第11話 オズの好きな食べ物
「で、オズは今日も町へ?」
「えぇ。今日は様子を見に行くだけだからと、私は家で薬草の手入れを任されて……」
あれから一週間。
毎日のようにオズ様は町に通い、魔法薬茶を配ったり、防疫の成果を確認している。
まだ一週間。
潜伏期間を考えても防疫の効果が出始めるのはもう少し先で、患者は未だ増え続けている。
オズ様は一か月は様子を見るとおっしゃっていたけれど、大丈夫かしら?
何せ朝も昼も夜も薬茶を作ったり町に行って動き続けているのだから。
ちゃんと眠れているのかも怪しいところだ。
「オズ様はちゃんと眠っているのかしら?」
表情があまり変わらないだけにわかりづらいのよね……。
「一応寝てるよ、二時間くらい」
「二時間!?」
まる子の衝撃発言に思わず手入れ中の薬草をぶちっと千切り取ってしまった。
ていうか、二時間って寝てるって言うんだろうか……。
「あーあー何やってんのよ。大丈夫よ、オズ、基本そのくらいしか眠らないから」
「そうそう、デフォだよ、デフォ」
「え……」
これがデフォ……だと!?
「眠れない、って言ったほうが良いのかもしれないけどね」
「眠れない? 不眠症なの? なら眠り草を食事に混ぜてみようかしら?」
私がここにきてすぐに出された魔法薬茶に入っていた眠り草。
その効果のほどは私自身体験しているからよくわかる。
「それでもだめ。すぐ起きちゃうのよ、オズは。ま、仕方ないことよ。本人もなんともなく起動してるし、大丈夫でしょ」
起動って……そんなロボットみたいな……。
でも、仕方がないこと?
怖い夢でも見るのかしら?
思えば私、オズ様のこともよく知らないのよね。
領地のことだって。
オズ様やこの領地には、何かがあるのかしら?
「……ねぇまる子、カンタロウ。オズ様や町の人は、王都を嫌煙しているようだけれど、何か事情でもあるの?」
思い切って尋ねると、まる子は黒い耳をピンと立て、カンタロウは黒い翼をぶるりと震わせて動きを止めた。
「あんた、ボケボケしているようで割と気づく子だったのね」
「ボケボケ……」
伊達に人の顔色をうかがいながら生きてきたわけではない。
顔色を窺って、なるべく怒られないように行動するのは、自分を守ることと同義だ。
もっとも、私は不器用すぎてなかなか上手にはできずに、よく叱られたり罰せられたりしていたけれど。
「セシリア、それは僕たちからは言えない。オズの、そして町の傷だからね」
「オズ様や、町の……傷?」
「そう。オズが話してもいいと思えた時には、きっと話してくれるさ。君になら、ね。だから、待っていてあげて」
オズ様が良いと思えた時に……。
そうね。誰にだってあまり人に言いたくないことだってある。
私が無理に掘り起こすのは違うわ。
「うん、わかった。待ってみる。でも……。私も何か、オズ様にしてあげられたらいいんだけど……」
タダでこんな立派なお屋敷に置いてもらっておいて、私は何もできていない。
ご飯作って、時々薬草の手入れや収穫をお手伝いするだけ。
あとは屋敷内の図書室で好きな時に好きな本を読んだり、町にだって行ってもいい。
庭で日向ぼっこをする時間だってある。
私用に服や肌のケアアイテムまで一式そろえてくれて、時々町でお菓子までお土産だと言って買ってきてくださる。
こんなに良くしてもらっているのに、私、オズ様に大したことはできてない。
「そうねぇ……。……そうだ!! あんた、料理上手なんだから、オズの好きな食べ物でも作ってあげたら?」
「オズ様の好きな食べ物?」
……って……何?
何出しても「うん、おいしい」と言ってくれるオズ様だから、今まで出したものは嫌いではないんだろうけれど、これが好き!! ってものを私は知らない。
「オズ様って何が好きなの?」
私が尋ねると、まる子とカンタロウが互いを見合ってにんまりと笑った。
「そりゃもちろん──」
「「チョコレートタルト!!」」
まる子とカンタロウの声が綺麗に重なる。
「チョコレート……タルト?」
「そう!! あんなクールな顔して、甘いもの大好きなんだよ、オズは」
「至る所にお菓子を隠し持ってるものね」
えぇ……意外過ぎる……。
でも、あの表情をあまり変えることのないクールな王様がチョコレートタルトを頬張る図……可愛い……!!
「よし!! まる子、カンタロウ、私、チョコレートタルト作ってみる!!」
ちょうど手入れも終わったし、作ってみよう、チョコレートタルト。
何より、オズ様の喜ぶ顔が見たい。
私はハサミと籠を持って屋敷の中へと駆けていった。
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