第45話 出発

 3月、原始の森へ出発する。準備は着々と整えているし、魔方陣符もずいぶんと仕込んだ。師匠にちょっと呆れられたが。


「お前、その魔方陣符は。よくもまあそんなに作ったな」


へっへっへ。手先は器用なんですよ、旦那。


手元に残っていた自髪で使った魔法陣符は中々頑強にできている。自髪は、そのまま使わずに本当に薄くだけどミスリルでコーティングしてある。


ほんの少しだけだけど、手に入ったのだ。

師匠から頼まれた魔法陣については、すべてそれで刺繍をした。


下準備は大事です。原始の森への行程は1ヶ月ほどだと聞いている。


食料などはあちらで用意してくれるということなので、その他の現地での個人での必需品などは自分達で用意している。


アッサム先生に回復薬の作り方などを教わったのもその一環だ。簡易で作れるものもあり、現場での調合もできないか工夫していたんだ。

努力の甲斐あって ? 道具無しで錬金術のみでの簡単な方法も確立した。魔力量は問題ないから、力でごり押しみたいな感じだけどね。


でもその延長線上で、回復薬の元みたいなものも開発した。これ、わりと沢山持ち込めそうなので、力業もあんまりいらないかもしれない。でも、用心しすぎることはないだろうし。



「原始の森は、植生やそこで暮らす動物たちも複雑なんだが、一番の問題はそこじゃないんだ」

「何が問題なんですか」


「道案内をしてくれという依頼だったろう。あそこは、行き方を知っている人間とその人間に導かれた者しか入れないんだ」


「俺たちがあそこへ入れるようになったのは、偶然なんだけどな」


引き出しの中から、箱を出してきた。その中には古ぼけた方位磁石の様のようなものが入っている。


様なと言ったのは、普通の方位磁石と違って、方位磁針が二つの方向をしめすようになっているのではなく、時計の針のような感じで一つの方角だけを示しているからだ。


それに、方位が書いてある文字盤の部分には東西南北のEWSNではなく、青白赤黒の色がある。そう来ましたか。


「ソル、こいつを持ってみろ」

言われて箱へと手を伸ばし取ろうとすると、方位磁針がくるくると回り出し全体が真っ赤になった。突然熱せられたように熱を帯び、あまりの熱さに指を直ぐに放した。

「アチッ」


「お前も駄目か」

ほんの少ししか触っていないのに、指先が少し赤くなっている。慌てて小さな氷を出して握った。


「この方位磁石は人を選ぶんだ」

師匠がそういって方位磁石を手に取った。まったく問題なく持っている。


「古道具屋で偶然見つけたんだ。これを手に取ることができるのは、俺の知っている限りだと俺とルーベラだけなんだ。この磁石がないと原始の森の奥には行けないんだよ」


ほえー。それで案内人が必要なんだと納得をした。えー、でもゲームやってたときに師匠には会っていないけどな。でも、確かに案内人とかいうのが、居た気がする。


確か王国側が雇ったんだよな。今回、師匠になっているけど、もしかして師匠って隠れキャラだったのかなあ。その可能性、高いかな。


ガッコの先生、そういうのもパターンの一つにあるよね。なんてこった ! 


しばらく愕然として口をきかなくなった私に、

「どうかしたのか」

と師匠が訝しんで聞いてきた。


「いえ、びっくりしたんです。そんなに不思議な道具があるんだって」


「そうか。ダンジョンの中とか色んなのが出てくるぞ。下手したら呪われたりもするから、鑑定が済むまでは身につけないのは常識だ。これも、そうした中の一つだと聞いた」


多分、師匠は私の言葉を信じていない。だが、無理に聞き出すこともしない。そういう人だ。



 出発の日。師匠の上着の胸ポケットに原始の森用の方位磁石は仕舞われた。懐中時計のように鎖がつけられていて、その鎖の端は胸ポケットのボタンの穴に括られている。


王都から2週間ほど馬車で行き、そこから先は徒歩になるそうだ。馬車も雇われている御者の人も前回と同じだ。今回は長期になるので荷物が多くなるかと思っていたけど、所々で寄る街などでも補充がきくそうなので、思ったよりは多くない。


王太子ご一行は聖女様なども含めて王城で色々と儀式というか式典があるそうで、私たちは王都の城門外にある冒険者ギルドの派出所で、一行を待っている。


王太子殿下は、なんと勇者様だそうだ。なんか国宝の聖剣とかを携えているそうです。さいですか。


王城で開かれたヤツは、その聖剣を授ける儀式もあるそうで。


「あんな面倒くさいものに出るのは嫌だ」

と言って師匠は、原始の森に行くための式典を不参加とした。そうだよね、一々面倒くさいよね、お貴族様とか王族とか大変だよねと思った。


「名誉だとかなんだとかいらないから、報奨金だけもらえれば良いわ」

というのはルーベラさんだ。


「所詮、私達は道案内役にすぎないから、向こうも参加して欲しいなんて思ってないわよ。馬車の御者だって、参加しないでしょ」


この二人、元貴族だけど完全に冒険者の方に馴染んでるよね。

そんなこんなを考えながら、馬車で待機してたら漸く御一行がやって来た。


王太子殿下は、前回はもっていなかった剣を腰に佩いている。あれが、聖剣なのかな。


式典の為の服を着替えて、いよいよ出発だ。






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私事でちょっとバタバタしております。

申し訳ないですが、少々お休みさせていただきます。


<(_ _)>

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