第7話 お弁当


 リオネッタが地面に倒れ込む前に、お姫様抱っこの要領で抱き抱える。


「審判。もう決着はついたんじゃないか」


 呆然とする審判にそう告げると、審判は止まっていた時間が再び動き出したかのように目をシパシパさせ、俺の方に旗を掲げた。


「こ、この勝負…………ロサリア・フォン・アスファルトの勝利とする!!」


 声を聞いた俺はフッと息を吐き、リオネッタの傷口から咲いている花を一本一本引き抜いていく。花と一緒に血が吹き出してくるのを、水魔法を派生させた回復魔法を使って、水球に包んだせいで濡れてしまった服を炎魔法で乾かし、取り敢えずの応急処置を完了させる。


「なんだったんだ…………今の勝負…………」

「次元が違いすぎる…………」

「あの子、大丈夫かしら?」

「人から花を咲かせる? …………恐ろしい」

「融合魔法なんて初めて聞いたぞ…………」


 野次馬がやいのやいの言っているのをガン無視して、彼女をしっかりと抱き抱えてから抜け出して医務室へと向かう。


「ご主人様」


 急に背後から呼び止められ、後ろを振り返ると、そこにはいつの間にかラミィがいた。


「ラミィか。どうかした?」

「医務の先生に事情を報告して参りました。既に治療の準備は整っているそうです」

「マジか…………めっちゃ助かる。ありがとう」


 頼む前にやってくれるとはシゴデキな女だな。日本にいたらめっちゃ仕事ができるOLになってそう。


「それとお疲れ様でした。さすがはご主人様。見事な完封勝利でした」

「ありがとう。でも結構疲れたよ」

「リオネッタ様は特待生ですからね。これからの相手は少し手加減をしても十分勝てるのでは?」

「それで負けたら恥ずいし、ちゃんと頑張ります」


 ラミィに先導され、医務室に辿り着くと、ラミィの言っていた通り、既に医務の先生がスタンバイしていた。


「この子ね。症状は?」

「魔力不足で気を失っているだけです。傷口は塞いだのと、軽く俺の魔力を分け与えたので少し休めば起きると思います」

「分かったわ。それじゃあ休ませるわね。ありがとう、君たちはもう帰っていいわ」


 リオネッタをベッドに運びながら俺たちにそう言ってくる医務の先生。


 特に残る理由もなかったので、ラミィと2人で医務室を出る。


 軽く首を回して首元のコリをほぐしていると、俺のお腹がぐぅ、と鳴った。


「昼食にしましょうか」

「ありがとうございます」


 恥ずかしさで顔が赤くなりながらも、校舎内の中庭に大きな休憩スペースがあったので、そこの草っ原に腰を下ろす。


「ご主人様。お召し物が汚れてしまいますのでこちらをお使いください」


 そう言ってどこからともなくラミィが取り出したのはレジャーシート。


 見るのが久々で一瞬、子供の頃に行ったピクニックを思い出した。


 レジャーシートでワクワクしながらお弁当を待っていると、ラミィが大きなバッグから、お弁当箱を取り出し、蓋をカパッと開く。


「本日はご主人様が最大限力を発揮できるよう、ご主人様の大好物のみを作らせて頂きました」


 弁当箱に入っているのはサンドイッチに鶏の照り焼き、それからりんご等、俺の大好物が詰められていた。


「それで昨日好物を聞いてきたのか」

「はい。お気に召していただけましたか?」

「大満足ですね!」


 一心不乱に食事をしていた俺だったが、ラミィが全く手をつけないのを見て俺も食事の手を止める。


「ラミィも一緒に食べよう?」

「ご主人様とお食事を共にするなど侍従にあるまじき行為です。私は後で頂きます」

「え〜。一緒に食べた方が美味いじゃん」

「しかし…………」

「このりんご。本来なら、お弁当に入れるりんごは風味は損なうデメリットを考慮した上で長く持たせるために塩水につけるのが普通だ。しかし、このりんごはカットでそのまま状態で入っているにも関わらず、シャキシャキの美味しい状態。これがどういうことか分かるか?」

「い、いえ」

「採れたて新鮮ということだ! だから一緒に食べようぜ?」


 俺が押しに押すと、ようやくラミィは小さく頷いた。


「…………かしこまりました」

「よしっ! どれ、りんごマイスターの俺が直々に選んでやろう。ふむ、そうだな、コレなんか絶対美味いぞ」


 そう言って俺は弁当箱の中から選りすぐったカットりんごを爪楊枝で刺し、それをラミィの口元に持っていく。


「ほれ、あーん」

「あ、あの……ご、ご主人様」

「ん? もしかしてりんご嫌いだった?」


 珍しく口元をもごもごさせながら何か言いたげに俺を見るラミィ。


「い、いえ。そういうわけでは…………いただきます」


 長い髪が垂れないように耳にかけ、ゆっくりと俺の指先に顔を近づけてくる。


 小さく口を開け、りんごをパクッと食べたラミィは手で口元を隠しながらゆっくりと咀嚼をする。その様子はさながらドングリを齧るリスのようだ。


 俺から目を逸らし、顔を次第に紅潮させながら咀嚼を続けるラミィ。


 なんでそんな顔が紅くなっているんだろう。人から食べさせてもらうのがそんなに恥ずかしかったのだ……ろ…………それだわ。


 りんごの美味しさに感動して、この美味しさを分かち合いたいばかりにあーんしちゃってたもんな、俺。


「すみませんでした。気づいてませんでした」

「い、いえ。謝るようなことではないので大丈夫です…………恥ずかしかった…………」


本当にすみません!



【あとがき】


 毎日更新にした方がいい気がしてきたので全力で書き溜めを作っているストレート果汁100%りんごジュースです。


 今日おすすめするのは、Ayaseさんで『ラストリゾート』です。


 高校1年生の時にめちゃくちゃハマって、一時期毎日聞いてました。


 今もよく聞きますがメロディがオシャで好きです。

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