第4話 試験前


 桜舞う春の季節いや、異世界だから桜は咲いてないんだけど。ってか、入学試験って日本と同じで春なんだな。ま、日本の会社が作ったゲームだから当然か。


 学園に次々と入っていく生徒たちをぼんやりと眺めながらそんなことを考える。


 くぁ、と欠伸をする俺の斜め後ろ、ラミィが一切音を立てずについてくる。…………音がしないとマジでついてきてるのか不安になるな。忍者か何か?


 今朝、俺は家の庭で軽く自分の能力を確認した。各魔法のレベル7相当のものを一通り使ってみたが、ヤバかった。試験では使えないな。まぁ、四天王より強い力だし、そりゃ家が吹っ飛びそうになるわ。いや〜ヤバかった。ハハッ。


 自分のイメージを基に無から有を創造する魔法。


 要はイメージ力の問題だ。


 俺の場合、日本ではアニメを見ていたので、イメージ力は十分すぎる。魔力の廻りも、魔法を使ったことでなんとなく理解した。


 Exスキルの【神の遣い】にあった魔力自動回復効果も検証済みだ。


 1秒で1回復。つまり、一分で60回復してくれる計算。


 ちなみに、レベル7相当の魔法を発動するのに消費する魔力がおよそ400だから相当コスパがいい。


「ねぇ、あれってもしかして…………」

「シッ! あれが噂の残虐侯爵だよ! 目をつけられたら終わりだよ!」

「終わりって…………どういうこと?」

「奴隷として売られた人もいるらしいよ…………ほら、あの後ろの従者もひどい扱いを受けてるらしいよ」


 後方から、女子二人組のひそひそ話が聞こえる。


 聞こえてるよ~もうちょっと音量小さくした方がいいよ~。


「その……ご主人様…………あまり気になさらないでください。私は…………」

「気にしてないよ。自業自得なのは分かってるし」

「……その…………頬に涙が…………」

「汗だから! ただの汗だから!」


 目から零れる汗を袖で拭いながら、校門をくぐる。


 校門を抜けた後、すぐに宮殿のような豪華な建築が俺たちを出迎えた。


 白を基調とした左右対称の造り。日本人に分かりやすく例えるなら…………国会議事堂みたいな?


 そんな建物の前に、大きな掲示板がある。


 そこに群がっている人々。


 おそらくだが、あれは受験番号と、それに対応する教室を示しているのだろう。


 ラミィ曰く、筆記試験は一週間前に終え、今日は実技試験のみらしい。


 ちなみにだが、ロサリアと主人公、それからもう一人。


 筆記、実技の両方の試験を免除された特待生が存在するが、結局この代は全員実技試験に参加しているのでぶっちゃけ特待生枠は必要なかったことになる。


 参加したのはそれぞれ理由が違うが。


 確か、主人公はみんなが試験を受けて入学している中、自分だけ免除されるのはフェアじゃない、とかいうよくわかんない理由。


 ロサリアが、自分と一般人の格の違いを見せつけ、絶望させるため。まぁ、かなり狂っている理由だ。


 そして、もう1人の理由は…………まぁ、後でいいだろう。どうせすぐ分かるだろうし。


 受験会場が書いてある紙に俺が近づいていくと、津波前の波のように人がはけていく。


「アレが噂の…………」

「人を恐怖のどん底に落とすのが趣味らしいぞ!」

「普段は人間の生き血を啜ってるらしいよ……」

「見ろ、あの冷酷な目つきを…………」


 アカン、どんだけ嫌われとるんや俺。


 これ以上俺のメンタルが削られ、汗を流さないようにするために自分の会場を確認し終えると、俺はさっさとその場を離れる。


「ラミィ」

「はい」

「これ終わったら、ご褒美にバフェ食べに行かない?」

「かしこまりました」


 流石にご褒美がないとメンタル死ぬんだよな、コレ。覚悟はしていたが、ここまで目の敵にされているとは思わなかった。


「A会場か」

「1回戦の相手は、ご主人様と同じく特待生の方だそうですよ」

「うん、そうだったね」


 そう、初戦の相手は同じく特待生の少女。名をリオネッタと言う。平民なので、姓はない。


 平民ではあるが、魔法の素質には素晴らしいものがあり、3つの属性を扱える。確か、岩、水、草の3つだったはずだ。魔法のスキルレベルは6くらいかな。


 ゲームでは、ロサリアからいきなりフルバワーの炎魔法を喰らって全治3週間の怪我を負った。何やってんねんコイツ。


「ラミィはカフェとかで休んでていいよ。チャチャっと片付けでくるから」

「そんなわけには…………ご主人様の勇姿を見届けます」


 ふんすー、と鼻息を荒くして言うラミィにキュンとしつつ会場に向かうと、そこにはすでにかなりの人だかりができていた。俺たちの前の試合でもやっているのだろう。


 少し離れたベンチに腰掛けて俺の出番を待つ。


 ぼんやりと人だかりを眺めていると、人だかりの後ろの方で、試合を覗き見ようとぴょんぴょんジャンプする小柄な少女がいた。


 目を引く銀色の髪に、自分の体の半分の長さはあるだろうという巨大な杖。


 俺の1回戦の相手、リオネッタだ。

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