されてたな」


 スキルレベルで言えば、間違いなく俺の方が高い。


 だが、スキルレベルだけで決まるわけではないのだ。


 基礎レベルがかけ離れているし、戦闘経験の差だって大きすぎる。


 負けるのは分かっていたが、それでも悔しいな。


「ロサリア! 朝ご飯の時間だぞ!! 早く行かないとママが怒る!」

「こっちの気も知らねぇで…………」



[あとがき]


 今回のおすすめは、Eveさんで、『心予報』です。


 声が好きなんや…………。


 後、MVの白髪の女の子がバチクソタイプです。ああいうヒロイン書きたいんですが絶対ムズい。

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