転生覗見録(てんせいのぞみろく)

美桐院

第0話 天界人事部からの突然の内定

「ピンポーン、ピンポーン」


どこかで聞いたことのあるインターホンの音が、ノゾミの意識を引き戻した。


「うーん...もう朝? ...って、あれ?」


ノゾミは目を開けた瞬間、自分が見知らぬ場所にいることに気づいた。


周りを見渡すと、そこはどこまでも続く真っ白な空間。

ふわふわとした雲のような感触が足元から伝わってくる。


「ここ...どこだ?」


突如、目の前にキラキラと光る粒子が集まり始めた。

それは徐々に人型を形作り、気づけば眩いばかりの美しい女性が、大きな机に腰掛けていた。


「やっほー! 見藤みふじノゾミくん、ようこそ天界へ!」


金色の長い髪をなびかせながら、女性は笑顔でノゾミに手を振った。

その髪は、まるで重力がないかのように宙に浮かんでいる。


「え? 天界? どういうこと...」


ノゾミが困惑した表情を浮かべると、女性は手元の紙をペラペラとめくりながら話し始めた。


「あら、説明が必要よね。ごめんごめん、いつも順番を間違えちゃうの。」


彼女は、ペンを器用に指の間で回しながら続けた。


「まずはご挨拶から。私はリンカ。天界人事部の採用担当よ。そして残念なお知らせなんだけど...ノゾミくん、あなた、死んじゃったの。」

「え!? マジで!?」


ノゾミは思わず叫んだ。

胸がドキドキし、手のひらに汗がにじむ。


「うんうん、そうなの。交通事故。でもね、あなたにはとっておきの話があるの!」


リンカは、まるで友達との楽しいおしゃべりをするかのような軽い調子で話を続けた。


「ノゾミくん、あなたに天界での素敵な仕事が決まったわ。おめでとう!」

「ちょ、ちょっと待って! 死んだってことはわかったけど...仕事って...」


ノゾミの言葉を遮るように、リンカは嬉しそうに続けた。


「そう、仕事よ! しかも超レアな『ノゾキ神』っていう職業なの!」

「ノゾキ神?」


「簡単に言うと、異世界に転生した人たちの人生を覗き見る仕事よ。でもただ見てるだけじゃないの。あなたは特別な『ノゾキ神』。転生者たちにアドバイスを送ることもできるのよ!」


リンカの説明を聞きながら、ノゾミの頭の中は混乱していた。

死んだこと、天界にいること、そして突然の仕事の話。


でも、どこか心の奥底で、不思議な高揚感を感じていた。


「ねぇ、コーヒーブレイクはあるの?」


思わずノゾミが口にした質問に、リンカは大笑いした。


「あはは! もちろんよ。雲コーヒーが絶品なの。」


リンカはウインクしながら答えた。


「さぁ、それじゃあ早速仕事の説明に入りましょうか。ノゾミくんの『ノゾキ神』としての新生活、始まるわよ!」


こうして、ニートだったノゾミの、予想外の天界でのキャリアがスタートした。

彼の前には、無数の光るスクリーンが現れ、それぞれに異なる世界が映し出されている。


果たして、ノゾミは転生者たちの人生を覗き見ながら、自分の幸せを見つけることができるのだろうか?

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