1人目 ひねくれ転生者の現実

「上級炎魔法・デスフレイア」


辺り一面が燃え盛る業火に照らされた。


そう、この世界は魔法が当たり前の世界だ。そんな、ありきたりな異世界転生。

最初はこんなのも悪くないだろう。


こうして、さっそく始まったノゾキ生活。

今日は、こうして彼の転生生活をのぞいている訳だ。


「俺、最強なのかもしれない」


拳を握りしめた少年の名は、ハイアルト・ユーティアス。

今世では、伯爵家の次男として、のびのびと生活をしている。


「やっべ、メイドさんが来ちゃった」


少年は燃え盛る庭をあとに、逃げるようにして姿を消した。

メイドは呆れたように、中級水魔法を用いて、消火作業に勤しんでいる。


「まったくユーティアス様は……」


彼が使った魔法は、上級魔法と呼ばれるもの。

上級魔法は、世界にも数えるほどしかいない上級魔導士しか使えない。


つまり、才能には溢れているわけだ。


それもそのはず、彼には「炎魔法 Lv.MAX」が転生特典が付いているのだ。

このスキルは、彼が進んで選んだものらしい。


「ふふふ、これで俺は最強の魔導士だ。この世界には俺に敵うものはいない!」


彼は自分の部屋に戻り、鏡に映った自分の顔に満足げに笑った。


「俺は、魔王を倒して、この世界を救う。俺は、勇者だ」


彼は自分の運命に確信を持った。


彼の人生を見ていく中で知ったのは、神視点から知れる世界の情報があること。

そして、ただの日常はあまり見ていて面白くないことだった。


彼はその後も成長していった。


青年期になって魔法総量も増えたようで、すでに最上級炎魔法も使いこなせるようになっていた。


しかし、努力をしなくても将来を約束されたようなもの。

だらけた生活の中には、彼の掲げた勇者の姿とは程遠いものがあった。


「ユーティアス様、今日はどこに行かれるのですか」


彼のメイドが尋ねると、彼は無気力に答えた。


「ん?ああ、今日は魔法学院に行ってみるかな」

「魔法学院ですか。それは珍しいですね」


メイドは驚いた表情を見せつつ、彼の着替えの手伝いを続けた。

それもそのはず、彼は前世に変わらず引きこもっているのだ。


「まあね、たまには勉強もしないとな」


しかし、メイドの嬉しい期待とは裏腹に、それもただの嘘だった。

彼がたまに魔法学院に行くのは、自分の炎魔法を見せびらかすため。


女子生徒を口説いたり、男子生徒をいじめたり。

ただの遊びに過ぎないのだ。


「ほら、見ろよ。俺の炎魔法を。最上級炎魔法・ヘルフレイア!」


彼は魔法学院の広場で、無作為に選んだ生徒に燃え盛る隕石のような炎の塊を投げつけた。


「きゃああああ!」


生徒たちは悲鳴をあげて逃げ惑う。


「「こっちにくんな!」」

「「あっち行け!」」


その男子生徒は全員に避けられつつ、どこまでも追ってくる炎の塊から逃げ惑う。


「やめてください!助けてください!」


男子生徒は泣きながら、周りの人に助けを求めた。


「誰か、ユーティアス様を止めてください!」


しかし、皆は大事をとって、距離を置くだけだった。

彼らの誰もが、ユーティアスには逆らえない。


ユーティアスが感じる羨望の眼差しは、実際ただの恐怖と憎しみだったのだ。

正直、見ていて気持ちいいものでもない。


あれほどの魔法を校内で使うのは、男子生徒だけの影響ではなく、校舎にも影響が出る。

さすがに見かねて、彼の脳内に語りかけてみることにした。


「神からのお告げである。今すぐにその魔法をやめなさい!」


彼ははっとした表情で、周りを見渡したが、誰もいない。

ただ怯えた群衆のみだ。


「ちぇっ白けたよ。神かなんか知らねーけど、干渉してくんな!」


そう叫ぶように言い放つと、学院をあとにした。

今回の話が学院側には伝わったようで、謹慎処分を与えられた彼は、また家に入り浸るようになった。


「ユーティアス様、なんで今回はあんなことを……」

「あいつは俺に失礼なことをしたんだぞ。あいつは俺のことを憎いって目で睨んできてたんだ」


ユーティアスはそう、メイドに怒鳴った。


「そ、それだけですか」

「それだけだ。あいつなんか俺の足元にも及ばない。そう伝えてやろうって思ったんだよ」


呆れて何も言えないメイド。

15年以上耐えに耐えてきた彼のメイドという仕事を、彼女はついに辞める決意をした。


「ちぇっお前も俺を置いてくのかよ」


今までのいじめの話や暴行、教師への反抗などを理由に、魔法学院まで退学になったユーティアス。

そして、それに見かねたユーティアスの父も、我慢が限界に達したのか彼を勘当とした。


「くそっ、くそっ、くそっ」


ユーティアスは悔しがった。


「俺は最強の魔導士なのに。俺は勇者なのに……」


ユーティアスはニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

そして、自分を鼓舞する。


「俺は一人で魔王討伐に行く。俺は一人で魔王を倒す。俺は一人でこの世界を救う!」


ユーティアスは自分を誓った。


実際、そこからのユーティアスの活躍は目を見張るものがあった。


「最上級炎魔法・ヘルフレイア」


次々と敵を焼却していく。消し炭も残さない徹底ぶり。

魔物、魔族、悪魔。関係なく、すべてがユーティアスの炎には敵わないのだ。


しかし、世界を救っているか、という視点に立つと、なんとも言えない。

時には、森を全焼させたり。時には、街を焼失させたり。


感謝はされずとも、自己満にも魔王討伐を目指していく。


私もあれ以来彼には干渉していない。

あの時が最初で最後だと、そう思っていた。


「神級炎魔法・ゴッドインフェルノ!」

「神級炎魔法・ゴッドインフェルノ!!」

「神級炎魔法・ゴッドインフェルノ!!!」


史上最強、ユーティアスにしか扱えない、究極の炎魔法。

しかし、彼の前に立ちはだかるのは炎魔神イブリースだった。


「きみ、気持ちいい炎をありがとう!最高の気分だよ」


イブリースはユーティアスに微笑みかける。

そう、イブリースにはまったく効果がないのだ。


今までも、炎が効きにくい悪魔も存在した。

しかし、それを上回る火力で押し切ってきたのが裏目に出た。


「なんで、なんで効かないんだ!」


辛そうにも魔法を唱え続けるユーティアス。

さすがに見かねた私も、彼にメッセージを送ることにした。


「神からの伝言だ。今回は諦めて、早く逃げるんだ!」

「うるっせーーー!!!」


ユーティアスは空に叫んだ。


そんな彼にも、多少は愛着はあった。

彼の二度目の人生を、ずっと見てきたのだ。


「これが本当の炎だよ。魔神級魔法・イブリースフレイア」


しかし、私の刹那の願いは聞き入れられず、ユーティアスは全身で魔法を受けた。


「これが最後か……」


一瞬だった。

消し炭さえも残らない。


ユーティアスに対して、人として如何なるものと思っていた。

しかし、最後は手に汗握る展開を見せてもらった。


「とはいえ、残酷な現実なんだな……」


アニメなら、漫画なら、ここで大逆転もあったのかもしれない。

しかし、これは転生だとしても、一人の現実だ。


たった一度の転生チャンスを掴めなかった彼の魂は、もう二度と戻ることはない。

私は目をそっと閉じて、黙祷を捧げた。

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