第47話
「ここから先は、離れるな。俺を見失ったら、迎えが来るまでその場から動くな」
どっからどう見ても、草原。そのど真ん中に立って。
一旦止まり師匠は、全員へ注意を促した。それから胸ポケットから例の方位磁石を取り出す。
師匠、森なんて見えないです。周囲の見晴らしはとっても良いです。
それなのに。
「この先は、原始の森だ。この森は迷宮のようだと言われている。
指針を持つ者が居なければ、この先は入れない。そして、一旦入れば、指針が無い者が単独で出る事は叶わない。
入るときだけ、一列になって手を繋いで入る。しばらく行けば、手を放して大丈夫だ。この先は、何があるか判らない。お互いに見失わないように気をつけてくれ。
先頭は俺が行き、
ルーベラさん以外は、師匠の言葉にポカンとしている。そりゃそうだよ。だって、森に入るって言うけどこの周辺、樹木なんて無いんだよ。
一面の草原で、森なんて見えない。皆、師匠の言葉に訝しんでいるが、彼は案内人だ。そして、師匠の様子から巫山戯ているわけでは無いのは、十二分に伝わってくる。
狐につままれたような気分のまま、言われたとおりに一列になって手を繋ぐ。師匠、
師匠と手を繋いだ聖女様が、ちょっと嬉しそうにしている。
「行くぞ」
手を繋いだ状態で、一歩踏み出した途端、周囲は鬱蒼とした森へと変わった。今まで自分達がいたあの、明るい草原はどこへいったのか。
「え、一体何が」
誰かが呟いた。誰もが、そう思っただろう。
「だからこそ、道案内がいなければ、入れないと言われている」
師匠は、事も無げに言う。
数歩進むと、一度立ち止まった。
鬱蒼とした森林内には道など無い。だが、樹木の間がそれなりに空いているため、歩けないことはない。
手を離してから、師匠はここに関する注意をしてきた。
「私が前に入った時は、瘴気が出現する前だった。その頃は、魔物等を目にすることは、殆どなかった。だが、現在はどうなっているのか見当が付かない。
だが、一つだけ変わらないことがある。この森の奥、世界樹のある場所には、世界樹を守る守護獣がいる。
彼には決して手を出すな。彼の者に手を出すということは、原始の森に手を出すことと同義と見なされる。無事に、この森から出られなくなる」
皆、それを聞いて頷いた。
「守護獣は、見るものによって姿が違うとも言われている。瘴気の影響でより姿が歪んでいる可能性もある。守護獣は、世界樹の守り神とも言われているし、本来なら浄化する者でもあると聞いている。
世界樹は他の樹々とは比較にならない大樹だ。大樹のそばにいる存在は守護獣だけだ。決して手を出すな。
それから、何度も言うが
師匠は右手で方位磁石を持ち、その針の指し示す方向へ向かう。その後ろをゾロゾロと付いて行く形になった。
「あの磁石さえあれば、森を進めるんだろうか。あれは魔導具なのか ? 」
「あれが、手に持てればね。確かに魔導具といえば、魔導具よね。
でも、鑑定でも方位磁石としか出ないのよ。だから、古道具屋でホコリを被ってたんだし。
あの方位磁石は人を選ぶの。今の処、あれを持てるのは私とマリウスだけね」
ルーベラさんが、彼の疑問に丁寧に答えた。ルーベラさんは割と親切に教えてくれる事が多い。ヒミツに関しては一言も教えてくれないが。
話を聞いて興味があったのだろう。最初の休憩で、
でも、面白かったのは、人によってその反応が違ったことだ。
「他にも持とうと思った人はいるのよ。でも、皆駄目だったのよね。人によって症状がなぜ違うのか、それも判らないの。持てさえすれば、この森の中でも迷わないのだけどね」
ルーベラさんが持てずにがっかりしている面々を見ながら、そう言った。
「師匠達が持ち主だから、他の人が持てないっていう可能性はあるんですか」
ふと、思いついて口にした。深く考えたことではないけど。
「ああ。その可能性はなんとも言えないが。私は無いと思っている。
元々これは私が古道具屋で見つけた。その古道具屋の店主が言うには、この方位磁石と相性が合えば良いだけらしい。これを持てた人間は、何人かいたと言っていた。それに、ルーベラがこれを持てる。
一人だけって決められているわけではなさそうだ」
そっか。
「原始の森に来たいと思う者は、何も世界樹目当てだけじゃないんだ。
この森にしか無いと言われている植物、動物、鉱物などがある。それの採取を目指して、この森に入りたがる者も結構いるんだ。入る方法もこの方位磁石だけではない。他の方法で入れる奴もそれなりにいる」
この森で採取などをしたい人々は、案内人を見つけるか原始の森に入るための魔導具などを見つけるかするらしい。
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