第43話 顔合わせ 2
野営の時の夜番は殿下達も含めて交代で行なうことになった。この辺はまだ安全だとは師匠の言。夜番から逃れているのは聖女様とエリカセア様だけだ。
「王太子殿下に夜番をさせるとは」
って、ネフィリィウム様は不満げだったが、ディオカルプス様がなだめていた。
「君らはダンジョンに行ったことがあるのではないのか。その時は、どうしてたんだ。全員が一斉に寝てたのか。役割分担に身分は関係ないぞ、そう言われなかったのか」
師匠に淡々と問われて、言葉に詰まっていた。学園での実習は皆が平等に扱われる。魔物は別に身分階級で攻撃の手を緩めてはくれないもの。
でも、彼の態度から王太子とかは特別扱いしていたんじゃないかと思える。短期間だったらいいかもしれないけど、長期にわたって誰かの負荷が偏っているのは良くないと思うけどな。女性陣二人を外しているのは、体力や攻撃力などの問題だ。
それに聖女には十分に休憩して貰い、万全の力を発揮して貰う必要がある。でも、一員としてきたのならば王太子は夜番から外す意味は無いと思うんだけどな。貧弱なら仕方ないけどとは思っても、口にはしない。
目的地の森に着いた。今回の目的は、魔物の浄化と討伐だ。瘴気にまみれた魔物が出現し、周囲に瘴気をふりまいているという。
王室としては聖女の浄化能力と、原始の森に同行する同伴者の能力のチェックも兼ねているんじゃないかと師匠は言っていた。相手は魔虎だと聞いている。銀級の冒険者が対応する魔物だ。
森に馬車では入れないので、森に最も近い村に預けることとなった。馬に必要な飼い葉なども用意して預けておく。御者さんもここで待機だそうだ。その辺の打ち合わせをするために師匠が向こうへ行っている。
さて、森へ入るための荷物を整理して確認していると、
「お前は荷物番なんだろ。これらの荷物もお前がまとめて運べ」
彼等の野営の道具などを差し出された。魔物が直ぐに見つかるかどうかわからないので野営の準備も持って行く。
私たちは、マントにくるまって寝るぐらいだが、彼等は寝袋や下に敷くマットも持って行くようだ。なんかそれ以外もありそうだが。
「何故ですか、個人装備はご自分で持って行って下さい」
「何を言うか、お前は荷物持ちだろう。これらを持って行くのは当たり前だろう」
「荷物持ちの部分を否定する気は無いですが、あなた方の個人装備まで持って行くいわれは無いです」
荷物になって嫌ならば、寝袋とかマットとか置いてけよ。
「荷物持ちのくせに仕事をしないとは生意気な」
彼は私に平手打ちをしようと手を振るった。が、ひょいっと避けた。
「貴様 ! 」
頭に血が上ったのか、鞘からは抜かないままで剣で打ち据えようとしたのか、剣を持った腕を後ろから来た師匠に掴まれた。
「何をしている」
「マリウス先生。自分は、仕事を拒否されたので躾けていただけです」
うわっ~、コイツの部下には
「そうは全く見えないが。俺には自分達で持って行く荷物を、勝手に押しつけているのを拒絶されたように見えるが」
「彼は荷物持ちとして雇われているのですから、荷物を運ぶのは当たり前でしょう」
「言っておくが、ソルは荷物持ちでは無い。私の補佐として付いてきている。君の指示に従う必要は一切無い」
師匠に冷たく突き放された。
「お言葉ですが、冒険者のランクも鉄級だと聞き及びます。今回の討伐もそうですが、原始の森でも使い物になるのか非常に疑問です」
怒りが収まらないのだろう、師匠に八つ当たりのように意見している。師匠は冷静な声で、
「ソルは、自分で自分のことはできる。どこであってもな。自分勝手な行動は控えて貰おう。君は今回のグループのリーダーでもなんでもないのだから」
そう言うと、荷物を指さして
「現地で、バラバラにはぐれることも十分に考えられる。
その間、自分一人で身を守り、食事をし、睡眠を取る必要がある。だから、自分の荷物は自分で持つべきだ」
さっきから、王太子達はこちらをずっと見ている。そちらの方へも向けて、
「自分のことは自分でするように。ソルは君らの雑用係や使用人ではなく俺の補佐だ。勝手に自己判断して雑用をさせようとはするな。乳母日傘でしか出掛けられないような奴は、足手まといにしかならない」
きっちりと言い渡した。
ネフィリィウム様は気に食わないのだろう。私のことをもの凄く睨み付けたが、師匠には逆らえないのか、仕方なく自分達の荷物を持っていった。ちらっと非常食まで持ってきていたのをみて、呆れた。
「マリウス先生。先生をみているとブランクがあるとは思えません。
先生の補佐とおっしゃいましたが、そちらのルーベラ様といい大丈夫なのでしょうか」
エリカセア様が私とルーベラさんについての疑問を投げかけた。
あー、まあね。そっか、使命を帯びている人間にしてみれば、私の存在は面白くないかも知れない。原始の森に一緒に行くことで、成功すれば役に立たなかったとしてもその栄誉に預かれるわけだからね。
どうみても平民の子供にそれをやりたくはないのだろうか。穿った見方かな。
「それは、心配ない。ソルは君らと同い年だが経験は積んでいる。ルーベラは私と同じ冒険者のランクだ。二人とも原始の森でも問題は無い。私にとっては君たちの方が未知数だ」
師匠は簡単に返した。そう言って貰えるのは嬉しいけど、まだまだ足りないところばかり何だよなあ、と思った。
年齢は学校を卒業している扱いなので、一つ上を称している。半年間は特例なので、今のところ年齢で帳尻を合わせているのです。説明するのが、面倒だもの。
森の浅い場所では、まだ獣ぐらいしか出現していない。先頭は師匠、殿はルーベラさん、私は遊撃隊みたいなもので、基本は師匠の後ろ、場合によっては少しだけ外れて採取したりしている。
きちんとした道があるわけではないので、後ろの皆様が歩きやすいように、枝を払ったり、石をどけたり、足下が悪いと注意を促したり、色々と気を配っている。そんなに鬱蒼とした森ではないので、少しは楽かも。
道中、小型の魔物やなにかが出てきても、基本は師匠とルーベラさんで始末しているので、あまり問題はなかった。まあね、私も遊んでるわけでもないからね。
周囲を探索したり、御飯の素を採取したり、捕獲したりもしている。美味しいものを食べたいと思うよね。
そう考えると、師匠に鍛えられてるなあと実感した。後ろはルーベラさんがいるので問題ないし。
皆で使う道具なんかは私持ち、調理道具も私担当です。だから、荷物は皆さんよりも多いと思います。そういう意味では荷物持ちでもあります。
皆さんのもつ食料は、非常食と昼ご飯の分。私の鞄は師匠から借りたマジックバックで、軽くなるのと見た目以上に入るんだけど限度がある。もう余分なものは、入りません。
さすが師匠、魔虎は案外簡単に見つかった。多少は手間取ったものの無事に魔虎の瘴気は払えた。瘴気を払い終えたときに師匠には見えないように、ルーベラさんに向けられた聖女様のドヤ顔は、見なかったことにしよう。
手際よく魔獣を仕留めたのを見て、ちょっと攻略対象者’ズを見直した。
ほんとにちょっとだけ。
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