第46話
馬車の旅は、何も問題はなくサクサクと進んだ。道中は魔物が現れたりしたけど別段問題にはならなかった。たいしたものは出てきていないから。
「魔物が増えてるな」
師匠の呟きにルーベラさんが頷いていた。小型の連中ばかりだけど、遭遇する回数が多いらしい。そのためか野盗は少ないみたいだ。
「原始の森は、元々案内人がいればそれほど魔物には当たらないはずだが、こんな状態だから、覚悟はしておいた方が良いだろう。
対策はするけどな」
そう言われて、頷きでかえした。
「だからこそ小物はでないけれど、ってことになりやすい気がするのよねえ。面倒くさいのが出なければいいけど」
ルーベラさんがちょっとうっざいわっていう様に続けた。
「ま、何がでても、あの聖女ちゃんが頑張ってくれれば大丈夫でしょう。
マリウス、あなたが声をかけてあげれば彼女喜んで頑張りそうだけど」
揶揄い半分の口調で、後半は師匠にちょっかいをかけた。
ブスッとした表情で、師匠は何も言わなかった。学園でも、果敢に接してくる元義姉に、ウンザリしているのだろうか。
「お前な。無駄遣いする気はない。世界樹の所迄は、何もさせないのが一番だ。
だがな、なんなんだろうな、あれは」
そう言って、大きく溜息をついた。頑張ってください、師匠……。
元義姉はヒロインじゃないから、攻略対象者'ズじゃない人狙いなのは、仕方がない、ないのか ?
「あら、ソル。その黒い手甲どうしたの。前回はしてなかったわよね」
ルーベラさんに指摘されて、へにょっと笑ってしまった。そうなのです。今回、アッサム先生と一緒に作っていたのは薬類だけではないのです。
「新しく作った魔導具です」
によによしながら、ルーベラさんに見せびらかした。師匠は呆れていたが、いいじゃないか、中々の出来なんだからと思う。
「まあ、どんなことができるの」
「後のお楽しみです。そうは言ってもまだ試作品なので大したことはできないんですけどね」
原始の森の近くだと言われる村に着いた。馬車はここまでだそうだ。この先は案内人がいなければ、たどり着けないそうだ。
村を出立する前に、全員に二つの魔法陣が手渡され、衣服の胸の近くにあてて魔力を流すように師匠が指示をした。そうするとピタッと服に張り付いたと思うと、消えた。
特別あつらえの革を土台として銀糸で陣を描いた物だ。銀糸も工夫をしたものになっている。図案は師匠、作成は私だ。
「この魔法陣は特別誂えだ。一つは魔物避けだ。
もう一つは、居所がわかるようになっている。もし、逸れたら、じっとしていろ。声を出さねば、魔物に関知されない。
余力があれば、すぐに迎えに行けるだろう。最悪の場合は、帰りに拾っていく。生きてさえいれば、必ず迎えにいけるから待っていてくれ」
原始の森は、ダンジョンのようだと言われるが、似て異なるところだそうだ。
基本は案内人がいなければ入れない。万が一、入れたとしても、奥に進めることはない。しかも魔物はあまり出ないものの、出口が分からないまま野垂れ死にするのが殆どだそうだ。運が良ければ、出られることも稀にはあるそうな。
「魔物避けも万能じゃない。逸れたら、声を出すな。声を出さずにいれば、目の前に魔物が来ても、襲われることはない。手を出しても、気づかれるからな。ジッとしてやり過ごすか、徐々にその場を移動して逃げれば、問題はない」
それって、胆力いりませんかね。話を聞きながら思う。できるかなと。極力魔物は倒さない前提なのか。
「あまり、神経質になっても仕方ないわよ。もし、はぐれたら寝て待っていればいいわよ。サクサク行って、用事を済ませて、帰ってきましょう」
ルーベラさんが気軽に声をかける。王太子達は少し顔が引き攣っているのは、緊張しているからかな。でも、あれは顔が引き締まっていると言ったほうが良いのかな。
師匠とルーベラさんは、お気楽な顔をしていて、なんかいい意味で気が抜けた。まだ入り口でもないのに、緊張してもね。
彼等は、何時になく静かだった。
村の周囲は、広い範囲で裸地に近い草地として維持しているようだ。しばらく行けば、疎林になっている。先に進んでも、それほど樹木が密生している様子はみられなかった。
ただ黙々と歩いていると、ハンドサインを受け、立ち止まった。ブッシュから大型の魔虎がヌッと出てきた。
皆、誰も声を出さないでいると、まるでこちらに気が付かない様子だ。エリカセア様と元義姉は、手で口を押さえている。声を出さないためだろう。
師匠の組んだ魔除けの魔法陣符、すげえ。私は、ちょっと興奮気味だ。魔法陣、覚えたからね。またどっか行く時は使えるよね。
魔虎は、私たちの脇を何も気にしないまま通り過ぎていく。
少し、離れてから
「な、声を出さなきゃ、気がつかれなかったろ」
師匠の声に魔虎が反応した。彼のモノにしてみれば、突然人間が湧いたようなものなのだろうか、驚いたようだが直ぐに師匠めがけて跳びかかろうとしたのかもしれない。
かもしれない、というのは最後尾にいて最も魔虎の近くにいたルーベラさんが、一刀のもとに首を落としたからだ。その剣戟に、御一行は息を呑んだ。特に、剣の腕に自身があるネフィリィウムは鼻白ん表情だ。そだね、君らは前回の討伐、手際は良かったけど一人での対峙はしてなかったもんね。
「こんな所に、こんなヤツか。先が思いやられるな」
ルーベラさんの小声の独り言は、少しドスが効いていた。
そんな風にして、進み原始の森の入り口までやって来た。
草原じゃん。
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今しばらく、不定期になります。
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