第6話 融合魔法

「よし決めた。お前は潰す。何があってもぶっ潰す!」

「もしかして…………図星だった?」


 俺を見下し、嘲りながらそう言ってくるリオネッタ。


 あろうことか…………あろうことか俺を童貞などと!


 ふざけたことを言いやがって!


 一気に血が上ったが、心を落ち着かせるために深く深呼吸をする。


 その間、しっかりと戦闘体制に入ったまま集中を切らさないリオネッタ。


「なぁ、リオネッタ」

「なに?」

「お前に一つ、ハンデをやろう」

「…………ハンデ?」


 首を傾げる彼女に俺は不敵に笑いかける。


「あぁ。俺をここまで怒らせたのはお前が初めてだからな。勢い余って手加減を忘れてしまいそうだ。分かりやすいハンデを与えた方がいいだろう」

「手加減…………? …………ふざけてる」

「クックック。手加減しなきゃすぐ終わるぞ。そうだな、お前が使えるのは水、草、岩の3属性だったか? 俺も、その3属性のみで戦うとしよう」

「舐めた真似を…………後悔しろ!」


 そう言うや否や、ずっと背中に背負っていたままの木杖を取り出し、俺に向け…………


「『ロックエッジ』!!」


 短く詠唱を挟んだ後に彼女がそう唱えると、俺が立っている地面の周りから小さな小石がいくつも俺めがけて飛び出してきた。


 岩魔法はその名の通り、岩石に関係する魔法だ。


 大体の魔法は、対になる属性の魔法を用いれば無効化できるが、岩魔法を無効化できる属性はない。


 したがって、7属性の中でもかなり強いと思われるのだがそれはあまりにも魔法

と言わざるを得ない。


 この魔法の最大の弱点は、応用性がないこと。


 他の魔法との融合魔法がほとんどないのだ。


 腰から双剣を抜き、身体にあたる軌道のみ、小石を捌いていく。


 全ての小石を捌いた直後に、背後から殺気。


 俺は振り向きながらリオネッタの腕目掛けて回し蹴りをし、俺の顔目掛けて飛んできた拳の軌道を変える。


 リオネッタが手応えなく、少しバランスを崩したのを見逃さずに俺は彼女の腕を掴んで力任せに放り投げる。


 ぶっ飛んだものの、 試験場外に出ることはなく、彼女は地面に叩きつけられた後、ゆっくりと起き上がった。


「嘘…………あの手数で無傷?」


 リオネッタの顔は呆然としており、信じられないものを見るように俺を見る。


「地力の差だな。さて、次はこちらから行くぞ」


 俺が両手を前に掲げると、彼女は警戒したように腰を落とし、いつでも動ける体勢になる。


「お返しだ。『ロックエッジ』」


 俺の右手が淡く光り、宙に浮かぶ多くの石。その数はざっとリオネッタのそれの2倍。


「ッ!?」


 さらに、それらの石に張り付かせるように草魔法から生み出したある植物の種子を生成する。


「『グラスシード』」

「複数の魔法を……同時に!?」


 驚くリオネッタを無視して、俺は彼女に狙いを定める。


「『イーヴィーグラス』ッ!!」


 放とうとした直前に、俺の足元から蔦が出現し、俺の足を絡める。動けなくするためのものだろう。


 俺が一瞬、蔦に気を取られた間に、リオネッタが距離を詰めてきた。


 それを目視で確認し、全弾を一斉発射。


 弾丸のように降りかかる岩石を木杖や格闘術で捌くリオネッタ。次々と岩石が撃ち落とされるが、そのうちのいくつかが彼女の肌を掠めていった。


 よし、下準備は済んだな。


 彼女が傷を負ったのを確認すると、俺は岩魔法を解いた。


「身体が変になったらすぐに言えよ」

「……身体? 何を言っ…………ぐッ!?」


 急に地面に倒れ込むリオネッタ。


「な、何を……」

「岩石に張りつかせたのはマーテル草の種子だ。これで分からないか?」

「まーてる草? ……魔力暴走の薬の原料になる……あの草?」

「そうだ。ここで一つ授業をしようか」


 そう言いながら俺は『ストーンエッジ』を使って蔦を切り裂き、倒れ込むリオネッタに近づいていく。


「マーテル草が魔力暴走の薬に使われるのはな、あの草に魔力を吸収する性質があるから

だ。それで魔力暴走を抑える」

「そんなこと…………子供でも知ってる」

「そうだな。誰でも知ってることだ。なら、種子……いや、胞子と言うべきか。胞子にも同じ能力があることは知っていたか?」


 先どの『イーヴィーグラス』にかなりの魔力を持っていかれていたのか、顔をこちらに向ける気力もないリオネッタ。


「そうなの?」

「あぁ。つまりだな、お前がそこで倒れている理由…………それは、魔力不足だ。お前の身体の中では、先ほど俺が打ち込んだ胞子がお前の魔力を吸収している」

「魔力不足なら……短期決っせ……!?」


 不意をつこうとしたリオネッタが、一気に上体を起こしたが、俺が用意していた水球を見て、目を大きく見開く。


「そう、短期決戦だよな。だから、発芽させる。芽生えたマーテル草は胞子と比べて、吸収効率が段違いだからな」


 マーテル草の胞子は、魔力と水によって発芽する。水魔法で生成した水なら、マーテル草の胞子は一瞬で発芽する。


「そっか…………うん、負けか……」


 呆然としていたリオネッタだったが、悔しそうに笑うと、木杖を腰に下げ直す。


「いいよ、打って」

「いいのか? 準備しといてなんだが、お前、多分気を失うぞ?」

「負けたし、それくらいの経験はしないと。…………初めての負けだから、いっぱい悔しい思いをしておきたい」

「分かった…………まぁ、これに懲りたら俺を童貞だなんて揶揄わないことだな!」

「…………私がした攻撃の中でそれが一番効いてない?」

「男の子は見栄を張りたい生き物なんだ。覚えとけ」

「……はぁーい。…………いいよ」


 抵抗を見せないリオネッタを顔だけ出して水球で包み、指をパチンと鳴らして水球を破裂させる。


「融合魔法『開花』」


 次の瞬間、リオネッタの傷口から薔薇のような美しい花が咲き、彼女は気を失ってそのまま地面に倒れた。



【あとがき】


 塾のご飯を食べる休憩スペースを離れ、僕がコンビニに買い物に行っている間に、僕のバッグから音楽が爆音で流れていたらしく、とても恥ずかしかったストレート果汁100%りんごジュースです。


 その時に流れていた曲がこちら、サカナクションさんで『多分、風』。


 いい曲でとても気に入っていたんですが、この件があって以来、この曲を聴くと思い出しちゃうので少し恥ずいです。


 いや、よかったよサカナクションさんで。これで『粛清!! ロリ神レクイエム☆』とか流れてたら僕死んでたよ。


 皆さんも気をつけてくださいね!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る